第18話 占い
目覚ましの三度目の催促でようやく意識がのっそりと浮上する。連日の熱帯夜はもれなく寝苦しさを連れてきて、何も対策しないで寝るのは厳しい時期になっていた。
そうは言ってもまだ7月半ば、梅雨は明けていないときた。これからますます暑くなると思うとげんなりする。
半分寝ぼけた頭でベッドを出て、洗面台で顔を洗う。いささかスッキリした気がするが、それでも気だるさは抜けない。
そのままリビングへの扉を開けた。ここもここで、もわっとした空気がこもっている。せめてもの抵抗で窓を開ける。どうせ三十分後には出勤時刻だ。今からクーラーをつけたところで、部屋が冷えてきた頃には外へ出ないといけない。
食パンにスライスチーズを乗せてトースターにつっこむ。トーストができる間に湯を沸かし、カップスープを作りながらテレビをつけた。朝の情報番組が流れ出す。
チン、と軽い音がしてトースターの電源が切れる。熱いトーストを皿で受け、カップスープとともにテレビの前のソファへ移動した。
テレビは芸能ニュースの時間に切り替わっていた。最近のはやりは知らないし、単に無音が嫌でつけているだけに過ぎない。あまり真面目に見るわけでもなく、トーストを口に運んだ。
もそもそといつも通りの朝食を食べているうちに、テレビは芸能ニュースから天気予報へ切り替わった。今日も日本全国危険な酷暑になるという。これから外へ出るというのに、とげんなりした。
(在宅勤務ができた時は楽だったなぁ)
未曾有の感染症の流行で、できうる限りの人流制限がかかったのは三年前のことだ。
もとより自分はシステム開発系のエンジニアで、インターネット環境が整っていればどこであっても仕事ができる。会社への出勤義務がなくなり、在宅で成果を上げる方針に所属会社も切り替えた。出勤時間がなくなり、満員電車に乗ることもなくなり、いい事ずくめだったのだが。
「これからは出社勤務を原則とする」などと会社の上役が言い出したおかげで、以前の生活に無理やり戻されることが決まってしまった。感染症自体は未だ存続したままだし、会社近くの高校は感染症がまん延して学校閉鎖状態だ。正直なところ、勘弁してほしい。
とはいえ、一介の平社員が何かをいったところで、状況は何も好転しないのだ。粛々と感染対策に勤しむよりほかにない。
天気予報が終わると、数分の星占いのコーナーが始まった。着替えのために立ち上がり、流しへ食器を入れながら音だけで聞いている。
いつも星占いで読まれる星座はランダムだが、たまたま今回は自分の星座が当たったらしい。ラッキーカラーは水色。いつもと違う道を通って帰るといいことがあるかも。そんな声を聞きながら、クローゼットを開いた。
(このクソ暑い中、別の道を通って帰るのは死では?)
星占いを信じたことはほとんどない。星占いだけでなく、占い全般に関してそうである。ただ、占いによって何かを選択する「勇気」のようなものをもらっている人間がいるのも、よく知っている。験担ぎ、とでも言うのだろうか。
この日、並ぶシャツの中から手に取ったのは水色の半袖シャツだった。
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