サムライ系女子、美術館に居座る怪異系女子と懇ろにならんとす

よなが

本編

 素っ頓狂な女の叫び声が、さほど遠からじ場所から聞こえ、その数秒後にどたどたどたと品位を欠いた足音が私のいる部屋へと近づいてきた。果たしてばたんっと扉が勢いよく開かれ、立っていたのは我が姉であった。

 その形相こそ四天王や金剛力士を思わせるが、しかし佇まいは神仏ではなく二足歩行の獣のそれである。今にも妹たる私に飛びかからんとする気配を放っていた。

 その右手には円筒形の容器が握られている。橙色の半透明をしており、横文字が書かれているのが見えた。その先端についていたであろう蓋はとられ、口が地に向けられており、中が空であるのがわかる。そして私はどうもその容器に見覚えがあった。


「いかがした、姉上」

「……これ、あんたがやったの?」


 時刻は逢魔が時を少し過ぎたところであったが、姉の声は地獄の底から這いあがってきた鬼どもの声であった。


「どうなのよ。心当たりないわけ?」

「ふむ。いくら剣の達人とて雨中に刃を振るい続ければ、その柄がすっぽりと手から抜け落ちることもあるだろう。物事には絶対というものはなく――――」

「つまり、あんたが手を滑らせて、全部垂れ流したのね?」

「まさか。浴槽に落としてしまったのだ。存外、その器は重く、沈み込むことになった。しかしやがて浮かび上がってきたときには中にあった良い香りのする液体は皆、湯船に溶け込み、その色を変えていたのだ。さながら夕暮れを照り返す煌びやかな海であった」


 からん、と。姉が容器を床に落とす。いよいよその顔にも鬼を見た。

 姉はまず一歩を踏み出した。毛の手入れがよくなされた細足とは信じられぬほど力強い一歩。どしんと地響きさえ聞こえた気がした。それに対して、二歩目は小さく軽やかに、まるでひらひらと舞う可憐な蝶が花にそっと降り立つように踏み出された。そして瞬息に踏み込んできた三歩目で私との距離はほとんど零となり、姉は振りかぶった右の手、その掌で私の頬を打たんとした。

 私は当たるすんでのところで躱したが、空を切った姉の掌にまさしく快刀の太刀筋を見て、嫌な汗がぶわぁっと全身から噴き出た。


「待て。待ってくだされ、姉上!」

「じゃかしいわ! このクソボケがぁ! あんたが台無しにしたバスオイルは美雪先輩から誕生日プレゼントに貰ったものだったのよ! 私の素肌と纏う香りを想って選んでくれた、天からの賜りものが如く高級品よ!」

「う、うむ。しかし美雪殿には恋仲にあたる御仁が既におるのだと、姉上は以前話していたような」

「このド阿呆ぅ! たとえそうであっても私が美雪先輩を恋慕う心に一点の曇りはないのよ。女子校出身の先輩の周りには、下心を抱き悶々とする女子どもが絶えず複数人いたそうだけれど、そういう物の怪たちと私を一緒にするんじゃないわよ!」

「おお、我が姉ながらその尊き精神には真、感服せざるを得ない」

「……私も鬼じゃないわ。選ばせてあげる」


 鬼のような顔と声を保ったままで、姉は私の部屋の中を見回した。日頃より掃除をこまめにしており、見られて困るものは特にない。姉は勉強机に近寄り、その引き出しを開けていった。三番目の引き出しを開き、あるものを取り出した姉は、にたりと笑みを浮かべた。盗人が思わぬところで金銀財宝を見つけた時のような。そして取り出したものを、ぽいと私の前に投げた。

 それは鋏だった。


「これで腹を切れと言うのか!?」

「馬鹿言うんじゃないわよ。あと、演劇部での役作りだかなんだか知らないけど、いいかげんその話し方はやめなさい。あんたが作ったのは罪だけよ。そしてそれを贖わないといけない。そうよね?」

