第28話 方眼
無音を嫌ってつけていたテレビから、世間が夏休みに突入したと聞かされた朝のこと。レジャーに帰省にと楽しそうな予定を並べ立てたあとに、夏休みの宿題特集なるものが行われていた。
「そんな可哀想な順番で放送しなくても」
「子どもは見てないだろ、朝の情報番組なんて」
「それはどうかと? 親がつけてるチャンネルそのまま見てる、はあるじゃん」
朝食のトーストにバターを塗り、その上へブルーベリージャムをたっぷり乗せながら和樹は言った。その食べ方はどうなんだ、といつも思うが、彼の実家がこの食べ方をするらしい。
明美の今日の気分はジャムだった。彼が使ったジャムの瓶を貰い受け、トーストにジャムを塗る。一口食めば耳はこんがり、中はふわっと、ブルーベリーのしつこくない甘さがいいアクセントになっている。最近新調したトースターは、なかなかいい仕事をするな、と幾度目かの感想を抱きながら、朝食をすすめる。
テレビは夏休みの宿題の話を続けていて、最近は自由研究にAIが活用されるシーンがあるのだと告げていた。
「自由研究かー、いい思い出、ないな……」
「そうなの? カズ得意そうじゃん」
彼の今の仕事はWebライターである。当然ながら物事を調べ、取材をしてまとめることも多い仕事だ。
「当時は外で虫取りする活発な少年だったんだよ。明美は?」
「……記憶にございません」
「なんだその都合の悪い場面での代名詞みたいなのは」
和樹につられて明美も笑うが、実際ほとんど覚えていないのである。
「まぁ、お母さんに手伝ってもらったよね……文章とか書くの昔から苦手だったから」
テレビに目を向ければ、方眼紙に文章を書いていく子どもの姿が目に入った。
「方眼紙はあれ以降使った記憶ないなぁ」
「オレもそうだな。原稿用紙のがまだある」
電子機器が普及した今でも、自由研究はどうやら手書きで提出らしい。
変わりゆく世界の中でも、かつてと同じ部分が残っているのだと思うと、なんだか少し心が落ち着いた。
明美はトーストをもう一口食べ進める。
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