第6話 魔王様の提案

ここは魔王城。

元々、魔族は他の種族を圧倒するほどの実力を持つ者の集まりだ。

魔王城はその種族を束ねる拠点であった。


ちなみに魔族の総合戦闘力は人間族を軽く凌駕している。

しかし、魔族に対しては反感の意を持つもの多く、大多数の種族は人間を含めて魔王討伐思想を持っていた。


そんな、人類、あるいは世界の最大の敵である魔王と友木は何故か邂逅した。

おかしな話である。


―――――――――


魔王様が落ち着いた後、友木と二人で会話が始まった。


「魔王様、どうして俺はここに呼ばれたんでしょうか?」


「それは勿論、無能スキルだから拉致したに決まっておる」


(遂に誘拐って言ってるがな。てか…無能スキルって需要が無いから拉致する意味なくね!?)


友木は彼自身の疑問を解消するために問いかけた言葉が、

さらに意味不明な形で返された。

この回答には友木も混乱した。


「つまりな…。我には無能な奴というものが必要で……」


魔王様は自分自身の銀髪をクルクルと指で絡め始める。

声も段々とボソボソとし、聞き取りづらい。


(だから理由になってねえじゃん?!)


内心突っ込む。

全く話が進まないことに友木は呆れていた。


「話に水を差すようで申し訳ございませんが、私の方から説明させていただけないでしょうか?」


すると不意に横から声がかかる。

振り向いてみれば、魔王様を宥めていたメイドさんだった。


「おい、我が説明するから待てと…」


「アリス様は昔から他の種族と、争いながら今の魔王の座を継いでいるのです。

なのでアリス様に反感を持つものも多く、何度か、アリス様の命は危険にさらされてきました。」


メイドさんは魔王様の言葉を遮って話をつづけた。

どうやらアリス様とは魔王様の事を指しているらしい。

これもまた可愛らしい名前だ。


「それが原因で、アリス様は【強い者恐怖症】に陥っているのです。

なのでアリス様は『強い』者でなく、見下せる程度の『弱い』者が信用対象です」


(え!それで俺に何の関係が……)


「ふん!別に我が怖がってなんか!!」


「最近、人間族の動きが活発になっています。

そのせいで国内の統率が乱れ、魔族からも事あるごとに反発を食らうようになったのです。

可哀想な事ですが、これによってアリス様は大変心を病んでいます。

結果、アリス様は信用できるものをアリス様自身の横に置いていたいと…」


(散々だなぁ)


「……そうですか…」


思わず友木は声を出してしまう。

なんだか魔王様がとても可哀そうに見えてきたのは秘密だ。


「憐れむなあ!!無能スキルの分際でぇ!!!」


その様子を察するかの如く、アリス様は怒った。

やはり友木の気持ちぐらいは魔王に筒抜けのようだ。

その様子を何とも言えない顔でメイドは眺めていた。


(ということは……無能=弱い。

つまり魔王様に歯向かうことない、いろんな意味で信用できる人?それが俺ってことか?)


友木は自分の立ち位置について考えた。

魔王様が言いたい事、それは【強い者恐怖症】を和らげてくれる、

見下せる者を必要としている。

とのことだった。


しかし、このときに『横に置く』という発言が一番友木の中で気になっていた言葉だった。

どう解釈しようとも、まるで『ペット』扱いのような響きにしか聞こえない。


「それで、無能スキルよ。我から提案する」


魔王様は自分自身の顔をパタパタ仰いで、顔色を整えた。

そして友木に向かって魔王様は顔を近づける。


(理不尽な魔王様の前で断れるわけないだろお?!提案じゃなくて、命令では?)


友木は慌てふためいた。

もしかしたら魔王様のペット扱いわされてしまうかもしれない、ということに恐怖心を抱いていた。


(異世界に無理矢理転移されて、魔王様の下僕とか悪い夢すぎるだろお!!)


内心絶叫するがその声が届くことはない。


「我を決して裏切らないペット補佐になってくれるか?」


魔王様から声に乗せて、魂を握られるような圧がかかる。

まさに、蛇に睨まれた蛙の状態だった。


「は、はい……」


友木は頷くことしかできない。

そしてその様子をメイドさんと魔王様は満足そうに見ていた。


「これで、アリス様は安心して魔王の仕事を全うできますね」


「確かに、我の気分が少し落ち着いた。これからはこの無能スキルを頼ればいいのだな!!」


【魔王様は決して歯向かうことの出来無い、無能。

つまり、信用に値するペットを手に入れた!!】


「あ、でも別に、他の雑魚の魔物でも…変わりはいるんじゃないかなあ?」


友木は頷いた後に、ふとした疑問をぶつけてみた。


「雑魚魔物なんて会話ができぬから楽しくないぞ」


(そっかあ?)


「じゃあ、他の種族を連れてくるとかは………」


「馬鹿もん!!問題大ありに決まっているぞ!!」


(やっぱり問題あった……。

確かに、人間に例えると、人種によって区別するって言ってるようなもんだから大問題だ)


下手な小競り合いがこれ以上は必要ない事を友木は理解した。

そして、素直に魔王様の提案を聞くことに徹底する。


「まあ、無能……お主の言いたいことも理解できる。確かに雑魚なんてお主の代わりなら幾らでもいるぞ!だが……」


すると今度は魔王様が友木を選んだ理由を語りだした。


「だが……。ここまで我のような魔王に対して敵対をしない者は、友木以外いない!!いる訳がないぞ!」


その声に合わせように、アリス様はもっと身を乗り出す。

綺麗に整った顔が近づいて、熱い息が友木の顔にかかった。


「えっと、魔王様(戸惑い)?」


思わず声が上ずってしまう。

しかしそんな友木の様子をお構いなしに、魔王様は言い放った。


「ここまで我と心を開いて話をしようとするものなど居なかった…。

お主…我に永久就職しないか?」


~~~~~~~~~~~~~~~~

作者より


・魔王側作品と勇者側作品どっちが伸びるかな?




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