第16話[次の街へ、いざ行かん]

「っし、そろそろ次の街に行くか」


次の日、しっかりと休息をとった俺たちはいよいよ次に向けて旅立とうとしていた


「そうですね、あんまり長居してもご迷惑ですし」

「というわけで、どこに行きますか?南か西か、はたまた東か」

「んー、そうだな、このままずっと南化してくってのもありだけど」


当てのない旅だしどこに行こうが自由だ、別に急いで決める必要はない


「でも、もし南に行くとなると、あの鉱山を登ることになりますね」

「坑道は結構低い位置にあったから良かったけど、南に行くにしても西か東方面から迂回していくのが良いか…」


確か西の方は魔物の巣窟があるんだったかな…経験を積むためにそっちに行っても良いが、それで死んでしまっては元も子もないし、だとしたら比較的安全な東側か……


(いや待て待て待て、確かこの街の東にある街って言ったら……)


確かあの宗教の大きな教会があるところだったっけ…正直苦手だから行きたくないんだよな……


(でもなぁ……魔物の巣窟っていうと何が出てくるかわかんないし……)


ちょっかいを出そうとしてるわけではないが、まだ使い慣れてないこの剣を使っての戦いだと思うと正直きつい、それこそブレイブとエクレに頼り切りになる可能性すらある


(ここはあの街に行くか……)


それにあの街、その一点を除けば良い街だ、街も綺麗で物資も揃ってる、しかも食べ物が美味い


「よし、とりあえず東に向かうことにしよう」

「東ですか、比較的大きな街があるみたいですね」


ブレイブが指でオリオンデールから東に向かう道を追う、旅は地図が必須だな…こういうことができるのはとてもありがたい


「本当ですね、街の名前は……エルミア…?」

「聖教街・エルミア、女神エルミア・ファ・ルースリアから名を頂いた宗教都市だ、その中でも結構ガツガツくるタイプの街なんだよな……他の宗教都市はそんなこともないけど」

「エルミア・ファ・ルースリア……様?」


ポツリとエクレが呟く、様をつけたということは……


「エクレは女神ルースリアを信仰してるのか?」

「え!?え、えぇまぁ、ある意味、そういうことになるんでしょうか……?」

「そうだったのか…ふむ」


だとしたら、やっぱり教会に連れて行った方が……いや、ここまで一緒に旅してきたのに、そんなことするのは野暮っていうものか……


「ってなると、エクレはある意味居心地がいい場所に行くことになるかもな」

「そうですね…ちょっと楽しみです」


嬉しそうに笑うエクレ、そういう事ならエルミアに向かうと決めたことは良かったかもしれないな


「宗教ですか……僕って、実は宗教に属してないんですよね…」

「あ、それ俺も」

「オレオールさんもですか?」

「あぁ、宗教に興味があるわけではないからな…」

「ふむ……なるほど…オールさんって、神様とか全然信じてなさそうですもんね」

「うぐっ」


一瞬でバレた、まぁ無宗教な時点でバレるのは当たり前だがエクレが神様を信仰してるとなるとどうも言いづらかった


「私は全然気にしませんよ、価値観を他の人に押し付けようとも思わないですし」

「あー、なんかすまん」

「いえいえ」



そうと決まれば善は急げという事で早速街を出ることに、この街を出ると、領主さんや炭鉱夫さんたちが手を振って見送ってくれた


「エクレさん、エクレさんの所属してる宗教って、どんな宗教なんですか?」

「そうですね……エルミア教の方達は、とても優しい方が多いです、シスターさんも真摯に人々の悩みに耳を向け、信徒の人たちも無宗教の人や他宗教の人にも分け隔てなく接していて、ボランティアにも積極的に行う人が多いんです、狂信的な人は不特定多数居ますけど……」


