第17話[後輩達は後輩達でしっかりとやってます]
「モナ、起きて」
「ん〜むにゃむにゃ…」
「モーナー、起きないと爪喰らわすぞー」
「すぴー……すぴー……」
「……」
「くかー……くかー……」
「えいや」
ザクッ
「いっだぁぁぁぁ!!!???え!?なに!?何が起きたの!?」
「いつまでも寝腐ってるからだよ!」
「え?カヌレ?なんで……?」
朝、顔に感じた急激な痛みにより目が覚めると、チームメンバーのカヌレがその立派な爪を立てていた
「なんでって、寝ぼけてんの?昨日から後輩達の指導の日々でしょ」
「え?……あ、あぁぁぁ!!??」
し、しまった!?すっかりさっぱり忘れていつもくらいの感覚で寝てた!?
「やべぇ!?早く準備しないと!?っていうか今何時!?」
「朝8時、あと30分だよ」
「もっと早く起こしてくれよ!?っていうかなんでここに!?」
「モナがいつまでも来ないから呼びにきたんでしょ」
「デスヨネー!?」
「先に行ってるから、できるだけ早く来てよね」
「わかったぁ!」
カヌレが部屋から出たのを確認してから一気に服を脱ぎ普段着に着替える、この後は顔を洗って朝食を食べ……食べてる暇ない!
「さっさと行かないとー!?」
ー
「全く……相変わらずバカなんだから…」
獣人の身体能力を活用して急いで移動し、ギルドの中に入る、中に入ると2人の後輩が私を見つけ、笑顔を向けてきた
「シフォンちゃん、トリューくん、おはよう」
こちらにとてとてと近づいてきた方はシフォン・テンペストちゃん、15歳の少女で、ここまでの訓練を見るに、剣に適性がありそうなんだよね
マカロンちゃんに続いて歩いてきたのはトリュー・フリングスくん、シフォンちゃんと同い年の男の子で、今のところは斧を得意そうに扱ってるかな
「今日は街のすぐ外らへんでちょっとした魔物の討伐だよ、2人ともやったね!」
「はい!」
「僕も嬉しいです」
「っていうか2人とも、優秀すぎて許可降りるのが早すぎるっていうか、正直驚いたというか…」
「い、いやいや!僕たちなんてまだまだですよ!ねぇシフォン!」
「そ、そうそう!まだ適正あるって言われた剣の扱いだって全然うまく行かないですし…」
うーん、2人とも謙虚だなぁ、シフォンちゃんはもう腕だけで言えば1人で初級ダンジョンに行けるくらいには強いし、トリューくんはすごい勢いで色んな長さ、重さの斧の使い方に慣れている……私から見たら、2人はもう立派な戦士なんだけど……
「まぁ、2人がそういうなら色々あれだけど…まぁまだまだビシバシ鍛えていくから、そういうつもりでね!」
「「はい!!」」
2人して良い返事をしてくれる、うんうん、若いって良いねぇ、と言っても2人とも私と三つくらいしか変わらないんだけどさ……まだ出会って1週間も経ってないのに子の成長を見守る親のような気持ちになってしまうのはどうしてなんだろう
(……オレオールも、こんな気持ちだったのかな)
今はどこにいるかもわからない自身の先輩、彼も四つしか変わらない私のことを鍛えてくれた、彼に近い短剣を扱うからか、よく教えてもらった……たくさん教えてもらったっけ…手先の器用さを活かして、魔物の素材で様々な武器を作ってみたら?と提案してくれたのも彼で
(…結局、使ってもらえなかったなぁ…)
彼に話を聞いた夜、信じ切ることができなくて、徹夜して作ったこの剣、鍛冶屋が作った剣には遠く及ばないほど不格好で、耐久性も全然無い、脆くて、荒削りの技術で作ったそんな剣、彼は[やっぱりまだまだ荒いな、カヌレ]と微笑むだろう、散々に批評して、私が涙目になって……そして最後に、[よく頑張ってるな]と頭を撫でてくれるのだろう、その手が暖かくて嬉しくて、まるで本当のお兄ちゃんみたいで私は好きだった、妹弟ばかりで、上に兄弟がいないうちの家庭で、両親は共働きだった、だから私はいつもお世話をする側で、あんなふうに頼れる人がいたのは珍しくて……モナに対しても親友のように接していた先輩、私はあの4人でいるのが楽しかった、いつまでもあの4人でいられると思っていた……けど、実際はそうじゃない
