「クラス転移で無能扱いされた。俺不遇すぎ」って呟いたら、とんでも美少女の魔王に拾われた件

九条 夏孤 🐧

第1話 クラス転移

「ふう、今日も天気がいいな…」


友木は教室の窓から外を眺める。

そこには雲一つない青空が広がっていた。


「おはよう」


すると、教室に入ってきた女子生徒が声をかけてきた。


「あぁ、おはよう」


彼女はクラスメイトで隣の席に座っている女の子だ。

名前はミクル、茶髪ロングヘアでスタイルもいい。

(なんで俺に絡んでくるのか知らねえけどなあ)

席が隣という関係があるものの、授業外でもミクルやたらに話してくる。

そんなミクルに対して友木は疑問を持っていた。


「ねぇ、今日の体育ってマラソンだってさ」


「えぇ……マジかよ……」


「頑張ろうね!」


「うーん。善処する…」


「頑張らないやつじゃんw」


そんな会話をしながら朝のホームルームが始まる。

担任の教師が入ってくる。


「おぉ~い!お前ら席についてるか?ホームルーム始めるぞ!!」


「起立!!気をつけ!!礼!!!着席!!!」


日直の掛け声とともに授業が始まった。

―――1限目 数学の授業中 先生が黒板に公式を書きながら解説をしている。

だが、友木の頭には内容が入ってこなかった。

(あぁ~……眠いな……)

友木はあくびを噛み殺しながら窓の外を見る。

その視線の先にはグラウンドを走る生徒達の姿があった。

(皆元気だな……。朝っぱらからお疲れ様ー)

友木はそう思いながらぼけーっと眺めていた。

その時だった。

突然、地面が激しく揺れ始めたのだ。


「きゃああああああ!!!」


クラスの女子生徒が悲鳴を上げる。

それと同時に、教卓の上に立っていた教師がバランスを崩し落下した。

ドサッ!!!友木は鈍い音を立てて地面に叩きつけられた。


「いてて……」


どうやら怪我はないようだ。

しかし、その直後のことだった。

教室全体が眩しい光に包まれたのだ。


「なんだ!?」

「何が起こったんだ!?」

「きゃああ!!」

「目が見えない!!」

「助けてくれ!!」


クラス中の生徒たちから叫び声が上がる。

そして光が収まった時、友木たちは見知らぬ場所にいた。

そこは薄暗い洞窟のような空間だった。


「ここはどこだ?」

「いったい何が起きたの?」

「おい!あれを見ろ!!」


一人の男子生徒が指をさす方向を見ると、巨大な魔法陣のようなものが描かれていた。

「これは……まさか召喚術なのか?」

誰かがつぶやく。

友木はその言葉を聞き、嫌な予感がしていた。

(まさか異世界にでも来たのか?だとしたら……これから俺は一体どうなるんだ?)

不安を抱きながらも友木は周りの様子を伺った。

すると、クラスメイトたちが騒ぎ始めていることに気づく。


「うわあ、ここどこだよ…」

「これって異世界転移じゃね!?」

「それはありえないwww」

「おい、ステータス画面出たぞ!」

「まじかよ!異世界か?ww」

「私にも見えたわ!」


友木は彼らの会話を聞いて唖然とした。

(えっ?なんでみんな冷静でいられるの?ていうかステータスとか見えるの?マジかよ……)

友木が困惑していると、クラスの委員長である男子が話しかけてきた。

名前は確か…水浦と言った気がする…。

あまり、覚えるほど接点がなかった。

彼は爽やかなイケメンだ。

成績優秀スポーツ万能、人望もある。

まさに完璧超人という感じの男だ。


「友木君、ステータスって唱えれば自分の能力が分かるはずだよ。試してごらん」


「あぁ……」


言われるままに友木は自分のステータスを確認した。

【名前】ユウギ・トモキ 【種族】人間族 【年齢】16歳 【レベル】1 【体力】120/120

【魔力量】?【聖心力】2

【ギフトスキル】

さえずる『Lv1』

【ユニークスキル】

【称号】

友木は驚いた。

確かに自分の名前が表示されているが、それ以外に普段数値化されないものまで数値化されている。

まるでゲームの世界に入ったような気分になった。

(てか…さえずるってなんだ?)

