第23話[どうやら風は遺跡から出ているようで]
「ハイヒール……」
「あー、助かるよエクレちゃん、ヒーラーがいるって良いなぁ……ありがとねー」
「どう…いたし…まして」
物陰に隠れてエクレの回復で体力を回復する、シャドウスコーピオンもアビスリーパーもかなり高レベルの魔物で一体一体でも討伐がかなり難しい、俺たちで挑んでも無双出来るとかそんなことがあるわけがないので普通に……エクレの回復魔法がかなり高レベルなのが本当にありがたい、こういうハイレベルな魔物達の討伐にはヒーラーは必須と言われているがそれを今身をもって体感している
「本当に厄介ですね、これ」
「あぁ、少しでも油断したら腕の一本でも持ってかれそうだ……そもそもこの地域にシャドウスコーピオンもアビスリーパーも出てきたなんて聞いたこともない、やっぱり[死の風]が強く影響しているのか…」
「はぁ……はぁ……」
「?エクレ、大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……?は、はい、なんとか」
「無理せずエクレも休憩してくれ、結界も結晶に魔力かけて俺が発動しとくから」
「あ、ありがとうございます……」
ペタンと座り込み休み始めるエクレ、それを確認しながら魔道具・結界結晶に魔力を入れて結界を発動する
「にしても、よく俺たちの位置がわかったな」
「ブレイブ君が案内してくれたんです、[こっちにお二人ともいるはずです]と」
「ブレイブが……」
「……そういや、オレオール、大丈夫か?結構魔力込めたみたいだが」
「ん?あぁ、俺なら平気だよ、元から魔法は使えないからこうやって魔道具を発動するくらいでしか魔力使わないしな」
「……オレオールってまじで魔法使えないんだよな」
「そ、全然全くさっぱり使えない」
この世界に魔法が使えない人間なんてたくさんいる、魔力という概念は誰にでもあるのだけど魔法に適性がないと魔法が使えないということなのだ、別に適正に調査があるわけではなく、ある日自然に適正ありは魔法が使えるようになるのだ、俺にはその適性がなかったから剣で努力してきた、別に魔法が使えないからと言って差別があるわけじゃないし実力が高ければその分強いと言われる
「俺ですらアタックブーストくらいなら使えるけど……魔法で言えば、ブレイブ君の使うあの刀を鞭みたいにするやつ、あれは初めて見たな」
「師匠の教えてくれたオリジナルらしいぞ」
「へぇ、そりゃあの強さも納得だな、優秀な後輩じゃないか」
「後輩とかじゃないって、別に指導してるわけじゃないし、ブレイブは一緒に旅をしてる旅仲間ってだけで…それよりも今はこの風だよ」
「そうだな…風の発生源には近づいてきているようだが」
「……というか、めちゃくちゃ怪しげな遺跡が風の向こうに…」
「あぁ、確かあの遺跡って……」
「前に見た時はもっと立派な神殿が建ってたよな?」
強い風のせいで全然見えずらいけど、あの遺跡は多分神殿があったところだ
「確かあの、[シンクロトニカ]の」
「……」
「あ、あの、[シンクロトニカ]って?」
話を聞いていたブレイブが質問をしてきた、この話は知ってもらっていた方がいいと思い、ブレイブに説明することにした
「そう言えばブレイブって世間知らずなところあったよな……」
シンクロトニカっていうのは神話の時代、その圧倒的な力をもってこの世界に君臨したと言われている魔神を信仰している信徒のみで構成された裏ギルドだ、殺人、誘拐、詐欺、麻薬取引、金さえ渡せばどんなことでもすると言われている組織で、自分たちが犯行を起こした場所にまるで「俺たちを捕まえてみろ」と言わんばかりに一枚のカード、あざ笑う悪魔の描かれたカードを置いていく事で有名だな、そいつらを一人として捕まえられたことはなく、存在そのものが謎と闇に包まれたギルドで、中には[本当にシンクロトニカなど実在するのか?]と疑問視をする人もいる、だから奴らのことを知らない人も多数いるのだが、表側のいずれかのギルドの人間はその存在を実在するものととらえている、奴らの狙いが何なのかはまるで分らないが、一部では魔神の復活をもくろんでいるのではないか、大きな事件を起こしこの国を、世界を混乱に陥れるのではないかといわれているな
「ふむ……」
「……そう考えると、急に怪しくなってくるな……」
