土砂降りの日に綺麗なお姉さんを助けたらなぜかゲームをもらったんだが

しりうす

土砂降りの日に綺麗なお姉さんを助けました。

第1話 へんじがない、ただのしかばねのようだ。

「まじか……」


 空は黒く、激しく雨が降っている。少しずつ暖かくなってはきているが、それでも雨が降ると肌寒く感じる。学校から帰る時は降ってなかったのに。

 こんな天気だからか店は閑散としていて、レジで突っ立っているだけ。ぼんやりとガラス製の自動ドア越しに外を眺める。

 そうやって時間を潰していると上がりの時間になった。着替えるために更衣室へ。


「持っててよかった折り畳みっと」


 天気予報を見る癖がないので、昔から濡れて帰ることが多かったため折り畳み傘を鞄に忍ばせてある。


「お先でーす」


 店長に挨拶をして、バイト先であるコンビニから出る。眺めていたのでわかったが、さっきからこの雨は勢いを増してきている。寄り道せずに早く帰ろう。

 コンビニから家まで徒歩で15分程度。いつもは自転車だからそんなに時間はかからない。

 しかし歩いて帰ることで、いつもは気付かないことに気付けたりする。例えばそう。


「あれ……?」


 びしょ濡れで道路わきに座り込むスーツ姿の女の人とか。この辺は住宅街なので道幅が狭く車があまり通らない。だから轢かれたりする心配はない。でも電柱の近くに座るのはちょっと……犬飼ってる人それなりにいるし。


「あのー……」


 絶対何か訳ありなんだろうが、だからと言ってこんな大雨の中放置するのは良心が痛む。もしこれが晴れていたなら声掛けはしなかっただろうが、今は雨中。勇気を出して声をかけてみる。


「……」


 へんじがない、ただのしかばねのようだ。


「大丈夫ですか?」

「……」


 へんじがない、ただの──おや?


「えっと」


 今ピクッと動いたような?


「……大丈夫ですか?」

「……よ」

「え?」


 何やら言葉を発したようだが、雨の音だったりそもそも声が小さかったりでよく聞こえない。


「全然、大丈夫、よ」


 全然大丈夫じゃなさそうな声ですが?


「心配、しないで。これくらい……」


 女性はそう答えると、電柱に手をついて立ち上がろうとする。

 随分ゆっくりと立ち上がった女性はその顔を俺に見せる。今まで俯いていたし長い黒髪のせいで顔が見えなかった。ワンチャン口裂け女とかそこら辺の妖怪の警戒もしていたのだが、どうやら杞憂だったらしい。


 その女性はとても美しかった。テレビで見る女優とはまた違った美しさというか、完成された〝美〟というか。間違いなく一目惚れされた回数は数えきれないレベルだろうとわかる。俺も危うい。


「ちょっと疲れていただけ。もう大丈夫よ」


 うん、大丈夫そうには見えない。

 本人的にはしっかり立っている認識なのかもしれないが、俺から見るとふらふらしてる。顔も白いし唇なんて青くなっている。とにかく早く温めないと風邪どころの騒ぎではなくなってしまう。


「全然大丈夫じゃないっす。どこか行く当てあります? ないならうちに来てください。ここから近いんで」

「……うん。じゃあお言葉に甘え、て」


 ガクンと一瞬女性が脱力した。すんでのところで支えられたが、できていなかったら今頃膝が……恐ろしや。


「歩くのも辛いですか? 支えるので気を付けて歩きましょう」


 背負ってあげられればいいのだろうが、生憎と俺はひょろひょろ。授業以外で体を動かしているわけではないので支えるだけで精いっぱいだ。

 ただ幸いだったのはそれ以降バランスを崩したり脱力したりしなかったこと。確かに歩みは遅くなったがちゃんと歩けている。

 いつもの倍くらいの時間をかけて、やっと俺たちは家にたどり着いた。

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