「クラス転移で無能扱いされた。俺不遇すぎ」って呟いたら、とんでも美少女の魔王に拾われた件

九条 夏孤 🐧

第1話 クラス転移

「ふう、今日も天気がいいな…」


友木は教室の窓から外を眺める。

そこには雲一つない青空が広がっていた。


「おはよう」


すると、不意に声を掛けられた。その方を振り向くと一人の女子高生が佇んでいた。


「あぁ、おはよう」


何でもないように俺は言葉を返す。


彼女は俺の隣に座っている子。

名前はミクル、茶髪ロングヘアでスタイルもいいのが特徴である。

もちろん他のクラスメイトからも大人気で一時期告白ブームとかで一週間放課後の時間が埋まってたとか。

そんな噂すら立つほどの人気さを誇る。


(……わざわざ、俺に絡んでくるのは理解不能だけど……)

席が隣という関係があるものの、授業外でもミクルやたらに話しかけてくる。

軽くあしらったらムスッと顔をしかめるし、しっかり反応したら笑顔だし……

そんなミクルに対して友木は疑問を持っていた。


「ねぇ、今日の体育ってマラソンだってさ」


「えぇ……マジかよ……」


「他クラスとの対抗とか楽しみだね!頑張ろう!」


「うーん。善処する…」


「頑張らないやつじゃんw」


そんな他愛もない会話をしながら朝のホームルームが始まった。

チャイムと同時くらいに担任の教師が入ってくる。


「おぉ~い!お前ら席についてるか?ホームルーム始めるぞ!!」


「起立!!気をつけ!!礼!!!着席!!!」


日直の掛け声とともに授業が始まった。

―――1限目 数学の授業中 先生が黒板に公式を書きながら解説をしている。

だが、友木の頭には内容が入ってこなかった。


(あぁ~……眠いな……)

友木はあくびを噛み殺しながらふと窓の外を見る。

すると、その視線の先にはグラウンドを走る生徒達の姿があった。

(皆元気だな……。朝っぱらからお疲れ様ー)

友木はそう思いながらぼけーっと眺めていた。

その時だった。

突然、地面が激しく揺れ始めたのだ。


「きゃああああああ!!!」


クラスの男子、女子生徒が共に大きな悲鳴を上げる。

それと同時に、教卓の上に立っていた教師がバランスを崩し視線から消えたのであった。

ドサッ!!!さらに友木は鈍い音を立てて地面に叩きつけられてしまった。


「いてて……」


ペタペタと体を触って確認する……どうやら怪我はないようだ。

そうして安心したのもつかの間、次の悲劇がおこった。

なんと教室全体が眩しい光に包まれるのであった。


「なんだ!?」

「何が起こったんだ!?」

「きゃああ!!」

「目が見えない!!」

「助けてくれ!!」


クラス中の生徒たちから叫び声が上がる。

しかし、抵抗も空しく光に連れ去られてしまった。

そしてやっと目の前は見えるようになった時、友木たちは見知らぬ場所にいた。

そこは薄暗い洞窟のような空間。

どこかジメジメして薄気味悪い場所であった。


「ここはどこだ?」

「いったい何が起きたの?」

「おい!あれを見ろ!!」


一人の男子生徒が指をさす方向を見ると、巨大な魔法陣のようなものが描かれていた。

「これは……まさかラノベとかでよく見る召喚術なのか?」

誰かがつぶやく。

友木はその言葉を聞き、嫌な予感が頭の中をよぎった。


(まさか異世界にでも来たのか?そんな馬鹿な……)


不安を抱きながらも友木は周りの様子を伺った。

すると、クラスメイトたちが騒ぎ始めているのが目に映った。


「うわあ、ここどこだよ…」

「これって異世界転移じゃね!?」

「それはありえないwww」

「おい、ステータス画面出たぞ!」

「まじかよ!異世界か?ww」

「私にも見えたわ!」


友木は彼らの会話を聞いて唖然とした。


(えっ?なんでみんな冷静でいられるの?ていうかステータスとか見えるの?マジかよ……)


