第2話 さえずるってなんだろう?

それは、友木自身が最善だと思った後悔の無い選択だった。

王国の使いッ走りなんかに成りたくない。

そんな衝動が友木の心を突き動かした。

「……きます」

俺の言った言葉が信じられないとでも言うように、水浦は問いただした。

「一体どうしたんだい?」

「決まってるだろ!俺はこの王国出ていきます!!!」

この日、俺は追放される道を選んだ。



~~~~~~~~~~~~


「ちょっと!友木君待ってよ!」


不意にミクルが友木に声を掛けてきた。


「ミクル?どうしたんだ?」

「私はね、友木君の味方だよ!だって私達友達じゃない」

「………」

「ね?一緒にこの国で生きようよ。外は危ないよ…」

「……すまないな、もう決めた事なんだ」

「でも!このままじゃ死んじゃうよ!?」


(朗報:ミクルは天使。…まあ、追放とか後先考えてない発言だけどなあ。この国に滞在することだけは気持ちが受け付けない)


友木はミクルの純粋さに絆されそうになる気持ちを抑える。

やはり、席が隣というだけの関係だが、友木にとっては意外と楽しかったらしい。

そりゃあ他人と俺はあまり関わらないタイプだし。

唯一の喋れる人間だから、かもしれない。


「おい!そんな馬鹿に絡んでないでミクルは下がってろ」


そんな甘いような時間を引き裂くような声がミクルの背後から聞こえた。

そこには同じクラスの高畑が仁王立ちで俺を威圧していた。

他人に興味ない俺でも……こいつの性格は知っている。

いじめや暴力の類が好物のいかれポンチだ。

だから俺は、こいつとは関わらないようにしていたのだが……。


「え?高畑君?急に怒鳴ってどうしたの?」

「お前を、そこの友木っていう無能から救ってやるために言ってるんだ」


そう言って高畑は俺を指をさす。

人を追い詰めたと、快楽を感じているその表情は、軽く恐怖を感じる。


「お前無能のくせに出しゃばんなよ。さっさと魔物の餌食になって死んじまえ」


そう言いながら、高畑は無理矢理にミクルの手を引くと笑いながら去って行った。

その後ろ姿を見ていると、俺は怒りが湧いてくる。


「あいつはクズか……」


正直、友木がこの世界にきて一番イラついたかもしれない。

水浦と一位二位を争う程のクズっぷりだった。

さえずる使って耳壊してやりたいなぁ!特大ASMRじゃあ!

そんな事を考えていた時、王様から一喝されるのであった。


「無能スキル持ちが!事を荒上げるとは…!」

「……うわぁ」


王様の怒りに震える表情を見て、友木も思わず口を出してしまった。

多分、他の神スキル持ちを誑かそうとしていると見えていたのであろう。

『聖女』持ちが、無能に肩入れするなんて論外である。そう言いたいのであろう。


「貴様には出て行ってもらう!二度と戻ってくるでないぞ!」


王は話をそこで切ると、護衛兵士を俺に二人よこした。

そのまま身柄を拘束されると、部屋を出る。


そして友木は追い出されるように城外へ出てきた。

不安な顔をしているミクルの顔が最後に頭の中に残った。


『魔王とは残虐で卑劣な者。世界を乱す元凶です!』


すぐに後ろからは透き通るような声で王女の演説が始まる。

また魔王倒してクレメンスの呼びかけかよ……。

俺にとっては、この王国に世界を乱された(転移)から悪さとしてはどっこいどっこいだと思い、チェと悪態をついた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(そんなこんなで追放されて街に降りてきてしまったけど……)


意気揚々と街へ降りてきたのは良いものの、これからどうしようか迷っていた。

束縛から離れた嬉しさで重要な事をトンと忘れていた。

元々、この世界について理解が乏しい。

なので友木には何処にもいく当てが無かった。

国を嫌って追放を選んだはずが、逆に危険過ぎる道を選んでしまったのかもしれない。


(これはミクルの意見を聞いておくべきだったか…。)


後悔するのが逆に腹立つ。

もう思い出さないと、心に決めた。

辺りを見渡すと活気のある街並みが見える。

レンガ造りの建物が立ち並び、人々が行き交っていた。

建物は中世ヨーロッパの建築物に随分と似ていた。


(異世界っていうより外国に来た気分だな)


しばらく散歩していると、不意に自分のスキルについて興味が湧いてきた。

王国に居た時は水晶で一瞬しか確認できなかったけれど、もしかしたら隠し機能があるかもしれない!

そのような極小確率の希望にかけて……


「とりあえず…俺の『さえずる』っていうスキルを確認するか…」


ステータス…。

友木は呟いてみた。

すると頭の中に情報が浮かんできた。

-------

【名前】ユウギ・トモキ 【種族】人間族 【年齢】16歳 【レベル】1 【体力】120/120

【魔力量】?【聖心力】2

【ギフトスキル】

さえずる『Lv1』

【ユニークスキル】

【称号】

--------


前回、洞窟内で見た時とステータスは全く一緒。


【聖心力】ってのも気になるなぁ…。

とはいえ本題はやはり『さえずる』だろう。

このスキルが付与された意図が解せない。


果たして真の効果は何なのか……?

ソレを確認したいところだが、こんな街中で使うわけにもいかないだろう。

さっき使ったが余りにも意味不明すぎた。

ノイズまき散らすのは近所迷惑だし。


……いや、逆に人にしか影響しないスキルなのかもしれないな。


(場所変えるんじゃなくて誰かに試してみるしかないな……)


そう思い、通りすがりの女性に声をかけた。


「あのーすみません」

「はい?」

「ちょっとそこで立ち止まってもらっていいですか?」

「はい?いいですよ」


(道端の人を捕まえて実験とか気が乗らないけど…。これは必要事項だと思って…)


その女性は不審そうな俺を不安感あふれる顔で見てくるのであった。

それから、心の中で謝り、そして例の無能と言われたスキル『さえずる』を発動させたのであった……。

すると、


「…………えっと、あなたはこの国の王様から、追放される命令を下されて……そして路頭に迷っている??」


「…!!」


(え?なんで俺の心読めてるの?)

突然、見知らぬ女性に心を読まれた友木は動揺した。


「え?その…急にあなたの声が私の頭の中に響いて……」

「……」

「本当にごめんなさい!!!」

「あ、気にしなくていいですよ。謝るのはこちらの方です…」


ここで友木は自分のスキルの効果だと悟った。

これは雑音を飛ばすスキルなどではない。

相手に向かって『自分の意思』を伝える能力を持つスキル。

そして、これが本質なのだと。


〈【称号】初めてスキルを使いこなせた迷い人、を獲得しました〉


(…?)

急に友木の脳内に音声が流れ込んでくる。


〈【称号】の獲得により、スキルを無条件でレベルアップします………、『さえずる』スキルが該当されました。…レベルアップ成功〉


(なんだこれ?誰だよ俺の脳内に直接語り掛けてくるやつは!?)


初めての出来事に驚く友木。

しかし、すぐに現状を飲み込んだ。

進化したのだ!自分のスキルが。

友木は慌ててステータス画面を開く。

---

【名前】ユウギ・トモキ 【種族】人間族 【年齢】16歳 【レベル】1 【体力】120/120

【魔力量】?【聖心力】2

【ギフトスキル】

さえずる『Lv2』

【ユニークスキル】

【称号】初めてスキルを使いこなせた迷い人

----------------


(わお、レベルが上がってる...)


確かに『さえずる』のレベルが一から二に上がっていた。

称号という謎のシステムによりレベルアップしたのだろうか…?

友木はステータス画面を眺めた。

そこで新たな事に気付く。


(あれ?ステータスの横に青い鳥のマークが追加されてる!)


今までなかったはずのマークがステータス画面に表示されていた。

友木は不思議に思って触ってみると、さらに新しい情報が表示されていた。


