第12話 技能
朱音に連れられてきたのは、街から伸びる道の先にある森の中。初ログイン時に落ちてきたあの森だ。
「改めて説明するけど、このゲームってレベルがないの。RPGでは珍しくスキルもね」
「うん」
「でも、見ることはできないけどキャラごとにステータスはあって、基本的にはそれを鍛えていく感じ。ただここだけは現実と違って、能力に見た目が釣り合わなかったりするんだ」
「というと?」
「華奢なのに怪力とか、巨躯なのに身軽とかね。まぁ大体はキャラクリ通りのステにする人が多いけどね」
朱音に基礎的な内容の説明を受けつつ、さらに森の奥へと入っていく。だんだんと木々の幹が太くなり、鬱蒼と茂った草や空を覆い隠すほどの枝葉で視界が悪くなる。朱音曰くこの森はそこまで危険じゃないらしいけど、雰囲気で圧倒されてしまう。
「あとはそうだねー、スキルはないって言ったでしょ?」
「聞いたね」
「でも“技能”っていうのはあって」
「スキルと何が違うの?」
“スキル”という言葉を使わず“技能”などほかの言葉を使うゲームも少なくはないはずだ。
「説明が難しいんだけど……スキルだけどスキルじゃない感じ?」
「うーん……?」
「例えばほら、リアルで武術やってる人って、斬撃飛ばしたり矢の軌道変えたりできるわけじゃないでしょ?」
「そんなこと出来たらニュースだね」
「でも剣だったり弓だったりの技能はあるわけだ」
「あ、そういう?」
「わかった?」
「なんとなく」
つまりは、スキルとして非現実的なことはできないけど、技能として“それ”をするために必要な事柄ができるようになるのか。
「でも魔法とかはあるから完全な現実主義ってわけでもないんだよね。魔法使えばさっき言った飛ぶ斬撃だったり軌道が変わる矢だったりを実現できる」
「それは魔法っていう技能があるってこと?」
「ちょっと違うかな。魔法の技能ってよりかは
「なるほど……ちなみに朱音はあるの? オリジナル魔法」
「もっちあるよ!」
「見せてもらえたりは?」
「いつかね。オリジナルって強いプレイヤーほど切り札だったり生命線だったりするから」
「俺もいつか作りたいな」
「作れるよ。ちゃんと頑張ればね。私も協力するし、逃がさない」
「最後が本音か?」
朱音との付き合いはまだ短いが、それでも、彼女が本当に一緒に遊ぶ相手ができてうれしく思っていることくらいわかる。朱音の解説を受けて俄然興味がわいてきたし、やれるところまでやってみようか。
「それで? どうしてここに?」
気が付けばかなり森の深いところまで来ていた。木々の間隔は広いが、それ以上に幹の太さが尋常じゃない。一本一本が巨木であるがために、まるで自分が小さくなったのかと錯覚を起こしてしまう。
「せっかくだから技能を一つ会得してもらおうと思って」
「技能を?」
「うん、技能にもいくつか難易度みたいのがあって、その中で一番簡単なのから、会得する感覚をつかんでもらおうかなって」
「りょーかい。んで何を会得するんだ?」
「【採取】って技能。会得するとあらゆる採取の速度が上がって状態もいい感じになる」
それで森の中か。確かに初心者の俺でも簡単に行くことができて、尚且つ【採取】を会得しやすい環境と言ったら森であることは間違いない。
「個人差あるけど採取し続けたらそんなに時間かからないで会得できるはずだよ」
朱音のアドバイスを受けながら、採取ポイントを探していく。この森に自生するのは回復薬になる薬草や解毒剤になる薬草。暗いところで発光する苔なんかもあるらしい。
「数こなせば会得できるって思ってる人もいるんだけど、私が思うにどれだけ真剣にやったかだと思うんだよね。一つ一つ丁寧に」
「任せろ」
言う通り丁寧に採取をこなしていくと、だんだんとスピーディーに行えるようになってきた。どこを掴んでどう引っ張ればいいのかがわかる……これが技能?
「おっ、キミいい感じじゃーん。なかなかセンスあるよ?」
「いったい誰の真似なんだ……」
「まー冗談は置いといて、なんか感じた?」
「うん、少しだけどやりやすくなった」
「じゃあステータスを見てみて」
ステータスウィンドウを開く。そこには今までにない表記があった。
-ステータス
・所持技能
【採取】
これまで、ステータスには何も表示されていなかった。しかし新しく“所持技能”という欄が追加され、そこには【採取】の文字が表記されていた。
「おお……」
「その様子だと会得できたっぽいね。大体10分くらいかぁ……それなりに速いんじゃない? ま、私は5分もかからなかったけどね!」
マウント取らないと会話できないのか……? 素直にほめてくれるだけでいいじゃんか。
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