友木が困惑していると、クラスの委員長である男子が話しかけてきた。

名前は確か…水浦と言った気がする…。

あまり、覚えるほど接点がなかった。

彼は爽やかなイケメンだ。

成績優秀スポーツ万能、人望もある。

まさに完璧超人という感じの男だ。


「友木君、ステータスって唱えれば自分の能力が分かるはずだよ。試してごらん」


「あぁ……」


言われるままに友木は自分のステータスを確認した。

【名前】ユウギ・トモキ 【種族】人間族 【年齢】16歳 【レベル】1 【体力】120/120

【魔力量】?【聖心力】2

【ギフトスキル】

さえずる『Lv1』

【ユニークスキル】

【称号】


友木は驚いた。

確かに自分の名前が表示されているのも驚きだが、それ以外に普段数値化されるはずの無い項目まで数値化されている事に対して……。

まるでゲームの世界に入ったような気分になった。


(てか…さえずるってなんだ?)


友木は自分のギフトスキルに不信感を抱く。

聞いた感じ……めっちゃ弱そう。


「友木君、ここに書かれているギフトスキルに何が書いてあるのかい?」

「えっと……」


急に話しかけられて対応に焦っていた。

そんな時、上の方で声が聞こえる。


「ようこそ勇者様。どうかこの世界を魔王の手から救ってくださいませ……」


そこにはローブを着た女性が立っていた。

おそらく彼女が俺たちをこの場所に転移させたのだろう。


(うわー胡散臭いな…。これって世界救えとか言われるんじゃ…)

友木はラノベの典型的な展開を思い浮かべて、苦い顔をする。


「あの、すみません。いくつか質問があるのでいいですか?」


誰も言葉を発しない中、勇気ある水浦がその女性へ声を掛けた。


「はい? なんでしょうか?」



「まず、ここはどこなのですか?そして、あなたは何者ですか?」


皆はストレートな質問に驚いた。

しかしその女性は平然と答えるのであった。


「名乗り出ていないこと、申し訳ありません。私は貴方たちを召喚させていただいた、ミュラルド王国の王女です。もちろんここはミュラルド王国の地下。いまから城内へ案内させていただきます」


聞いたことも無い国に確信を持った。

(やっぱり異世界に来たのか……)


「私たちはなぜここに連れてこられたのでしょう?」


続けて水浦が尋ねる。

「それは……魔族の長である魔王を討伐してほしいのです。このままでは私たちの国だけではなく世界中の国が滅んでしまいます。だから、こうして勇者様にお願いをしているのです。どうかお力をお貸しください!」


王女は必死に訴えかけてくる。


「ふざけんな!!いきなり呼び出しておいて、世界を救う手伝いをしろだと!?」


一人の男子生徒が怒りの声を上げた。


「そうだ! 俺たちを元の場所に返せ!!」


「早く帰らせろ!!」その声を皮切りにクラス中がざわつき始めた。


「静粛に!! 静かにしてください!!」


王女が叫ぶが、なかなか収まらない。


「皆さん落ち着いてください!!これ以上騒がれてしまうと、私は魔法を使うほかありませんよ」


そう言うと、王女は杖を振りかざし呪文を唱える準備をする。

(これって、まずいんじゃ…)

その時、ある静止の声が入った。


「みんな!静かにしよ!私達だけじゃどうすることもできないよ…。だから話を聞くだけ聞いてみよ!」


声の正体はミクルだった。

誰もが安心感を抱けるような声に、皆は静かになる。


「あぁ、そうだ。大丈夫!何があっても僕が守ると保証するよ!何せ僕のスキルは勇者だからね」


続けざまに水浦が声を出した。

自信満々といった様子だ。


「ありがとうございます……勇者様。それでは話を戻させていただきます」

王女の話が始まった。


「現在、我が王国には魔王の配下である悍ましい魔物たちが攻めてきています。このままでは罪のない国民に被害が出てしまいます!ですから勇者様のお力でどうか……魔物を退けて、そしてゆくゆくは魔王を討伐してほしいのです!!」


