第2話 近くて便利だった
「ここが俺んちです」
ワンフロア四室二階建ての計八部屋のアパート。そんなに広くはないがバストイレ別で一人で暮らすには不自由しない。
んで俺の部屋は二階の端っこ。真ん中あたりに階段がついていて、登って左側。
心配だったがちゃんと階段を上がれたのでよかった。ここまでくれば屋根がついているので傘はいらなくなり、両手で彼女を支えられる。
「今鍵を開けるんでちょっと待ってください」
ポケットから鍵を取り出し挿入。ガチャっと音を鳴らし開錠を告げ、ドアを開ける。
「すぐ風呂沸かすんで向こうで待っててもらっても?」
部屋はキッチンとリビング、トイレ、風呂くらいしかない。女性をリビングに案内し、俺は風呂場へ。スイッチで沸かせるタイプなのでポチっとしてから濡れた体をふくためのタオルを持ってリビングへ。
女性はそこで座るでもなく突っ立っていて、足元には小さな水たまりができていた。
「これで髪とか拭いてください。風邪ひいちゃう」
「あり、がとう」
女性はタオルを受け取ると言われた通りに拭き始めた。それをずっと見続けるわけにもいかないのでキッチンへ逃げる。
正直心臓はバクバクである。家に着くまではそうでもなかったが、こうやって一息ついてしまうと、今の状況に緊張してしまう。だってそうだろう? 滅茶苦茶美人な人と同じ部屋にいるんだぞ?
「な、なにか温かいものでも飲みます? コーヒーかココアか牛乳しかないですけど」
「……じゃあココアを」
「おけっす」
ポットで湯を沸かし、粉ココアを入れたマグカップに注ぐ。ついでに自分の分も。よくかき混ぜてから持っていくと、女性はやっぱり立っていた。
「あ、そのままじゃあ座れないですよね……」
服を貸す? それでもいいけど俺の心臓が死ぬ。てかこれから風呂入るんだよな……あれ、これもう詰み?
「どうぞ」
結局新しいタオルと使ったタオルを床に敷いてその上に座ってもらった。あのタオル今後使えるかな……
暖かい飲み物で体を温めていると、お風呂が沸いた。会話がなくて少し居心地が悪くなってきていたので助かる。
「お風呂湧いたのでどうぞ」
「でも……」
「俺のことは気にしないでください。あなたのほうが濡れていたので早く温まらないと」
「ふふ……ありがとう」
元気を取り戻しつつあった女性は今度はふらつくことなく立ち上がり、指示した場所に向かっていく。
「あ、着替え……俺のでいいなら貸せますけど」
「お願いできるかしら」
新品のあったっけなぁ。
女性が脱衣所に入ったのを確認してから、ガサゴソと探し物を始める。女性だし髪長いし体冷えてるだろうからそれなりに時間はかかるだろう。
「着替え、ここに置いておきますね。タオルは適当に使ってください」
結局なかったので買いに行きました。バイト先が遠いだけでうちの近くにもコンビニはある。ただせっかく買うんだからと女性用を買ったので多分もうあのコンビニは使えない。近くて便利だったんだけどなぁ。
さすがに下着だけを買う勇気はなかったので、お菓子やホットスナックも一緒に買ってきた。まだ時間かかるだろうしそれらを食べて時間を潰す。
できればなにか作ってあげたほうがいいのかもしれないが、食材がないので作れない。
「ごめんなさい、お先にいただいたわ」
「気にしないでくださいっとぉ?」
直視できない。コンビニでショーツとキャミソールを買ったのでサイズさえ合っていれば着ているのだろうが、さすがにそれだけでは目のやり場に困るし恥ずかしいだろう。なので俺のシャツとズボンを一緒に置いていたのだが……どうやらサイズが合わなかったようだ。
明らかにスーツの時とは大きさが違う双丘は、詳しくない俺でも買ったキャミソールが対応しているサイズではないだろうことがわかる。つまり今俺のシャツの下は……ごくり。
ショーツのほうはおそらく問題なかったようで、ズボンを上から履いている。
「次入ってもいいですか?」
「どうぞ?」
なぜそんなことを聞くのだろう、みたいな表情で返された。自分が入ったお風呂に別の人が入るって抵抗ある人いるじゃん?
「お菓子買ってきてあるんで好きなように食べてていいですよ」
「ありがとう」
冷めた体を冷やすため、そして熱くなった体を冷ますためにお風呂に入る。静まれ俺のリビドー……!
まあお風呂はお風呂で別の要素があるからかなりの時間を要したよね。
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