第4話 お嬢様
休み時間になって、各々が次の授業の準備をしたりだべったりする中、俺の机に腕を置きその上に頭を乗せつつ上目遣いでこちらを見るというあざとい仕草で話しかけてくるやつがいた。
「アオが遅刻なんて珍しいじゃーん?」
「うっせ、昨日はいろいろあったんだよ」
結局俺は遅刻した。自分だけなら間に合ったかもしれないが、るなさんがまだ寝ていたり服が乾いていなかったりしたのでかなり時間を取られてしまったのだ。
るなさんは今日一日俺の家にいるらしく、勝手に物色したり物を取ったりはしないと約束を願い出てきた。
一緒に遊んで多少なりともその人となりがわかってきていたので約束して許可をだしたが、少し心配だ。
「色々って、バイトでしょ?」
「……まあそうだけど」
「あ、答えるまでに間があった! 怪しい……!」
「なんでもねーよ! それよりなんで
「話題逸らされたー」
「いいから教えてくれよ」
この目の前の少女、藤崎朱音は自他共に認めるゲーマー女子である。
家がお金持ちで勉強もある程度できて容姿も整っている。運動神経の無さが唯一の欠点だが、その穴を埋めるようにゲームの才能が少しだけあった。うまいというわけではなくゲームをプレイしているときの運動神経が高い、という意味だが。
そして本人もゲームが好きなため、学校以外のほとんどすべての時間をゲームに費やしているらしい。
「なんでって言われてもなー」
「朱音はずっとゲームしてるだろ?」
「うん」
「でも遅刻しない」
「しないね」
「なぜ?」
「さあ? 私基本自由に過ごしてるし。あ、もしかして起こしてもらえるからかな?」
「……さすがお嬢様」
そりゃ自分で起きれなくても起こしてもらえるなら遅刻しないわな。全然参考にならないじゃん。
「最近出た新作が超面白くてさ。アオもやらない?」
「俺に金がないの知ってて言ってるだろ」
俺がバイトしてるのは自由に使えるお金を稼ぐためのほかにも、食費に消えたりもする。家賃や光熱費は親が負担してくれているが、それ以外でもらえるお金は微々たるもの。自分で稼がないと食費で首が回らなくなる。
「だからさー、買ってあげるってば」
「いや、朱音にそこまでしてもらうわけには。高いし」
「気にしなくていいって。私も一緒にできる人ほしいし」
ただより高い物はない。かなりのゲームオタクなだけに、アプローチのつもりでゲームを始めた男子を片っ端から返り討ちにしてしまうため、常にゲーム友達がいないのだ。
「本当に大丈夫。もしやる機会があったら声かけるよ」
「私がドハマりしたら強制的にやらせるからね」
「だから……」
「私がもう一台買って、アオをらち……誘拐して有無も言わせずにインさせるから」
「言い直せてないぞ」
さらっと犯罪宣言したな?
と、ここでチャイムがなり、おしゃべりはお開きとなった。後ろ髪をひかれながらも朱音は自分の席に帰っていった。
それからもつつがなく時間は進み──かなりしつこく朱音からの誘いがあったが──放課後になった。
「かーえろっ!」
「校門までね」
「えー」
「えーって。だって校門出たら真逆だよ?」
「まあそっかぁ……仕方ないね。また来週ね!」
「うん、また来週」
恐らく新作ゲームが楽しみなのだろう。授業のコマが進むごとに元気になっていた様子からして、帰ったら即インしてそう。
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