第5話 魔王様に指定された無能ですか何か?

(解せぬ。なんで俺は最強魔物に担がれるんだよ!)


友木は心の中で悲鳴を上げる。

だが、現実は無情である。

「……暴れんな、ぶん殴るぞ」

そう言われてしまえば、もう黙って運ばれることしかできない。

あの国の兵士をボコボコにした最強魔物、名前をアズライール。

少なくとも雑魚スキルしかもっていない友木に勝ち目はない。


「はあ、魔王様も人使いが荒れぇなぁ」

アズライールはぼやきながら、巨大な門を開けるとそのまま中へと入っていった。

「……」


そして、魔王城の広間で友木は降ろされた。

床には絨毯が敷かれているものの、それでも足裏から伝わってくる冷たさを感じてしまう。

天井は高く、シャンデリアの光が煌々と照らすその空間にまた大きな扉がある。


「あのさ…」

「ん?ガキ?どうしたんだ?」

「俺って魔王様に呼ばれてるのか?」

「あぁ。そうさ。魔王様直々のお呼び出しだぜ?光栄なことじゃねぇか」

「いや……まぁそうなんだけどさ……。なんかこう、俺って雑魚スキルだから別に会う必要なんて…」

「うるせえ。これは命令だ」


そういうなり、最強魔物は扉に手を置く。

すると、あれだけ緻密な作りで頑丈そうな扉は簡単に開いてしまった。

「ほら、いくぞ」

「うぅ……わかったよ……」

最強魔物は友木を離す。

ここまで連れてきてもらった手前、逆らうこともできず友木は歩き出した。

―――

ついに魔王の居る部屋へと案内された。


『アズライール……。よくぞその男を連れてきた』

「ハッ! 魔王様よりご命令がありましたゆえ!」


玉座に腰掛ける少女の姿が見える。

銀髪の少女は、赤い瞳でこちらを見据えていた。

友木はその視線だけで震え上がりそうになる。


『クラス転移というやらに巻き込まれた、無能ものだな?歓迎する』

「ど、ども……」


友木はぺこりと頭を下げる。

しかし魔王と呼ばれた少女は冷たい目を向けてきた。


『おい貴様。魔王である我に向かってその態度は何事だ?』

「ひっ!?」

『まずは挨拶をしろ。そして臣下の礼を取れ』

「お、俺はただの連れてこられただけだから、臣下とは無縁……」

『問答無用!』

ぴしゃりと言い放たれてしまった。


(可愛い見た目して、性格はしっかり魔王様だな!!!)


心の中で叫ぶ。

この世界では、強いものが絶対であり弱いものは従わなければいけない、という事実に今更気づく友木であった。


『アズライール。下がっていいぞ。あとはこの男と我が話す』

「ハッ!仰せのままに!」

最強魔物が去った。

『ふむ……貴様。【聖心力】からして本当に無能ものなのだな』

魔王は友木のステータスを見ながらつぶやく。

そう、魔王は石がなくとも、サラッとステータスを確認できる能力を持っていた。


「うぐっ……」


何も言い返せない。

自分の能力値の低さくらいは理解している。


『ふん。まあいい。一度使ってみよ、その『さえずる』というやらを』


「は、はい」

言われた通り友木は自分のスキルを発動させる。

「…………〈半径五メートルが指定されました。投稿内容…〉」


(頭真っ白で投稿内容が思いつかない、どうしよう)


「……〈一定時間経過しました。これまでの友木さんの思考をランダムで言語化し、投稿します〉


「はい?」


案外、『さえずる』は使い勝手が悪いスキルかもしれない。

なにせ、自分が考えている勝手に口走ってしまうのだから。

これからどんな内容が投稿されるのか知らない、友木は震えていた。

「ピヨピヨ!!」

また青い鳥がステータス画面から飛び出した。

そして、友木の周りをくるくる飛び回る。

一定時間経った後、魔王の方にめがけて突っ込んでゆく。

そして魔王様の頭の上に乗る。

最後に青い鳥は発光したかと思うと、跡形もなく消えていった。

「なんだ、それは?」

魔王は不思議そうに尋ねる。

「えっと…投稿内容、なんでしたか?」

その反応に困った表情を見せる友木。

「……我が可愛いなどと、ほざいていたぞ」


(ちょうどそこ切り取られたーーーーーー!!!)

心の中で絶叫する。

「そ、そんなことは思ってないですよ?」

「ふん!いらんことをするな!無能スキル持ちめ!」


その友木の反応に魔王様はそっぽを向いた。

明らかに機嫌が悪そうだ。


「……〈投稿完了しました。新着メッセージ:魔王様から♡を貰いました〉」


雰囲気が凍る。


(あれ…?イイネ貰ってしまったけど。)


「…………嬉しかったのですか?」


「我に盾突くな黙れ」


魔王様はぷいっと顔を背ける。

「……〈新着メッセージ:アズライールからのリツイート:俺っちとしては恐怖の対象だから分からん〉」

「おいやめんか無能スキル!貴様には魔王の威厳というものがわかんのか!?」


魔王は慌てて友木のスキルを止めようとする。

だが、時すでに遅し。

半径五メートルにいたすべての人にツイート内容が届いてしまったのだ。


「ぷはっ!脳内に流れて来たけど、あの最コワな魔王様を可愛いってなんだよw」


扉の後ろでアズライールの声が聞こえる。


「あーこれやばい」

友木は遠い目をしながら呟いた。

「……貴様らぁ!」

魔王は怒りに震えているようだ。

ちなみに、専属のメイドが必死に魔王様を抑えていた。

三時間ぐらい宥めていたらしい。



作者より

このジャンルはラブコメなんだよ?

まだ一回もその要素が無かったので、次回から頑張ります。

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