第15話[仲が深まる今日この頃]
その日、剣聖は思ったよりも荒れていた
「…」
「ガナッシュ?大丈夫か?」
「あぁ、ブリオッシュ…平気だ、問題ないぞ?」
剣聖の仲間であるブリオッシュの問いに彼はそう答えた、というのも彼は仲間や家族の前ではいつも通りだが、一人になると目に見えて機嫌が悪くなるのだ、実際それで話しかけにくいと遠征任務先の人に言われてしまったため、さすがに放置をするわけにもいかずこうして質問をしたのだ
「お前、なんか目に見えてイラついてるぞ?」
「え、そ、そうだったか?」
無自覚だったのか、とブリオッシュはため息をついた、前々から自分のことには無頓着すぎるやつだとは思っていたが、ここまでは初めてなのだろう
「やっぱオレオールのことか?あいつ突然いなくなったもんな、お前とも仲良かったし」
「いやまぁ…そんなとこかな」
「メリナちゃんも可哀想だよなー、夫婦だってなら一緒に連れてけばよかったのに」
「それは…そうだな」
ガナッシュは事の顛末について話そうとして、やめた、今の自分にはそのことについて何も証拠を持っているわけじゃない、今ギルド内はオレオールの新たな門出を祝う空気と、置いて行かれて可哀想なメリナを励ますという二つの空気が入り混じっている、正直言って、浮気がどうこう言ったらこっちが悪者になってしまう、それだけはなんとしても避けたい
「ま、またしばらくしたら顔を見せに来るだろうしさその時にメリナちゃんのことも聞くことにしよう」
「…そうだな」
本当は声を大にして叫びたい、「あの女が原因だ」と「あいつが浮気なんてしなければあいつはまだ」と、だがそれは今のところできそうにない、自慢じゃないが俺は剣聖と呼ばれる剣士、周りの空気は下っ端時代に以上によく読まなければならないし、毎日の任務だってあるし、俺には愛する妻と子供がいる、証拠もなしに余計なことを言ってはどうなるか分かったモノじゃない、もしかしたらギルドから追い出されるかもしれない、もしそうなったら俺は妻に合わせる顔がない、今は我慢だ、そして落ち着いたときにこのことを言おう、そうすればわかってくれる者もいるはず
「それよりもほら、さっさと今日の任務行くぞ」
「あぁ、わかってるさ」
今日も今日とて遠征任務の続きだ、しっかりと稼がなければ毎日を生きていけない、妻に子供も養えない、これからもあの街で、ここで暮らせなくなる
「さ、行こうぜ」
「わかっている」
剣を鞘にしまい、立ち上がる、メリナ・マーリスは今でもギルドに行っていないだろうか、別に俺には関係ないが
「まぁ良いか」
来てないなら来てないでいい、どうせ問い詰めはするんだ、いくら逃げようとしても関係ねぇ、そんな風に考えながらガナッシュは遠征の討伐任務に向かうのだった
(……クソッ…!)
今でも彼は怒りに燃えている、大切な親友を裏切ったあの女に
―エクレside
「わぁぁ…ここが、装飾屋さんですか?」
「あぁ、色々な装備が売ってるぞ」
私たちは今、この街を軽く散歩しています、朝から鍛錬を続けていたブレイブさんには申し訳ないのですが、どうしても興味が抑えられず…
「あ、あれは?」
「あれは宝石魔道具屋、その名の通り宝石魔道具が売ってるんだ、宝石魔道具は魔法を使えなくても魔力を流すことで宝石が反応し、それぞれの宝石に対応した属性を剣にまとったり、遠くに飛ばしたりできる、あとは家の家事なんかに使ってる人もいるな」
「家事、ですか?」
「そう、例えばサファイアとルビーを使うことで氷と火の力で水が生まれる、わざわざ井戸から水をくみ上げる必要がないってわけだな」
「なるほど…」
「あとはエメラルドなんかで風を起こして埃なんかを吸い取る魔道具なんかもあるぞ」
オレオールさんは色々知っていてすごいです…私なんて世間知らずで…恥ずかしい…
「…そういえば、うちにこんなのあったなぁ……」
(…)
またです、オレオールさんはこんな風に悲しい目をよくしています、昨日聞いたあの出来事、本当にあったことだとして、そんなのオレオールさんが可哀想すぎる、だって彼は何にも悪くないのに