彼女は真剣な眼差しで訴えかける。


「話の全容は把握しました。それで、もし……断ったらどうなりますか?」


水浦は鎌をかける。


「…その場合でも、強制的に魔王と戦ってもらいます」


「無理やり!? どういうことだ?」


周囲から声が漏れる。


「はい、先ほども言いましたが、もしも勇者様が協力してくれない場合は我が国は滅び、世界が魔王によって支配されてしまいます。貴方たちの転送する魔法も私たちが握っています。断れば一生帰れない。つまり死を意味します」


「なんだよ……それ……」

「嘘をつくな!!」

「脅すつもりか!?」


再びクラスが騒ぎ始める。


「いえ、脅しではありませんよ?それに、わが国には勇者様より強いお方はたくさんおられます。それでも逆らいますか?」


あまりの理不尽さに、クラスの人たちは口々に不満の声を出したのであた。

やはり、異世界召喚はハードモードと言った所だな。


「くそっ……」


クラスのみんなは悔しそうな表情を浮かべる。


「さあどうしますか?勇者様?もちろん協力してくれますよね?」


王女は水浦の方を見て問いかけてきた。


「……要件を飲もう。協力する」


水浦は渋々と答える。


「ありがとうございます!これで決まりですね!」


王女は満足げに微笑んだ。


「では早速ですが、こちらに来ていただいてもよろしいですか?」

「……ああ、分かった」


水浦はゆっくりと答えた。

そして疑心暗鬼のまま、クラス一同、王女について行くことにした。

もちろん、友木も後ろからついて行く。

しかし友木は途方もない程の不安感を抱いていた。

(話纏まっちゃったけど、完全に俺らピンチだよなあ)

王女と水浦の後ろ姿を眺めながら、友木はそんなことを考えていた。


「着きました。ここが王の間です」


王女が扉を開けると、そこには王女とは段違いの覇気を纏った人物が大きな席に座っていた。


「よくぞ来てくれた、勇者殿たちよ。私はこの国の王、レイラ・フォン・ミュラルドだ。よろしく頼む」


(あれが王様か……)

友木はまじまじと見つめる。


「私は勇者の水浦拓斗です。これからよろしくお願いします」


水浦だけが名乗り出る。

その様子を王様は満足げに見つめていた。


「おぉ、勇者が現れたか…。それはうれしい事だ…。さあ他の者もステータスを見せておくれ」


すると、王女は水晶玉を持ってきた。

その大きさはバスケットボールくらいの大きさだろうか。

友木は見慣れない物体に困惑していた。

王女は一人づつ水晶に触れさせる。

触れた人から光を放ち、文字が浮かび上がってくる。

どうやら、今さっきした、唱える方のステータスでは共有ができなかった。しかし水晶にかざす方法を使えば、他の人も閲覧できるようになったのである。


「うむ、『聖戦士』か悪くない」


どうやら友木の前に座っていた男子は聖戦士というギフトスキルを持っているようだ。

しかし、それがどんな能力なのかは分からない。

とりあえず名前的に強そう。

さらに水晶は次々とクラスメイトたちのステータスを解析していくのであった。


「わあ!ミクルちゃんのスキルって『聖女』じゃん!これってヤバくない?!」


「そ、そうかなあ…。えへへ」


隣で女子同士、会話に花を咲かせている。

(聖女か…超重要役職だな…)

聖女って勇者補佐する役職……つまり最強サポート役かな。

友木は異世界転生あるあるを勝手に推測していた。


そして、最後に友木の番になった。

ドキドキしながら水晶に手を当てる。

光が放ち、文字が映し出された。

―――ッ!? 王女は目を疑う。


なぜなら、そこに書かれていたのは……

――さえずる 平仮名でたった四文字。それだけだったからだ。


(え?みんな動揺しすぎじゃね?)