「えっと、その、痛いのは嫌です……」


 にこりと姉は急に品のいい笑顔を貼りつけて、気がつけば正座をしていた私にふらりと寄ってきた。そしてさっきとはうってかわって優しい手つきで、私の頬に触れる。


「何言っているの。私が可愛い妹を傷つけると思う?」

「二十秒前に勢いよく平手打ちをぶちかまそうとしてきた」

「愛の鞭よ。でも、そうね……怒りで我を忘れてしまったわ。ごめんね、和葉かずは

「お姉様……ごめんなさい、私――――」

「その綺麗な髪で手打ちとするわね」

「え?」


 姉は投げ捨てた鋏をそっと摘まみ、私の手に柄の部分をぐいっと握らせた。笑顔のままだ。なんて怖い笑顔だ。


「切りなさい。普段からクソなげぇな、鬱陶しいなって思っていたの。いい機会だわ。ばっさり切りなさい。さぁ、早く!」

「殺生な! 髷を結うならまだしも切れだなんて! こ、この髪は学校ではちゃんと結んで、頭髪検査でも許されているんだよ? 私が自分の貧相な身体のうちで唯一、誇れる部分なんだよ?」

「貧相……? それは私がつい一昨日、美雪先輩から『去年と比べると、少しだけお肉ついちゃった?』って遠回しに不摂生や怠惰な生活習慣を指摘されたのを知っていて言っているわけ?」

「知らないって! だ、大丈夫。お姉ちゃん、べつに太っていないよ?」

「わかっているわボケナスがぁ! 衣替えして着ぶくれして丸く見えただけなのよ! 全然、これっぽちも太っていないのよ! 仮に多少なりとも体型がふくよかになっているのなら、それは美雪先輩と出会って幸せ太りしたせいなのよ!」


 やんぬるかな、今の激昂している姉に人の言葉は通じない。もとより舌戦においてこの三つ年上の姉にまともに勝利を収めたことなどない。なぜなら彼女はするりするりと私の論の隙間を抜けて、思いもよらぬところから射抜いてくるからである。

 いつだって私はいい的で、言い換えればサンドバッグなのである。南無三、私の麗しき髪はここでおしまいだと言うのか。

 古き言葉に髪は女の命とある。このような断髪、許されてなるものか。起死回生の一手を思案するなかで、ふと私は先の姉の台詞でまだ明らかでない点があるのに気づいた。


「選ばせてあげる、お姉ちゃんそう言ったよね? 髪を切りたくなかったら他に何か手があるの? あ、お金ならないよ。推しに貢いだから」

「そう、憐れなものね。とんだ愚妹だわ。触れることの叶わないあんな画面の中の女の何がいいんだか」


 揚々と姉は挑発してくるが、それに乗れば姉の思う壺だ。

 私は冷静に、落ち着いた声で姉に説く。

 

「でもお姉ちゃんも美雪さんに触れられないじゃん」

「泣くまでぶん殴るわよ?」

「ま、待って。わかった、わかったから。……他の選択肢って?」


 そう訊いた私に姉は一言こう口にした。


「出演依頼よ」




 鬼……ではなく姉から「舞台は美術館」と言われて、足を運ぶことになったのは大きな自然公園の傍にある小さな美術館だった。

 そこに連日通っている、とある女の子を追い出してほしい。それが姉が出した条件であり、ある意味では演目であった。

 姉は彼女にとってプライスレスなバスオイルの対価としてはさも易しい条件のように話したが、私からすればとんでもない依頼だった。美雪さんに恩を売るにしても買ってくれないと思うのだが。


 その女の子については美雪さんから聞いた話であるそうで、その美雪さんは恋人である年上の男性学芸員から耳にしたのだという。

 早い話、その女の子は不登校の中学生であり、平日の開館直後に入ってきては閉館近くまで入り浸っているを繰り返しているのだと言う。ちなみに、入館料金については学生証を見せれば市内の中学生は無料である。


