第13話 流しそうめん

 目の前には伐採された竹の山が積み上がっていた。庭先にどんどん積み上がるそれをはじめは楽しく見ていたが、そのうちその物量に笑っていられなくなった。

 祖父の持っていた山を一部整備する一環で、と竹林の伐採を業者に頼んだわけだが、それなりに広いであろう祖父宅の庭が半分ほど埋まることになろうとは。

「とーちゃん、とーちゃん、あれなに?」

「あれなに??」

 両脇から遊び盛りの5歳児ふたりが目をキラキラと輝かせて、積み上がって行く竹を眺めている。2人の両手を掴んでいなければ今にも駆け寄っていきそうな勢いである。

「じいちゃんの山に生えてた竹だよ。危ないから近寄んじゃないぞ」

 そうこう言っているうちに、どうやら作業は終わったらしい。挨拶に来た業者の話を聞けば、今日中にすべてを処分するのは難しいため、一時的に仮置きさせてもらいたい、とのこと。もともとこの祖父宅は今でほとんど使っていない。どうぞどうぞ、と話をまとめた。

「あんなにあるのに、なんだかもったいない気もするね」

「言っても使いみちなんてないだろ」

 妻の言葉に竹の山を見た。祖父は手先が器用で竹細工などを趣味で作っていたものだが、そんな手先の器用さには恵まれなかった。

 そんな折、ふと思い出したことがある。祖父がまだ若く現役で働いていた頃、自分が幼い子どもだった時分の光景だ。ちょうど、2人の子どもくらいのときだったかもしれない。

「志保、あしたの昼飯はもう決めてるか?」

「明日? いいえ、明日買い物に行って決めようと思っていたからまだだけど」

「それじゃあ、明日はそうめんにしてくれないか」

 いいけど、とどこか困惑気味の妻の声を背に受けながら、かつての自分の部屋へ向かう。引っ張り出してきたのは白い紙と鉛筆、そして定規だ。

「何するの?」

「まずは設計図を書かないと。強度計算して施工図を書く」

 日頃仕事で使っている製図ソフトがあればどれだけいいか、と思いながら、線を引く。


 翌朝、竹を割る音で周囲の人々が野次馬ぎみに覗きに来た。事情を説明すると、一緒に昼食を、ということで手を貸してくれるらしい。その中には、かつての「思い出」の場面に立ち会った人もいた。経験者がいるのはかなりありがたい。図面を引くのは人並みにできるが、それ以外はさっぱりなのだ。


 とはいえ、図面通りの施工が素人仕事でできるはずもなく、いくらか計画変更をしながらもどうにかこうにか、竹のスライダーは組み上がった。大人の背でも脚立を使わないと流し口に届かない程の力作である。

 半日で出来上がった建造物に子どもたちは大はしゃぎしていた。そのせいで何度か崩れそうにもなったが、なんとか本番を迎えるまでもってくれた。


「それじゃあ流すぞー」


 流すそうめんは参加家族で持ち寄り、おかずがあるといい、とその他の食材も集められ、にぎやかな流しそうめん会が始まった。

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