友木は自分のギフトスキルに不信感を抱く。

「友木君、ここに書かれているギフトスキルに何が書いてあるのかい?」

「えっと……」

急に話しかけられて対応に焦っていた。

そんな時、上の方で声が聞こえる。

「ようこそ勇者様。どうかこの世界を魔王の手から救ってくださいませ……」

そこにはローブを着た女性が立っていた。

おそらく彼女が話していたのだろう。

(うわー胡散臭いな…。これって世界救えとか言われるんじゃ…)

友木は嫌な雰囲気に顔を顰めていた。


「あの、すみません。いくつか質問があるのでいいですか?」


勇気ある水浦が声を掛けた。


「はい? なんでしょうか?」


女性は聞き返す


「まず、ここはどこなのですか?そして、あなたは何者ですか?」


「名乗り出ていないこと、申し訳ありません。私は貴方たちを召喚させていただいた、ミュラルド王国の王女です。もちろんここはミュラルド王国の地下です」


聞いたことも無い国に確信を持った。

(やっぱり異世界に来たのか……)


「私たちはなぜここに連れてこられたのでしょう?」


続けて水浦が尋ねる。

「それは魔族の長である魔王を討伐してほしいのです。このままでは私たちの国だけではなく世界中の国が滅んでしまいます。だから、こうして勇者様にお願いをしているのです。どうかお力をお貸しください!」


王女は必死に訴えかけてくる。


「ふざけんな!!いきなり呼び出しておいて、世界を救う手伝いをしろだと!?」


一人の男子生徒が怒りの声を上げた。


「そうだ! 俺たちを元の場所に返せ!!」


「早く帰らせろ!!」その声を皮切りにクラス中がざわつき始めた。


「静粛に!! 静かにしてください!!」


王女が叫ぶが、なかなか収まらない。


「皆さん落ち着いてください!!これ以上騒がれてしまうと、私は魔法を使うほかありませんよ」


そう言うと、王女は杖を振りかざし呪文を唱える準備をする。

(これって、まずいんじゃ…)

その時、ある静止の声が入った。


「みんな!静かにしよ!私達だけじゃどうすることもできないよ…。だから話を聞くだけ聞いてみよ!」


声の正体はミクルだった。

誰もが安心感を抱けるような声に、皆は静かになる。


「あぁ、そうだ。大丈夫!何があっても僕が守ると保証するよ!何せ僕のスキルは勇者だからね」


続けざまに水浦が声を出した。

自信満々といった様子だ。


「ありがとうございます……勇者様。それでは話を戻させていただきます」

王女の話が始まった。


「現在、我が王国には魔王の配下である魔物たちが攻めてきています。このままでは民たちに被害が出てしまいます!ですから勇者様のお力でどうか魔王を倒してほしいのです!!」


彼女は真剣な眼差しで訴えかける。


「話はわかりました。それで、もし断ったらどうなりますか?」


水浦は鎌をかける。


「…その場合は、強制的に魔王と戦ってもらいます」


「無理やり!? どういうことだ?」


周囲から声が漏れる。


「はい、先ほども言いましたが、もしも勇者様が協力してくれない場合は我が国は滅び、世界が魔王によって支配されてしまいます。つまり、断れば死を意味します」


「なんだよ……それ……」

「嘘をつくな!!」

「脅すつもりか!?」


再びクラスが騒ぎ始める。


「いえ、脅しではありませんよ?それに、今ここで選択権があるのは勇者様だけです。他の方たちは私の指示に従ってもらうしかありません。もちろん勇者様の実力以上の兵士も私たちの国には存在します。逆らいますか?」


クラスの人たちは口々に不満の声を出した。

やはり、異世界召喚はぬるく無かったのだ。


「くそっ……」


クラスのみんなは悔しそうな表情を浮かべる。


「さあどうしますか?勇者様?もちろん協力してくれますよね?」


王女は友木の方を見て問いかけてきた。


「……要件を飲もう。協力する」


水浦は渋々と答える。


「ありがとうございます!これで決まりですね!」


王女は満足げに微笑んだ。


「では早速ですが、こちらに来ていただいてもよろしいですか?」

「ああ」


水浦は答えた。

そして王女について行くことにした。

クラスメイトたちも水浦に続く。

友木は不安を抱いていた。

(話纏まっちゃったけど、完全に俺らピンチだよなあ)

王女の後ろ姿を眺めながら、友木はそんなことを考えていた。


「着きました。ここが王の間です」


王女が扉を開けると、そこには王様らしき人物が王座に座っていた。


「よくぞ来てくれた、勇者殿たちよ。私はこの国の王、レイラ・フォン・ミュラルドだ。よろしく頼む」


(あれが王様か……)