 先鋭的な環境保護活動家よろしく、その少女が美術品に野菜スープでもぶっかけていれば大問題だが、そんなことはしていない。

 また、気に入った作品を一日中、恋に溺れたように寝食を忘れて見入っているのなら恰好がついたがそうでもない。

 館内をうろつき、ぼーっとしたり、本を読んだり、人気のないところでは居眠りもしていたりするらしい。そうなってくると不審な少女が、より邪な不審者に何かされてしまう可能性も出てくる。


 姉は私にそうした不審者の一種になれと言っているのだから開いた口が塞がらない心地であった。


「ここか……武者震いしてきたな」

 

 実際には寒さによるものだ。

 十月上旬、月曜日の午後五時過ぎ。思いのほか、風が冷たい。九月の間は夏の暑さが居残りするにしてもほどがあるだろうと、お天道様を睨みつけていたものだが、どうやらその罰が下ったみたいである。 

 放課後すぐに演劇部の部室に顔を出して、陰険眼鏡……じゃなくて副部長に「お暇をいただく!」と伝えて、ここへとやってきたのだった。「ああ、うん」とそっけなく返されたから「かたじけない」とは言わなかった。


 エントランスで高校生料金を払って、とりあえず常設展示のコースへ向かう。少女についての情報は少ない。いつも制服姿だとは聞いた。


「でもなぁ……一目惚れなんぞ、そう簡単に演じられるものだろうか」


 姉が私に明かした算段はこうだ。

 私は少女に一目惚れする(演技だ)。少女は大変に気持ち悪がる(本気だ)。美術館に来なくなる。めでたし、めでたし。


 雑な計画だ、あまりにも。だが、少女に学校へと行くよう説得するのも面倒く……骨が折れるであろう。そもそも赤の他人がそんなの言うもんじゃない。そうだ、大人たちが悪いのだ。十七の生娘である私の知ったことではない。しかるべき機関に対応を任せるのがいいに決まっている。警察にもその手の少年少女を取っ捕まえてはカツ丼を喰わせる部署があるのではないか。

 

 やさぐれながら、一枚の絵もかかっていない通路を歩いていると、制服姿の少女を見つけてしまった。木製ベンチに座って膝の上にハードカバー本を広げて読んでいる。

 

 いや、しかし……。

 本当にこの子なの?

 

 白襟の紺セーラー。赤いリボン。なるほど、たしかに私が通っていた中学とは違うけれども見覚えがある制服だ。この美術館を含む学区にある中学校のそれであろう。

 そのセーラー服は、驚いたことに少しもよれていない。むしろ清潔感がある。

 着崩した制服を着て、低偏差値の高校生である私と比較して、いかにも清純で真面目そうな子だったのだ。

 純粋な偏見をして、私は不登校の原因というのが学校での人間関係あるいは家庭の事情、それとも両方であると予想しており、もしそうであるのなら恰好からして「問題」の匂いが漂ってくるものだとみなしていた。すなわち、その服の汚れや臭いから抱えている闇が暴かれんと思っていたのだ。

 

 結局、何日も通っている者でなければ、美術品を鑑賞せずにこうも堂々と分厚い本を読んではいないだろうと薄い根拠をして、この子こそが例の少女であるという推察に至った。そして、近くから見つめ過ぎていたせいだろうか、彼女が顔を上げ、二メートルほど横で突っ立ている私に視線を向けてきた。後ろで一つに束ねた髪が微かに揺れる。


 その端正な瓜実顔は悔しいことに私よりも美人であった。こうなってくるとこの子は美しいがゆえに嫉妬され、理不尽に虐められ、居場所を失くしたタイプではないかと考えた。理解できても私には共感しがたい境遇である。さりとて、これなら一目惚れに真実味が増すというもの。

 

「そなたが、この館に憑りつく悪しき少女の怪異か」


 とち狂った台詞でファーストインプレッションを強烈なものにする、それが私の作戦であった。なに、根っからの狂人を演じるつもりはないが、引かれてなんぼの演目ぞ、ここで臆して半端なものを見せたくないのが役者である。


