第5話 通報案件?

「俺も帰ろっと」


 そういえば、るなさんはどうしているだろうか。自分から家にいるっていうくらいだし、仕事は休んだのだろうが……

 高校から家まで歩いて20分程度。実家からはいくつかの県を跨ぐ。だからこそ引っ越して一人暮らししているわけだ。

 ちなみに俺の家を挟むように学校とコンビニがあるので、学校からコンビニまでは40分ほどかかる。同じ高校のやつが来たりする確率が低いのでとても助かっている。本当に。

 帰路の道すがら考えるのは、やはりるなさんのことだ。これだけの時間があればスーツも乾いているだろうし、どこかに鍵を隠して帰ってしまっただろうか。


「るなさんに限ってそんなことはないか」


 多分俺の帰りを待っているだろう。帰宅してお礼されてさようなら、って流れだと思うが。


「新作ゲーム、ねぇ」


 次に浮かぶのは楽しそうな朱音の顔。今まで何度かハマったゲームを紹介されているが、あそこまで楽しそうな朱音の姿は初めて見た。よっぽどお勧めしたいし、誰かと一緒に遊びたいのだろう。


「やってみたい気持ちはある……でも値段が」


 なんとなしにスマホで検索してみる。……おっふ。俺のバイトの給料二か月分、だと?


「超小型デバイス……リアルタイムシミュレーション搭載……五感感度調整……」


 どれも最新機種に搭載されている機能だ。まだまだある。


「最新型の最高グレードだと……」


 え、これがゲーム機の値段ですか? 一般家庭用の?

 液晶に表示されている金額は、とても学生では手の届かない。ゼロが二つくらい多いよ?


「でも値段相応のものなんだろうな……」


 説明が書かれているが、何が書かれているのかわからない。明らかに使いこなせる量を越している機能の多さに驚きよりも困惑が勝る。

 そうして調べながら歩いていると、すぐに家に着いた。


「あ、おかえりなさい」

「ただいま?」


 るなさんがいるし多分鍵はかかっていないだろうと思いノブを捻ると、やはりすんなり開いた。靴を脱いでリビングに行くと、そこにはるなさんの姿。

 るなさんは何やら部屋を物色している様子……通報案件?


「ま、待ってちょうだい。別に何か変なことをしようとしていたわけじゃないのよ?」

「こそこそ見つけづらいところを重点的に探ってる時点で変なことじゃないですか?」


 そんな人じゃないと思ってたのに……

 るなさんは焦ったように弁明を続ける。


「やっぱり助けてもらったらお礼したいじゃない?」

「それが部屋漁り?」

「違うのよ。ちょっと調べことを」

「何を調べてたんです?」

「色々?」


 聞けば聞くほど怪しいんだが?

 そっとポケットの中のスマホに手を伸ばす。いつでも通報できる。


「本当に何もしてないわ。通報して噓発見器にかけられても問題ないわ」

「本当に何もしてないんですか?」

「していないわ。それでお礼のことなんだけれど、今日はちょっと厳しいからまた今度、郵送するわね」

「いいですよ別に」


 話を逸らされた気もするが、まあいい。漁っていたといっても家具の裏を見たりベッドの下をのぞいたりで、散らかすことなくしていた。るなさんの言う通り、調べごとをしていたのだろう。何を調べていたのかはわからないけど。


「そうはいかないわ。私からの気持ちよ。受け取ってほしいわ」

「でも……」

「断っても送り付けるから」

「それお礼じゃなくて迷惑」

「まあ蒼くんにとってはいいものだと思うから、楽しみにしててね」

「はぁ、ありがとうございます」


 るなさんがしたいといっているのだ。強く拒否するのも違う。後日送られてくるというお礼に少し期待しながら待とうじゃないか。

 それからるなさんは、乾いたスーツを着て帰っていった。夕飯くらい一緒に食べていけばいいと思ったのだが、今日休んだせいで仕事が溜まっているらしい。明日は土曜日だけど……休日出勤?


「さてっと、どうしようか」


 いつもは決まって土日にバイトが入っていたが、最近は人が多くなってきているせいか休みの日が増えてきている。自由な時間が増えるのはいいけど稼ぎが少なくなるのはちょっときつい。


「……」


 翌日のバイトに備えるため金曜の夜だとしてもいつも通りの生活をしていたけど、明日は休み。つまり生活が乱れたとしても問題はない……

 俺の視線がとあるものを捉える。それはるなさんが見つけた世代遅れの一品。


「久しぶりにやってみるか……」


 数年ぶりに起動して、適当に選んだソフトを遊んでみることにする。

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