友木はまじまじと見つめていた。


「私は勇者の水浦拓斗です。これからよろしくお願いします」


水浦だけが名乗り出る。

その様子を王様は満足げに見つめていた。


「おぉ、勇者が現れたか…。それはうれしい事だ…。さあ他の者もステータスを見せておくれ」


すると、王女は水晶玉を持ってきた。

その大きさはバスケットボールくらいの大きさだろうか。

友木は見慣れない物体に困惑していた。

王女は一人づつ水晶に触れさせる。

触れた人から光を放ち、文字が浮かび上がってくる。

どうやら、唱える方のステータスでは共有ができないらしいが、水晶にかざすと他の人も閲覧できるようになるらしい。


「うむ、『聖戦士』か悪くない」


どうやら友木の前に座っていた男子は聖戦士というギフトスキルを持っているようだ。

しかし、それがどんな能力なのかは分からない。

そして次々とクラスメイトたちのステータスを確認していく。


「わあ!ミクルちゃんのスキルって『聖女』じゃん!これってヤバくない?!」


「そ、そうかなあ…。えへへ」


隣で女子同士、会話に花を咲かせている。

(聖女か…超重要役職だな…)

友木は異世界転生あるあるを勝手に推測していた。

…。

そして、最後に友木の番になった。

ドキドキしながら水晶に手を当てる。

光が放ち、文字が映し出された。

―――ッ!? 王女は目を疑う。

なぜなら、そこに書かれていたのは……

――さえずる それだけだった。

(え?みんな動揺しすぎじゃね?)

友木は不思議そうに首を傾げた。

周囲は静まり返っており、誰一人として友木に目を向ける者はいなかった…。

ただ一人を除いて…

そう、クラスの中で一番初めに自分のスキルを明かした水浦に話しかけた。

その表情はどこか勝ち誇っているように見える。

それはそうだ。


「友木君…スキルの性能を開示してくれないか?」


水浦は勇者であり、誰しもが認める重要役職だからだ。

彼は薄笑いを浮かべながら、友木に語りかけた。

友木は少し悩んだ後、スキルを使ってみることにした。

(多分、この不思議な感覚がスキルだから…おぉ!使えた感触あり!)

友木は自信ありげにスキルを使用する。

王女は呆然としている。

それはそうだ。

なんせ、目の前にいる男、友木は、ノイズをまき散らしただけだったからだ。

〈ピーピピッ!ビーピー〉

その光景に、クラス全体が唖然となる。

誰も声を出せない。

だが、ただ一人だけ違う反応をした人物がいた。

それは水浦だった。

彼は腹を抱えて笑っていた。

目に涙を浮かべている。

(なんだこいつ……)

友木は心底理解できなかった。

何が面白いのかが。

水浦はひとしきり笑うと、目に浮かべた涙を拭いながら言った。

その顔には笑顔が張り付いていた。

まるで、仮面のように。

水浦は続けた。

淡々と。

感情を押し殺した声で。


「もしかして…こんな雑魚スキルが戦力になると思ったのかい?」


そう言うと、水浦は王様に語りかけた。


「友木の扱いはどうしましょうか…?」


水浦の問いかけに王様は答える。

友木を見下すような視線で。

王女は心配そうな顔をして友木を見つめていた。

水浦は続ける。


「もし、僕たちに危害を加えようとするなら……」


そこで言葉を切る。

友木は、何を言われるか察してしまった。


「殺しても構いませんよね?」


「ああ、いいだろう」


王様は即答する。


「ちょっ……」


友木は反論しようとするが、遮られる。


「友木といったか者か…もし拒むのなら追放しか手が無い。覚悟をしておきなさい」


王様は威圧的に告げる。

その目は本気だった。


「くっ……」


友木は苦虫を噛み潰したかのような表情をする。


「まあ、安心してほしい。僕は皆の味方だよ。僕だって好きで脅しているわけじゃないんだ。皆を助けるため、それは理解してくれているかな?」


先ほどまでとは打って変わって優しく語りかける水浦。


「あぁ、もちろんだとも」

「水浦君カッコいい!」

「勇者の威厳やべえ…!!」


大多数は水浦の言葉を肯定した。


「友木君はどう思う?」


水浦は友木にも問いかけた。


「……」


友木は何も答えられなかった。


「まあ、いきなりは難しいかもしれないけど、これからよろしくね!」

水浦は爽やかな表情で答えた。


(俺はここで生きていくしかない…のか?いや、それだけは俺が許せない)

友木自身の心の中で決意が固まる。

それは、自分自身が選んだ最善の選択だった。


「……きます」


俺の言った言葉が聞き取れず、水浦は問いただした。


「どうしたんだい?」


「俺はこの王国出ていきます!!!」


この日、俺は追放される道を選んだ。




作者より。

アステラに続き、

不定期投稿作品(不定期作品にはAIべリスト君を少し使って書いています)

です。

「アステラ」

https://kakuyomu.jp/works/16817330658905447972

通常はこちらを投稿しているのでお願いします。

「女神さまに頼まれて勇者パーティーで悪役を演じることになりました。精一杯演じているけど勇者以外にバレてる気がするんだが…?」

https://kakuyomu.jp/works/16817330657550288540


決して代表作品の執筆をサボっていないという言い訳程度の「あとがき」でした。

よろしくお願いします!!

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