「それに、元々神殿だったというところがあんなに崩壊しているのも気になります」
「……次は、あそこを調査するか…」
「そうしましょう」
ー
「ここまでくると、潜入任務みたいだな……」
「前にでかい組織に侵入したのを思い出すぜ……確かあの時はオレオールのミスで見つかって大変なことになったんだったか」
「その話はいいだろ……」
「ま、エクレちゃんの魔力量も考えて、魔物にバレないように移動してるのはいい判断だと思うが」
「すみません……」
「いやいや、苦労させてるのは俺たちなんだし」
これ以上無駄にエクレの魔力を使わせるわけには行かない、もしかしたらデカブツみたいなのがいるかもしれないしな
「……!風…」
「?どうした?ブレイブ」
「………………」
壁に手を触れて動きを止めたブレイブ、エクレもガナッシュも何をしているのか疑問的な目で見ている
「……あの特訓が役に立つなら…」
「っ!?な、なんだ!?」
「すごい力です……!」
「ぶ、ブレイブ…!?」
ブレイブを取り巻くように輝く粒子が現れる、彼は一体何をしているんだ?この現象は一体……
「……見つけた」
そう呟くと、ブレイブの周りから輝く粒子が消え元通りになった……覚悟を決めた目でこちらに振り返る
「風の発生源を見つけました、3人とも、着いてきてください」
「え」
それだけ言い残して走り出すブレイブ、俺たち3人はそれに走ってついていく
「なんか、前にもこんなことがあったな」
「こんな事?」
俺の横を走るエクレ……そう、確かビギンズタウンからブレイブと一緒に出た時、走り出したブレイブに着いていくと、魔物に追いかけられているエクレを見つけたんだった
「ブレイブには、遠く離れたところにあるモノを感知する力があるのかもしれない」
「えぇ!?でもそんなこと……」
「本当のことはわからないけどな……でも…ありえないわけじゃない…」
「……そう、ですね」
?なんでそんな暗い顔を……?
「もしかして……いや、でも…」
「え、エクレー……?」
「オール君!」
「は、はい!?」
「ブレイブ君のこと、しっかり見ていてあげてください」
「え?」
「今はまだ平気かもしれませんが……もしかしたら…」
(もしかしたら……?)
その後は黙ってブレイブについていくエクレ、もしかしたらなんなんだ!?
ー
「ここです」
魔物を討伐しながら走り切り、一つの壁の前でブレイズが止まる、確かに魔素がどんどんと濃くなっていっているような気はしたが……ここはただの壁だけど…
「これってただの壁じゃないか?ここから風が出てるなんて、物理的に不可能な気がするが……」
「普通に考えたらガナッシュの言う通りな気がするけど……でも、そう言うレベルの物でもない気がするな…」
「……やっぱり、この先に通路があります」
「えぇ!?マジ…!?」
「風は、その通路の上に通風口みたいなのがあるみたいです」
ガナッシュが驚きの声を上げる、いや、俺からしてもこの壁は普通の壁に見えるけど……
「ここの開け方は、ここの人じゃないのでわかりませんね……だったら…!」
ガシャーン!!!
瓦礫を掴み上げて壁をぶん殴るブレイブのその行動に、俺たちは呆然となる
「え」
「えぇ……」
「ご、強引だな、お前の仲間……」
「……ブレイブってこんなキャラだったか……?」
「通路、ありまっ!?」
「うわっ!?」
その通路が開いた瞬間にさらに強い風が吹き荒れた、感じの悪い魔素も同じく風に巻き上げられている
「うっ……くぅ…」
「エクレ!?だ、大丈夫、な訳ないか」
「へ、平気です……」
「もっとしっかり休めば…」
「大丈夫です……私は…」
しまった、ここまで魔力を使わせすぎてしまったか…
「エクレ……ほら」
「へ……?」
「俺の魔力を受け取っておけ、どうせ俺は魔法使えないから」
「オール君……」
エクレの手を取り自分の体から魔力を流す、本来なら魔力を他人の体の中に流し込むことはできないらしいのだが……
「こんなことができるなんて……オール君ってすごいですね…」
「ある意味これが俺の魔法ってな、ガナッシュも」
「助かる」
その後ブレイブにも魔力を分けて準備を整える、おそらくこの先に……
ー
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