(オレオールさん…)
「あ、そうそう、こっちのこれは色んなとこで使えて便利なんだよ」
優しい笑顔をこちらに向けてくれるオレオールさん、できるだけ私たちには辛い何かを見せないようにしようとしているのがよくわかる
「~が…でさ、そのほかにも」
「オレオールさん」
「んぇ?どうした?」
「あの、これからオール君と呼んでいいですか?」
「え…いや別にそれくらい構わないけど…どうした?急に」
「いえ、一緒に旅をしているわけですし、いつまでも[オレオールさん]では堅苦しいかと思って、早すぎたかもしれませんけど…」
「全然かまわないよ、俺もエクレの事呼び捨てにしてるしな」
「ありがとうございます…オール…さん」
なんとなく気恥ずかしさを感じて、結局さん付けにしてしまいました…今考えたら、オールさんは年上ですし、君付けはやっぱり失礼じゃないですかね…
「なんというか、エクレって」
「は、はい!?」
「いや、良い奴だよなって、昨日のあの話を聞いても変わらずに接してくれるしさ」
「え、いやそれは、オールさんは私の旅仲間、というか、私が無理を言ってついてきたというか…」
「それでもだよ、やっぱり自分のこういう過去を受け止めて受け入れてもらえるってうれしくてさ、エクレにあの事話してよかったよ」
「…私も、オールさんの事、ちょっとでも知れて嬉しかったです」
笑顔をくれる彼に私も笑顔を返す…そういえば、なんでオールさんはこの旅を始めたんだろう?話の端々に、ギルマス、や、ギルド仲間、という単語が聞こえて来ることから昔はどこかのギルドに所属していて、旅をしていたわけじゃないみたいですけど…
「オールさん、オールさんって…」
「?」
「…………」
「エクレ?」
どうしてだろう、ここから先は聞いちゃいけないって、私の中の何かが叫んでいる
[どうして旅を始めたんですか]
ただそれを聞くだけなのに、本能でこの質問をしちゃいけないのが分かった
「ど、どんなモノが好きなんですか?」
「好きなもの?そうだなぁ… 」
深く考えるオールさんを見てホッと一息つく、どうやら本当の疑問は感づかれてないみたい
「色々あるけど、いざって聞かれると全然思いつかないな…」
「あ、無理して考えてくださらなくても結構です!」
ぶんぶんと両手を振ると、彼は疑問符を浮かべた、さすがにちょっと悪手だったみたいです…
「そ、そうか…なんか思いついたら教えるよ」
「ありがとうございます、オールさん」
なんだか挙動不審な人になっちゃいました…これからはもっと質問をよくよく考えてから聞かないといけませんね
「それじゃ一回ブレイブのとこまで戻るか、そろそろ風呂あがって食事もし終わってるころだろうし」
「そうですね、そうしましょう」
来た道を戻る私たち、チラリと彼を見ると、どうかしたか?と心配そうに声をかけてくださいました……やっぱり、貴方は…
―オレオールside
こんな風に色々話したのはいつ以来かな、街を歩きながら様々な説明なんてここ数年やってなかったし、ちょっと新鮮な気持ちだ
(…なんでエクレにはあの話をしてもいいと思ったんだろう)
一番の疑問はそこだ、別に悪いわけではないしなんなら少し気が楽になった、が、エクレはまだ出会って間もない年下の女の子だ、信用して、というほどチョロい人間だったのか?俺って…
「さっぱりわからん」
話をしているブレイブとエクレを見ながら、俺はふとそんなことを呟くのだった
ー?サイド
とある赤いカーペットの敷かれた廊下を、その男は歩いていた、その片手にはドス黒い煙が撒かれている
「フフフフフッ、ハハハハハッ、素晴らしい、素晴らしいぞ……!」
扉を開き、部屋に入った男は愉快そうに笑う、その手を壁に向けると、黒い煙が壁に張り付いたナニカに吸収されていく
「もう少しだ……もう少しで…!」
ギョロギョロとした目をしたナニカを見ながら、男は高笑いする、一体何をしているのだろうか……?
ー
ゼラニウムの花言葉[信頼][尊敬][真の友情]
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