「え……えっ?」


 ぽかんと。絵に描いたような呆然ぶりをする少女だった。私は失笑するのをどうにか堪えて、彼女の隣に腰掛ける。三人掛けのベンチ、中央に座っていた彼女は私が座ると同時に、少しだけ私がいるのと逆側に身を退かせた。

 私は彼女の澄んだ瞳の奥の奥を覗き込み、明朗に口にする。

 

「切り捨てるには惜しいなりをしている。どうだ、私の妻にならぬか」


 緊張感があった。

 実質、愛の告白だから……ではない。ここで彼女が慌てて逃げようとすれば、私はその手を掴まねばならぬ。しかもそこで彼女が悲鳴を上げ、助けを求める声を発したなら私はどうにか彼女を落ち着かせ、そしてもし誰かが駆けつけてきたならその人を説き伏せ、事態を収束しないとならないのである。

 無理ゲーじゃない? ううむ、鞘走った演技をしてしまったかもしれぬ。


 しばし沈黙の後、彼女が破顔した。そうかと思えば、けらけらと笑い声まで上げ始めた。しまいには腹を抱える。大笑いである。上品な面持ちからは想像しにくい笑いが廊下に鈍く響いた。


「そんなナンパ、これまでされたことないですよ。あー、びっくりした!」


 少女は快活な声でそう言うと、黒い栞紐をスッと噛ませて本を閉じる。裏表紙には、近くの図書館の所蔵であるのを示すバーコード付きのラベルが貼られていた。


「いいですよ、暇しているんで。何か美味しいものでも奢ってくれるなら、あなたについていきます」


 ついうっかり私は顔をしかめてしまった。予期せぬ反応に演技を忘れた。


「……誰にでもついていくわけじゃないですよ?」


 私の表情をどう読み取ったのか、少女は苦笑する。

 財布には小銭しかなかった気がしたが、安い飲み物なら一杯ぐらい買うことができるはずと前向きにとらえた。

 私が咳払いを一つしてから「よし。ついてまいれ」と、すっくと立ち上がると、彼女は本をバッグにしまい、ゆるりとした所作で腰を上げた。その背丈は私とそう変わらなかった。


 外に出ると日がさらに沈んでおり、あと半刻もすればあたりが暗闇に包まれそうな雰囲気があった。私が自然公園の方面へと足を進めると、二歩後ろにいた少女が「そっちには何のお店もないですよ」と怪訝そうに言ってきた。

 私は一か八かで真実を、すなわち金銭的余裕などないのを白状し、そのうえですぐ近くにどっしりと構えている自動販売機で売っている缶やペットボトルの飲料を一本なら喜んで奢る旨を伝えた。


「……まぁ、いいですけど」


 残念そうな面持ちで彼女は肩を竦めた。踵を返さずにいてくれたのを幸いととるべきか。自動販売機の前まで来ると、私が訊ねる前に「これ」と彼女がペットボトルのミルクティーを指差した。すぐ真下の表示からして温かいものであるのがわかる。

 私たちはそばにあったベンチに腰掛けた。尻をつけたときに感じた冷たさに二人して顔を見合わせた。「よく冷えた腰掛けだ」と言うと、ぷっと笑ってくれた。いや、ウケを狙ったわけではないのだが。


「それで、貧乏JK陰陽師さんは何ていう名前なんです?」

「妙ちきりんな肩書きで呼ぶではない。拙者は……ええと、好きに呼べ」

「どっちですか」


 本名を名乗ると後々、厄介かと思ったのである。かといって偽名を用いるのもどうなのだろう。


「そなたこそ、なんという名だ」

「じゃあ、ローザ・ボヌールとでも呼んでください」


 声の調子には冗談めいたものがあって、そして挑戦的な色合いも含まれていた。しかしながら、私はそのローザ・ボヌールというのが実在の人物か架空のキャラクターなのか、はたまたその中間たるペンネームか何かなのか皆目見当がつかなかった。

 

 視界の端にまだある美術館、およそ半世紀前に建てられ、灰色の壁に覆われた四角い外観のそれが夕闇に抱かれようとしているのが目に入った私は「西洋の画家だったか?」と当てずっぽうで、けれどいかにも自信ありげに口にした。 


