7年の付き合いの妻に浮気されてたただの剣士の俺はとりあえず旅に出ることにした

第21話［勧誘と教えと死の風と］

「だから、宗教なんて入らないって！」

「そんなこといわずに～！シスターさんに聞いたんですよ！今日も熱心にお祈りしてたって！」

「それとこれとは話が別！」

確かに自分でもちょっとびっくりするくらい祈ってたみたいだけども！それはここ最近色々ありすぎたからである！断じてそういう意図があったわけではない！

「はぁ、今日もダメですかー」

「なんでそんなに俺を入信させようとすんだよ…」

「そんなの頼りになるパシｒオレオール様と共に居たいからに決まってるじゃないですか！」

「今パシリって言ったか！？言ったよな！？」

「さぁ？なんのことだかわかりかねますなぁ～」

「こいつ…！」

「オール君…入りましょう、エルミア教、とってもいいところですよ…」

「エクレはしっかりしてくれ！」

そんなことこれまで一回も言ってこなかったろ！何があったこの短時間で！？

「はっ！？わ、私は一体何を…」

「えなに！？不安不安！そっちの方が不穏だから！というかガナッシュ！お前も見てないで助け」

―（遠く）

「…」ｸﾞｯ

―

「あいつぅぅぅぅ！！！」

あいつ俺が勧誘されてる間にもうあんなところまで逃げてやがった！ふざけんなよグッじゃないんだよその腹立つサムズアップやめろ！

「あ、お二人とも、こんなところにいたんですね」

「あ！？ブレイブ！？」

「…その、あんまり人前でイチャイチャしない方がいいと思います」

「どこがだ！？」

この状況のどこがいちゃついているというんだ！？

「あら？オレオール様のお仲間さんですか？」

「はい、クレディス・ブレイブです、よろしくお願いします」

「これはどうもご丁寧に、マカロン・イレーネと申します」

……ブレイブと話している間に何とか解放された…

「はぁ、無駄に疲れた…」

こういうやつなんだよな前から…俺が女神ルースリアを隠れて信仰していると信じて疑わない、他の人相手だと普通なのに俺は妙に絡まれるのは、おそらく先ほど漏れた本音の通り、俺をパシリにしたいのだろう、なんて女だこいつ

「いやぁにしてもオレオール様……あれ？そういえば…」

マカロンが俺の周りをじろじろと見まわす、こいつのおかしな言動はいつも通りのためもう反応するだけなぁ、とりあえず言葉を待つ、俺の体を見回し切ったのか、今はきょろきょろと周りを見渡している

「オレオール様、メリナさんと後輩ちゃんくんは一緒じゃないんですか？」

「あぁ、まぁ…な、色々あってさ、今はこの二人と一緒に旅をしてるんだ」

「へぇ…」

何やら意外という顔をするマカロン、確かにカヌレが来てからはずっとその四人で行動してたし、確かに違和感はあるか…わざわざメリナが浮気した話をする必要もないと判断し、俺はそのまま話を続ける

「お前の方は最近どうなんだ？結構順調？」

「もちろんです！…と、言いたいところなんですけど…」

「？言いたいけど？」

「最近、ここの南東側の魔物がどんどん強くなって行ってて…私も日々訓練は積んでいるのですが…」

「手ごわくなってて大変だと」

「というのは昨日一昨日に解決したんですけど」

「なんだったんだ今の時間」

このやり取り必要だったか？解決したならまぁよかったなとしか言いようがない

「問題はもう一つの方なんですよぅ！」

「もう一つ？」

「はい、最近、この街によくない風が入り込んできているんです」

―

ガナッシュを呼び戻し、近くのお店に五人で入って一息をつく、もちろんマカロンの話を聞くために個室を選んだのだが…

「それで？よくない風っていうのは？」

「……実は…」

マカロンは今この街を襲っている現象について話してくれた、ときおり東の方から流れてくる強い風、その風に晒されたが最後、植物が枯れ、動物が息絶えてしまうと言う、なぜか人間には効果がないらしいのだが、他の街から輸送されている植物や肉などにも影響が出ていて困っているらしい