友木は不思議そうに首を傾げた。

周囲は静まり返っており、誰一人として友木に目を向ける者はいなかった…。

ただ一人を除いて…

そう、クラスの中で一番初めに自分のスキルを明かした水浦に話しかけた。

その表情はどこか勝ち誇っているように見える。

それはそうだ。


「友木君…スキルの性能を開示してくれないか?」


水浦は勇者であり、誰しもが認める重要役職だからだ。

彼は薄笑いを浮かべながら、友木に語りかけた。

友木は少し悩んだ後、スキルを使ってみることにした。

(多分、この不思議な感覚がスキルだから…おぉ!使えた感触あり!)

友木は自信ありげにスキルを使用する。

王女は呆然としている。

それはそうだ。

なんせ、目の前にいる男、友木は、ノイズをまき散らしただけだったからだ。


〈ピーピピッ!ビーピー〉


そのスキルの性能の悪さに、クラス全体が唖然となる。

ただ聞こえるのは友木のスキル『さえずる』のノイズだけ。

しかし、静まり返っている中、一人だけ違う反応をした人物がいた。

それは水浦だった。

彼は腹を抱えて笑っていた。

目に涙も浮かべているほどだった。


(なんだこいつ……)


友木は心底理解できなかった。

何が面白いのかが。

水浦はひとしきり笑うと、目に浮かべた涙を拭いながら言った。

その顔には偽りの笑顔が張り付いていた。

底に隠している本性はまるで、悪魔のようだった。


水浦は話を続けた。

淡々と、そして感情を押し殺した声で。


「もしかして…こんな雑魚スキルが戦力になると思ったのかい?」


「雑魚スキルってちょっと言いすぎだと思うんだけど……」


「そんなノイズまき散らしたら味方にすら迷惑だとも考えずに。へえ」


そう言うと、水浦は王様に語りかけた。


「友木の扱いはどうしましょうか…?」


水浦の問いかけに王様は答える。

友木を見下すような視線で。

王女もすまし顔をして友木を見つめていた。

誰からも擁護する雰囲気は微塵も感じなかった。

水浦は続ける。


「もし、逆恨みに彼が、僕たちに危害を加えようとするなら……」


そこで言葉を切る。

友木は、何を言われるか察してしまった。


「殺しても構いませんよね?」


「ああ、いいだろう」


王様は即答する。

それほどまでに、友木のスキルに使い道を感じなかったのであろう。


「ちょっ……」


友木は反論しようとするが、遮られる。


「友木といったか者か…もし拒むのなら追放しか手が無い。覚悟をしておきなさい」


王様は威圧的に告げる。

その目は本気だった。


「くっ……」


友木は苦虫を噛み潰したかのような表情をする。


「まあ、安心はしてほしいな。僕は皆の味方だよ。僕だって好きで脅しているわけじゃないんだ。皆を助けるため、それは理解してくれているかな?」


先ほどまでとは打って変わって優しく語りかける水浦。


「あぁ、もちろんだとも」

「水浦君カッコいい!」

「勇者の威厳やべえ…!!」


大多数は水浦の言葉を肯定した。


「友木君はどう思う?」


水浦は友木にも問いかけた。


「……」


友木は何も答えられなかった。


「まあ、いきなりは難しいかもしれないけど、これからよろしくね!」

水浦は爽やかな表情で答えた。


(俺はここで生きていくしかない…のか?いや、それだけは俺が許せない)

友木自身の心の中で決意が固まる。

それは、自分自身が選んだ最善の選択だった。


「……きます」


俺の言った言葉が聞き取れず、いや……予想外の返答で耳が受け付けなかったのかもしれない。

再度、水浦は問いただしたのであった。


「一体どうしたんだい?」


「そんなの決まってる!俺はこの王国出ていきます!!!」


この日、俺は追放される道を選んだ。






~~作者より~~

なう(2024年7月19日)ちょこっと推敲しています。

続き出るかも??知らんけど。

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