「そのとおりです。どんな人かまでいます?」


 私が「いや」と素直に首を横に振ると彼女は「そうですか」とくすっと笑った。私は心の内を見透かされた気がして羞恥を感じた。世が世なら、侍を辱めたものとして斬っているところだ。ただ、彼女のあどけない笑みは可愛らしく、それに免じて許すことにした。


「十九世紀を生きたフランスの画家です。代表作は『馬市』で、彼女はパリの馬市に一年以上足繁く通って描いたそうですよ」

「馬が好きだったのか」

「動物全般ですね。芸術家として成功してから、立派な邸宅付きの土地を買って、そこで多くの動物を飼育しながら絵を描いたらしいです」

「そなたはその画家を敬慕しているのか?」


 話しぶりからすると、特定の絵に思い入れがあるというよりローザ・ボヌールその人に関心があるようだった。


「べつにそんな詳しくないですよ。偶然、知ったんです。男装の女性画家として有名な彼女のこと。ローザは二歳下のナタリーと十四歳の頃から親しくしていて、四十年間近くにわたって同棲し、二人は恋人同士であったとされています。ナタリーの亡き後は、アメリカ人の女性と死ぬまでの十年間を暮らしました。それを二度目の恋と見ることもできるでしょう」

「十分に詳しいではないか」

「いいえ、こんなのはネットで検索すれば出てくる内容です。たとえばローザがナタリーにどんなふうに接していたのか、そこに確かに愛はあって、二人はそれをどう認め合ったのか、そんなことは一切知らないです」

「もしかして……」


 私は言葉を飲み込む。言えなかった。その画家と同じくあなたも同性愛者なのかと問うことが躊躇われた。


 彼女が飲んでいるミルクティーの香りが私まで届く。彼女はその安価な飲み物をいかにも大事そうに飲んだ。その恭しさはやがて優雅さに変わり、私の心を打った。

 あながち先にした憶測は誤りではないかもしれぬ。彼女はその年にしては優美が過ぎるのだ。

 私を惑わせるお嬢さんマドモアゼル、と安っぽい押韻が頭に浮かんですぐさま振り払った。

 

 あたたかく濡れた唇が動く。

 

「私のことを何か知っています?」

「……少し。あそこに平日であっても昼から何日も通っている子だって。推定不登校少女。それだけ。後は……全然知らない。ウェブ検索で出てくるの?」


 嘘がつけなかった。自然と演技が抜けていた。剥がした感覚も剥がされたそれもなく、素の私で彼女と話したくなった。


「ふふっ。出てきませんよ。でも――――」


 彼女が私を見つめてくる。

 やば、顔熱くなってくる。なんでそんな妖艶な眼差し向けて来るんだ、この子。おいおいおいおい、私はあの姉と違って、女の子相手に恋なんてしたことないんだぞ。せいぜいが、美少女の皮を被った三十路過ぎの女性と思しきVTuberの配信に夢中ってだけだ。


「本当にその気があるなら、いろいろと教えてあげますよ?」


 少女が妖しく微笑む。

 私は固まる。そんな無防備な小娘に彼女はそっと片手を近づけ、髪を手櫛で梳いた。そしてあろうことか「綺麗な髪……」と熱っぽく口にした。

 私は煩く高鳴り続ける心臓を吐き出してしまうところだった。落ちた。落ちてしまった。首を斬られ、ごとりと落としてしまった……そんな気分にされるほどに衝撃的な恋だった。


 私たちは名乗り合い、次に会う約束を取り交わしてからその日は互いに闇へと身を溶かした。

 

 錆刀で乱麻を断つこと能わず、恋に現を抜かした頭で怪異は斬れぬ。

 

 ……帰ったら姉に、美術館に入り浸る怪奇な少女がもう一人増えるかもしれないことをどう伝えるか悩むのだった。

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サムライ系女子、美術館に居座る怪異系女子と懇ろにならんとす よなが @yonaga221001

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