「って言うことは、この街は今飢餓状態ってことですか！？」

焦ったようにブレイブが反応するとマカロンは弱々しく頷く……何か怪しいな…

「食料は家の食糧庫に備蓄してあるのでまだ平気と言えば平気なんですけど……食料調達はままならなくて…」

ふむ……そりゃ死活問題だな……いくら信仰宗教の都市といえど、食料がないと生きていけないのはどこも同じだろう、そうなるとその風を解決できると良いんだが……

「私たちを取り巻く［死の風］は、一向に吹き終える気配がなくて……」

「調査に出かけたりはしていないのか？真っ先にされそうなものだが」

「もちろん調査はされたらしいのですが……魔物が強くて多すぎるのと、そちらに向かうと拒むように風が強くなるみたいで…」

「んー……なるほどな…」

近づくと風が拒んでくる……か、にわかには信じ難いがマカロンの顔を見る限り嘘はついていないように見える、それはきっと、ブレイブやエクレ、ガナッシュも同じだろう

「あ、そうそう、調査隊の話だと、何か［暗い光］が見えたらしいです」

「！」

「！？」

（まさか……！）

「暗い光ねぇ、なんか矛盾してね？」

「私もそう思ったんですけど、調査隊の人はそうとしか言いようがなかったーって言うんですよ」

（お、オレオールさん、これは……）

（オリオンデールで聞いたのと同じものです！）

（あぁ、暗い光、偶然同じ呼ばれ方をした可能性もあり得るが……）

もしオリオンデールで見たアレとマカロンの言う［暗い光］とやらが同じものだった場合……あのデカブツみたいなのがそっちの方にいるってことか……！？

（道中には凶暴化した魔物達が現れているらしいし、オリオンデールではあのデカブツの体から魔物が生まれていた、正直言って全く無関係とは思えないな）

正直俺の中でこの二つはすでにガッチリ噛み合っていたが万が一の可能性もある、下手な行動はできないなと思いながらマカロンの話を聞く

「あの死の風を止めることができれば、また食糧の供給を再開できますが……このままだとどうしようもなくて……だからオレオール様！」

「なんだ？」

「できるだけ早く、この街から出発してください」

「……え？」

……逃げろってこと？

「このままこの街にいても、オレオール様達が死の風の力で飢餓状態になってしまうだけです、だからどうか、早く……」

こんな自分達が危機になっている状態で、［助けてくれ］ではなく、早く逃げろだなんて……やっぱりマカロンも優しいな

「……このあと、マカロンはどうするつもりだ？」

「え？」

鳩が豆鉄砲を喰らったようにポカンとする、それを直させるためすぐさま質問し直した

「このまま死の風が止まらなかった、止められなかったとして、マカロンはこれからどうするつもりなんだ？」

「……え、えと、私はもう少しだけこの街にいますよ、この街でお金を稼いで、別の街に引っ越すんです！そうすればあとは安全ですから、落ち着いたらオレオール様にどこに住んでいるかのお手紙を出しますね……オレオール様達は旅をしていらっしゃるので、難しいかも知れませんが……」

辛い顔をしてこちらに笑うマカロン、相当無理をして笑っているのだろう、食べ物が不足しているこの街でお金なんて貯められるのかと言う疑問もあるし、単純にこのままにしてマカロンを見捨てるみたいに旅に出て良いのかと思う気持ちもある

「……ガナッシュ、仕事終わって数日なのにすまないが、まだ行けるか？」

「へっ、当然だ、なんなら絶好調の調だぜ」

「助かる、それじゃあ……」

俺たちは３人にバレないように、様々な計画を立てていくんだった

ーメリナside

私は前に家であった事をモナ君に全て話す、最初は訝しげだった彼の顔も、ある一点で何かを思い出したかのようにハッとなった

「って言う事なの」

「あー……なるほど…確かに俺も、似たような覚えが…」

「え！？そ、そうなの！？」

確かアレは……と考え込むモナ君…

「……！あっ！思い出しました！俺も一回、あいつに詰め寄ったことがあるんです……その時に…！」

「変な目、してなかった？」

「そういえば、あいつの目を見てから……なにしてたかわからなくなったような……」

「目、目か……」

彼の目には何かある、そう言う事なのね……

「わかった、私も今からギルドに行くけど……」

「あー…あんまりメリナさんは来ない方が…」

「え？なんで？」

「ほ、ほら、同じ思いをした俺はメリナさん側の事情を信じられますけど、他のギルドメンバーには知られてないとはいえ、話を知ってるカヌレは後輩達に真面目にあたってたので、そう言う経験もなさそうですし……」

「あー、カヌレちゃんかぁ〜！」

となると、ギルドにはあんまり顔を出せないか……しょうがない、この街で色々と情報収集をするしかないか……

「まさか、メリナ先輩、1人でなんとかするつもりっすか？」

「当然、あいつに何されてたか知らないけど、オレオのことを裏切っちゃったのは確かだもの、その責任は自分で取るわ」

「……似たもの同士っすね、やっぱり」

「ま、こんなのでオレオへの贖罪になるとは思ってないけど」

「……わかりました、俺も手伝いますよ」

「！ありがとう、モナくん！」

心強い仲間ができたわね……まずは情報収集から……！

ー

黄色いユリの花言葉［不安］