Utopia
第8話 ようこそ!【Utopia】へ!
〈ようこそ!【Utopia】へ!〉
気が付くとそこは、真っ白な空間だった。目の前には一枚のウィンドウと、一本の木。
根は見えない。でも地面があるようにも思えない。巨木にも見えるし苗木にも見える。緑はなく枝のみの姿だが不思議と弱弱しくは感じず、雄々しく聳え立っているように見える。
〈早速だけど君のことを教えて!〉
ウィンドウに新しく文字が追加された。名前の登録らしい。
文の下にある入力ボックスに触れ、名前を入れる。おお、現実と何ら変わりなく体を動かせる。これなら慣れる必要もない。
名前は……適当にブルーでいいか。
〈君の見た目はどんな感じ?〉
次はキャラメイク。
てかウィンドウに文が表示されてるけど、これって目の前の木と対話してるってことでいいのかな?
そんな疑問を抱きつつ、着々とキャラメイクを済ませていく。身長をいじるとさすがに操作性に違和感があるらしく、いじったら注意が出た。
なので髪型や髪色、目や肌の色、あとは顔の造形をいじっておわり。もともと身長はあんまりいじらない派だし。
〈君は何が得意なのかな?〉
これは初期武器だろうか? ずらっと武器の一覧が表示された。剣一つとっても片手剣、両手剣、短剣、細剣と細かく分かれている。
〈どの武器を選んで、どうやって使うかは君次第!〉
そういうことなら、雑に使っても強そうな武器がいい。取り回しやすく、攻撃力があって、防御もある程度取れるもの……
〈片手剣とバックラーでいい?〉
Yesを選択。RPGはいろいろやってきたけど、だからこそ初期はこの組み合わせがいいと思った。使い慣れているのもあるし。
〈これで【Utopia】に行く準備はおしまい!〉
体が浮遊感に包まれる。表示されている文からして、ゲームの世界に入っていくのだろう。
〈【Utopia】ではこわーい魔物がたっくさん!でも君ならそんな魔物にだって絶対勝てる!〉
巷では圧倒的自由度が話題になっている【Utopia】。
〈これはこれから【Utopia】の世界で生き抜いていく君への祝福!受け取って!〉
浮遊感のほかに、何かに包まれるような暖かな感覚。抱擁でもされているかのようなその感覚は数秒で消えてしまう。
〈それじゃあがんばってね!ばいばーい!〉
最後の最後に、無邪気な子供のような声が聞こえた気がした──。
★
「ばいばーいじゃなくないぃぃぃいいい!?」
俺、高野蒼。またの名をブルー。ある日助けた女性から送られてきたゲームで遊ぼうとキャラメイクを済ませたところ……
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
絶賛高度1万メートルから自由落下中です! いや1万メートルは盛ったかもだけど!
自由落下する俺の体はぐんぐんと加速していき、頬肉が痛くなるまで広がっていく。え、ゲームスタートして一歩も動くことなく死亡マ?
「あそこに街あるじゃん!」
高高度からの落下なので地面に着くまでにある程度の時間がある。ここはゲーム、どれだけリアリティのある感覚だとしても所詮はゲームだと割り切れば、周りを見渡すくらいの冷静さは取り戻せた。
とはいえ、だ。街を見つけたからなんだというのだろうか。パラシュートなしスカイダイビングの真っ最中に地上が見れてわーいと楽しんでいる暇はない。
「ぶつかるぅぅうう!」
遥か上空にいた時にはその速度をあまり実感しなかったが、地面に近づくにつれいやでも実感してしまう。これ現実の俺大丈夫だよな? 洪水起こってないよな?
「っっ!」
ぎゅっと固く目を瞑る。ゲームだとしても地面に勢いよくぶつかる瞬間まで目を開けていられない。
さあこい!と、きたる強い衝撃に備え覚悟をする。
「……あれ?」
目を瞑ってからもう五秒は経っている。既に地面に接触していておかしくない時間だ。けれども一向にその衝撃は来ない。
恐る恐る目を開けてみると、そこには。
「ぎりっぎり……」
目先数センチ。軽く頭を振ればぶつかってしまうほど地面にギリギリな中空で俺の体は静止していた。確実に後処理が必要ですねこれ。起きたくねえ……
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