~~~ISEKAITTA-~~~~~~


ある女性:はあ、最近税が上がって苦しいわあ

♡0共感5

ある男性:魔王の行動が原因らしいぜ?

♡2共感0

↑リプライ:まじかよ…。魔王許さん。

―――――――――――――――

―――――――

~~~~~~~~~~~~~~~


そこには全く意味をなさない会話がつらつらと述べられていた。


(なにこれ?ISEKAITTA-?異世界ったー?青い鳥のマークに、呟きって…)


友木はある事に気付いた。


(これ、ツイ〇タ―じゃね?)


なんと、心の内を共有できる『ささやく』の進化系は、

会話を少々盗み聞きできるツイ〇タ―の激似スキルだった…。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(ふふふ、アイツは何も気づかなかった!!今頃、路上で途方に暮れているに違いない)


そこには水浦の姿があった。

誰にも気付かれないように必死にニヤけそうな頬を抑えている水浦が…。


(友木のスキルを妨害できるとは……、僕も大したスキルをゲットしてしまったみたいだ!!)


友木は水浦の策略に嵌っていた…。


〜〜〜〜

『勇者』のサブ権能

自分が敵だと思う対象が目の前にすると、『聖心のオーラ』を発生させる。

これに触れたものは魔力の操作が困難になる。

『聖心のオーラ』は【聖心力】の数値に関わってくる。

〜〜〜〜


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