ポリポリと頬をかくエクレ、どんなところにもやっぱりそういうやつはいるんだな


「エルミア教の教義は、[情けは人の為ならず]、[誰にも優しくすることで巡り巡って自分が救われる]、と言うことです、[人に恩をかけるのは自分の心を満足させるためである]という意味でもありますね」

「ふむふむ…なるほど…優しい宗教なんですね」

「あはは、そうですかね?……女神ルースリア様は、神話の時代、この世界に降臨してこの教えを伝えたとされています、本当のことはわかりませんが……」


どこの宗教にも似たような話はある、神話の時代に降臨した話や、かつて亡くなった人が神様になった話、空の上の神が天から直接天啓を与えたという話、その宗教によって様々な話がある……エルミア教は神が降臨した系のお話しらしい


「これから行くエルミア街は……その、どっちかというと狂信的な人が多い街だな…」

「え、そ、そうなんですか?オレオールさん」

「あぁ、教えが教えなだけに悪い人たちではないんだけど……」

「私も、エルミアの街には行ったことがないので、少しだけ楽しみです」

(楽しみ、かぁ……)


どんな街なのかは行かなければわからない、だが行ったことのある俺にはわかる、きっとまた巻き込まれることになる


「?オール……くん、どうしたんですか?」

「え?あ、あぁ、ちょっと考え事があってさ」


君付けで呼ばれて新鮮さにすぐに思考が引き戻された、さっきまでさん付けだったのに、エクレはエクレなりに勇気を出しているのだろうか


「考え事、ですか?」

「あぁ、あの街にいる、知り合いに対してちょっとな……」

「知り合い……まさか…婚約者……とか!?」

「……」


いやまぁ、今の言い方だとその可能性もあるかもしれないけれども


「今の俺は独り身だよ、妻がいるわけでもなく、恋人もいない、婚約者もいないよ」

「そ、そうなんですね…ひとりみ」

「そう、独り身……エクレはそういう感じの人は…いたら俺の旅についてきてないか」

「はい、私もひとりみ、というやつです」

「ははは、そっかそっか、まぁエクレはまだまだ若いからな、きっと良い人が見つかるさ」

「そういうオレオールさんも若いですよね?」

「22だしな、ブレイブは17だったか?」

「はい、17歳です、誕生日はまだまだ先ですね」

「そう考えると、俺たちって割と若いチームだな……22と、17と、じゅう……」

「5です」

「15、これ変な奴らに絡まれるぞ……」

「変な奴ら?」

「ってなんですか?」

「それこそ盗賊とか、調子に乗りがちな中堅とか……」


若いものいびりというものがあるのなら俺たちはまず標的になるな……まぁそれでやられるほどブレイブもエクレもやわじゃないが


「大丈夫です、いざとなったら僕が全力でお二人を守りますから」

「え俺も守られるの?」


そりゃ確かにブレイブはすごい実力者だけども


「ん?待てよ?…2人とも、親とか…」


そう、2人ともまだ未成年の子ども、今更だが親の保護下である、なのにこの2人は俺の旅に同行していて、親のおの字もない


「僕に関しては心配いりません、これでも強くなるための修行中なんです、だから、僕もある意味旅の途中という感じですね」

「私も心配ないです……あんまり深くは語れないんですけど…と、とにかく、大丈夫なんです!」

「そ、そうなのか?わかった」


ブレイブは強くなるための旅の途中だったのか……なるほど、それで1人で盗賊に襲われて……理解できた、そういうことだったのか、エクレには関してはよくわからない、大丈夫だというからには大丈夫なんだと信じるが…流石に無責任にそこで信じ切るわけにも行かないな……


「ほ、ほら、早くいきましょう!?オールくん!ブレイブくん!栄えたエルミアの街が待ってますよ!行ったことないですけど!」

「あちょっ、エクレさん!?」

「まだエルミアの街まで数キロはあるんだぞ!?」


脱兎の如く走り始めたエクレを追いかけて、俺とブレイブは走り出す、過去に囚われていたはずの俺は、もうどこにもいなかった



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