(もう、いないんだもんね)
「先輩?」
「!あぁ、ごめんごめん、それじゃあモナを待ってから」
その瞬間に、ギルドの扉がバンッ!と開かれる、視線を向けると汗だくのモナがいた
「はぁ……はぁ……つ、ついた……」
「モナ、遅い、みっともない」
「みっともないって何!?っていうかお前の身体能力がすごいんだって……」
ゲホッゲホッと咳き込むモナ……あーぁ、だめだこりゃ
「ちゃんと息整えてからきてよね」
「え」
「ゆっくり歩いてくから、早めにきてよねー」
「えちょっ、まっ…」
「行くよ、シフォンちゃん、トリューくん」
「え、で、でも」
「放置してて良いんですか?」
「モナは息の入り早いから平気だよ」
「なんでだー!!??」という声がギルドから聞こえてきたけど気にせずに街の外へ向かう、その時にはモナが追いついてきていた
「やっぱり息が戻るの早いね、モナ」
「まためっちゃ疲れたけどな!?」
ー
「ふっ!」
「せいやっ!」
魔物を次々と討伐していくシフォンちゃんとトリューくん、相変わらずメキメキと鍛えられていく2人はとても頼もしい
「いやー、2人ともどんどん成長していくねぇ」
「これが若いってことか……ちょっと羨ましい……」
はぁ、とため息をつくモナ、まだ自分だって若いくせにおっさんくさいなぁ
「でも、2人ともまだまだ荒削りな部分も多いよ」
「…確かにな、やっぱ先輩みたいになるのは相当時間かかるよなぁ…」
「ギルドのエース、圧倒的な実力があるわけではないけれど、安定したその強さは評価されてたよね……それに、毎日のように素振りもして努力を続けて……しかも優しい」
「先輩って人望あるよなー……」
「寝坊ばっかりのモナと違ってね」
「ぐっ、それは……仕方ねぇだろ、なんでか最近眠いんだから」
「今頃何してんのかなー」
「無視かよ...さぁ?でも、先輩のことだから上手くやってるさ……新しい仲間とかも居そう」
「新しい仲間!?」
「うぉぅ!?な、なんだよカヌレ!急にでかい声出すなって……」
「え、え、そ、そっか……そうだよね…そういうこともあるよね…」
「か、カヌレー……?」
旅人さんだなんて他にもたくさんいるし、オレオールの人の良さだったら仲間になろうと思う人なんてたくさんいるだろう…
「……」
べ、別に?オレオールがどんな仲間とどんな旅をしようと私には関係ないし、今頃何をしていてもどんな街にいても私には関係ない
(……ずるい)
まだ見ぬオレオールの新しい仲間に正直嫉妬した、私たちの方が先にオレオールの仲間だったのに……
「そう考えると、ちょっと羨ましいよなぁ」
「え?」
「俺たちもその話を聞いた時について行きゃよかったなって」
「……そうだねぇ」
魔物を必死に倒す2人をじっと見つめる、2人とも今の所問題はなさそうだね
「ま、2人を放置するわけにも行かないしね」
「それもそうか」
オレオール、私たち、頑張ってるよ
「それじゃ、2人のとこに行こうか」
「そうだな」
「……!」
今、オレオールの声が聞こえたような……
「!……うん、頑張ってるよ、オレオール」
幻聴かもしれない、そう思ったけれど、私はそう答えたくなった
ーオレオールside
「……!」
「〜で……?オール君?」
「どうかしました?」
「いや、なんでもない……と思うんだが」
今、一瞬だけだけど、カヌレの声が聞こえたような……
「先に歩いて行っちゃいますよ、オール君」
「僕もー」
「あ、いや俺も行く…って2人とも歩くのはやっ!?ちょっ、待てって2人ともー!」
(……よく頑張ってるな、カヌレ)
2人を追いかけながら、俺はそう呟くのだった
ー
アカンサスの花言葉[離れない結び目]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます