第18話[君と歩く、この道を]
「いよっと、ほいほいほい」
ジュージュー
「ここで一つ隠し味…と」
「オレオールさん、料理上手なんですね」
「ん?あぁ、まぁな」
夜、街にたどり着けるわけではなかったため、川のほとりにテントを立てて俺は夕飯の準備をしていた
「ブレイブもやってみるか?」
「あいや、僕あんまり料理は…」
「ははは、そっか」
視線を鍋に戻して料理に集中する、ブレイブが食べられる魚をとってきてくれたため、事前に買っておいた調味料と合わせて魚料理だ、遠い国では魚をそのまま切って食べる刺身というものがあるらしいが、俺はそれを軽く焼いて味付けしているのだ
「オール君、結界の展開、終わりました」
「あぁ、ありがとうエクレ」
先程までボソボソと何かを呟き魔法を展開していたエクレが声をかけてくれた、結界魔法というのは夜や動けないほどのダメージを受けたメンバーがいた場合に使う魔法だ、その名の通り魔物が入ってこれないようにする魔法で、まぁ簡単に言えば読んで字の如く
「ん〜♪良い匂いがしますね♪」
「そうか?ならよかった、ほれ」
「はむっ、んむんむ……おいひぃでふ!」
一つエクレに食わせると幸せそうに笑った、本当に上手くできてるようで何よりだ……料理は7年前からずっと練習してきていた、こういうふうに夜に野宿する日々が続いていたのもあったが、1人でも生きていけるようにとギルマスの奥さんに頼み込んで習っていた、俺の今の料理の腕はギルマスもその奥さんも認めるほどで、一流の料理人とまでは行かないが、他人にふるっても恥ずかしくないくらいのレベルには慣れている
「ははは、そっか、そりゃよかった、ちゃちゃっと作り上げるから待っててなー」
そういうと、2人して「はーい」と声を上げた、エクレがブレイブの方へ歩いて行き、2人して仲良さげに話している、友情っぽくてなんか良いなと思いながら最後の仕上げをして皿に取り分ける
「ここはこうして……」
料理をしていると、なんだかこの世界にこの3人だけになった気分になる、その2人のことを考えているからか、それとも料理の音で近く以外の音が聞こえにくくなるからか、これまでは4人だったけど、この3人っていうのも悪くない
「ん、完成!2人ともー、こっちこーい」
「はーい!」
「待ってましたー!」
みんなでシートの上に座って食事をし始める、ブレイブは両手を合わせて[いただきます]と言っていた
「いただきます?」
「あ、僕の故郷の挨拶です、食事をする時に、両手を合わせて[いただきます]というのが習慣みたいになっているんですよ」
「へぇ、なんか良さそうだなそれ」
「ご飯を食べる前に挨拶なんて、考えもしませんでしたね」
「それじゃ俺も、いただきます」
「私もいただきます、です」
そうして2人と共に食事をし始める、楽しく話をしながらの食事はとても良いものだった
ー
「んんっ、ふわぁぁ……」
朝目が覚めると、景色はテントの色で染まっていた、テントに入って寝ていたから当たり前だが、外では剣を振る音が聞こえる、おそらくブレイブが剣の鍛錬をしているのだろう、相変わらず早起きだ
「おはよう、ブレイブ」
「ふっ!てぁっ!……あ、おはようございます、オレオールさん」
「毎朝早起きだな?」
「あはは、朝起きてから鍛錬しないと、体がうずうずしちゃって」
「なるほどな、習慣になってるってことか」
「まぁそういうことです」
ブレイブは俺が見てきた中の誰よりも努力家な奴だ、少し彼の体が心配だが、まぁいつも平気そうに刀振るってるから彼は平気なんだろう
「エクレさんはまだ眠っているみたいですね」
「あぁ、今のうちに朝ご飯の準備でもしておくか……ブレイブはもう少し鍛錬してるか?」
「はい、もうちょっとだけやらせてもらいます」
「わかった、ご飯ができたら声かけるよ」
「ありがとうございます!」
そしてまた刀を振り始めるブレイブ、努力を続けてる姿を見ると素直に応援をしたくなる
「ふっ、はっ、いよっ……ほいやっ!さぁっ!」
……刀って振る物だよね?なんか地面に突き刺して蹴り技とかしてるんですけど
ー
それから30分くらい経った頃、エクレのテントがモゾモゾと動き始めた、どうやらエクレが起きたらしい
「おはおうごはいまふ……」
……どうやら、エクレは朝に起きるのが苦手らしい…クンクンと何かを嗅いだのか、トテトテとこちらに歩いてきた
「オール君……あさごはんですか?」
「おはよう、エクレ…そう、朝ごはん、もうちょっとで出来るからしっかりと起きてきな」
「ふぁーぃ…」
「……聞こえてるかな…」
テントをいそいそとしまい、俺が用意した水を飲むエクレ、飲み終わった後はポーっとしてる…全然起きないな
「さてと、2人ともー、ご飯ができたぞー」
「はーい」
「ご飯!いただきます!」
「まだよそってないから!」
急に起きるじゃんこの女の子!?さっきまであんなにボーッと川の向こうを眺めていたってのに……よほどお腹が減っていたのか餌を求めるヒナのようにこちらを見つめてくる、なんか可愛いなこの子、もし貴族様の御子息御息女様が通っている学園とやらに行けたとしたらこういう子がモテモテになるのだろう、知らんけど
「よいしょ…ほら、エクレ」
「ありがとうございます♪いただきます」
昨日の夜にブレイブがしていたように両手を合わせてから食べ始める俺たち、ブレイブからしたら当たり前のことだったみたいだが、俺やエクレにとっては俺たちだけの特別な何かになりかけている
「……なんか、良いなぁ、こういうの」
「?突然どうしたんですか?」
「いや、前はさ、毎日任務や指導とか、どっかの組織の手伝いとかさしてた毎日だったからさ、こうやって、時間を気にせずのんびりと過ごすのって新鮮なんだよ」
多分1人じゃ、こんなこと考えもしなかった、メリナに振られたことをいつまでも引きずって、ウジウジしていたと思う、ここまであいつのことを振り切って色々とのんびり楽しめるようになったのは、間違いなくこの2人のおかげだ
「なんか、ありがとな、2人とも、まだまだ出会ってから数日程度だけどさ、2人と会えて本当に良かった」
「……僕も、おんなじ気持ちです」
「え?」
「僕も、たった1人じゃ、こんなふうに冷静になることが出来ませんでしたよ」
「冷静に?」
「……僕、強くなるための旅をしてるって、言いましたよね?それには、ある理由があるんです」
「理由」
「はい……誘拐され、失踪してしまった姉さんを探すこと、それが、今の僕の目標です」
……そんなことがあったのか
「姉さんはとても優しい人でした、無邪気で、元気で…そんな姉さんを、僕は守れなかった…」
「……」
「だから僕は、強くなるための旅をしながら、姉さんを探しているんです、今のところ手掛かりもないですけど」
「そうだったんだ…ブレイブ君……」
そうか……いつものあの優しさからは想像もできないが…やはり、どんな人に、誰からも見えない悩みってのはあるもんなんだな
「きっとオレオールさんとエクレさんに出会わなかったら、僕は怒りのままに姉さんを探していた、姉さんを誘拐した奴らへの怒りのまま、きっとこの旅をしていました……ただ、それだけじゃダメなんだと、お二人が気がつかせてくれたんです、だから、ありがとう、は、僕のセリフなんですよ」
「……ブレイブ」
「わ、私も……私も、お二人とも旅ができて、本当に良かったです!本当にです!」
「エクレ……」
「あの時、行くあてが無かった私を受け入れてくれたのは、オール君とブレイブ君です、私は、お二人に救われたんです」
きっとエクレは、教会で暮らしたくないわけじゃない、教会で暮らせない理由があるのだろう
「だから、ありがとうございます、お二人とも」
フッと笑い、俺は2人の頭に手を置く
「わっ?」
「オール君?」
「ほれほれほれほれ」
ワシャワシャワシャ
「ほんっとに、2人がいて良かったよ、ありがとな」
「……」
「?……!」
2人はお互いに見つめ合い、そして俺の方を見た
「「こちらこそ!!」」
俺はより強い絆を、こうして紡ぐことができた
ー?サイド
「むぅ……なんなのだ…なぜこんなにも集まらない…?これまでは溢れんばかりに負の感情が集まってきていたと言うのに…」
とある場所のとある一室、謎の男は何が起きているのかわからないと言うように頭を悩ませていた
「仕方あるまい、各地にいる奴らに伝令を飛ばし、もっともっと負の感情を……!」
あひゃひゃひゃひゃ、と不気味に笑う、その声は、部屋を出た先にまで響いていたと言う
ー
ローダンセの花言葉[変わらぬ思い][終わりのない友情]
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