第13話[辛さと幸せは波がある]
「……そんなことが…」
「……その後どうなったかまでは覚えてる、そこから先は覚えてないけど…」
ー回想
結局その後、憲兵さんに連絡して男2人を拘束してもらった、父さんにも連絡鳩を飛ばし、仕事を切り上げて帰ってきてもらうことに……まだガキで、世の中のことなんて全然わかってない俺は、父親と2人で母と妹を支えていけば良い、なんて考えていたんだ
だけど、そうはうまく行かなかった
『繝?Φ繝壹せ繝家に、殺人未遂及び傷害の罪で……』
俺たちの一家は加害者になった、2人を襲った男のうち、片方が領主の息子だったらしい、奴らが母と妹を襲ったと言う事実をもみ消し、俺は暴行の罪を背負うことになった……だが俺はその時未成年、つまり、その罪は家族にまで直接的に影響するわけで
『か、母さん!繧キ繝輔か繝ウ!』
連れて行かれる2人に手を伸ばす、その当時は分からなかったけど、2人は娼館に連れて行かれるらしい、保護という名目で未成年の妹も連れて行かれてしまった
『っ!』
俺は父さんに殴られた、[お前が余計なことをしなければ]って、腹や顔をボコボコに、それこそ泣いて謝ってたよ、[ごめんなさい、許して]って……そして、それも数日したら終わった、今度は父さんが奴隷商に連れて行かれたのだ……あの時の父の、俺を睨む鋭い目は強い印象になっている
『うぐっ…ぐすっ……うぅ…!』
俺は震えた、父も母も妹も連れて行かれてしまい、この家には俺だけ、これからどうなるかの恐怖がどうでもよくなるほどの寂しさと悔しさでたまらなかった……
なのに
『君には処罰はない』
『へ……?』
『君があのような行動をしたのは、君の両親の育て方の問題だったのだ、まだ未成年の君を親の問題で罰するわけには行かないからね』
その人の口調は優しかった、まるで俺のことを労るような、心配するような……だけど、その言葉にそんな思いがないことは、その人の止まらないニヤケ顔を見ればすぐにわかった
『親も妹もいなくて不安だろうが、若い君には未来が待っている、頑張るんだよ』
そうして俺は帰された、頑張るって言ったって、俺はまだ10のガキだ、そりゃ冒険者になれば食い繋いでいけるかもしれないが、俺にはそのノウハウも無ければ金もないのだ
俺は親戚の家をたらい回しにされた、口では「よくきたね」「辛かったね」と言ってくれるが、どこも裏では俺のことを疎ましく思っていた
『そっちであの子を引き取ってくれよ…あんな犯罪者と一緒に暮らしてるなんて、近所の人からの目もキツイんだよ…』
『こっちは無理よ!今度11になる娘がいるの!犯罪者と一緒に居させるなんてできないわ!』
『こちらとしても、犯罪者を家族に迎え入れるのは厳しい、息子もそろそろ騎士になる歳だ、あんなやつが義弟ではやりづらかろう』
『だからって俺たちのとこに置いとけって言うのか!?こっちにも色々あるんだが!?』
『……』
家を飛び出し、走る、夜の空には星の光が憎たらしいほど輝いていて、俺は思わずこぼしてしまった
『俺が悪かったのかよ……!』
襲われている母と妹を助けたいと思うことは、あんな最悪な状況をなんとかしたいと行動することは、悪いことだったのか……!?
『うぷっ…!』
道端で膝をつき上がってきた胃液をなんとか抑える、その日から俺は2人が襲われている様子を思い出すと胃の中のものが逆流するようになった
そこからのことは覚えていない、その次の記憶は、目が覚めるとギルマスの馬車に乗っていたこと、つまり、その間の数年、何をしてどんなふうに暮らしていたのかは分からない、ただ一つ理解していることは、逆流はギルマスに保護された後もしばらくが続いていたこと……まぁ、そのせいでこのことを思い出したところはあるんだけどさ
ー現在
「……とまぁ、そんな感じ…はは、なんか悪いな、こんな話しちまってさ」
「……」
……流石に変な話すぎた…?エクレが俯いて何にも言わなくなっちまった…
「わ、悪いエクレ!まじで重々しい話だった!」
両手を合わせてエクレに謝罪する、はっと驚いたように我を取り戻した彼女が慌てて否定してきた
「あわわ、違うんです!その、大変お辛い過去をお持ちだったんだなと!あれ!?何言ってるの私!?そんな言い方失礼じゃない!?」
「いや、気にしなくて良いよ、全然失礼でもないし…それに」
そう言ってくれるだけで…俺は……
「この話をしたのは、エクレで5人目だよ」
「5人?と言うことは後4人いるんですか?」
「あぁ、お世話になったギルマスだろ?エクレはしらないと思うけど店のおっちゃんに、俺の大親友、それから……」
……元妻の、メリナ・マーリス
「まぁ、そんな感じ」
「なるほど……ありがとございます、大切なお話をしていただけて」
「いやいや、本当に気にしないでくれ、最終的には俺が話したくて話したことだしさ」
そう答えるとエクレは笑顔を見せた、困らせたのは俺なのに、優しい子だな……
「まぁ普通に暮らしてればこの話題に直面することはないしさ、本当に気にしなくて良いから」
「はい、わかりました」
この一日、いろんなことがあった、なんかやけに色濃い一日だった気もするが…全然予想してなかったけどこう言う旅もありだな
「あ、そうだ」
両手を揃えて何かを思いついた様子のエクレは、いそいそと何かを取り出した
「それって…たしか、エクレが抱えてた剣?」
「はい、オレオールさん、さっきの戦いで剣が壊れてしまいましたし、その代わりにと思って」
「でも、それはエクレの大切な物じゃないのか?」
「はい、とっても、とーっても大事な物です、でも、オレオールさんなら、大切に使ってくれると思って」
どうぞ、とこちらに差し出してくるエクレ、俺はおそるおそるその剣を受け取る
「……ありがとう、大事に使うよ」
そう伝えると、安心したように柔らかい笑顔を向けてくれるエクレ…なんと言うか、妹が今も生きていたらこんな感じだったんだろうなと思う
「オレオールさーん!?エクレさーん!!!助けてくださーい!!!」
「あ」
「あらら……」
ブレイブの方を見るといかつい男達に囲まれていた…どうやらその高身長のせいで成人してると勘違いされているらしく、お酒を勧められているみたいだ
「変なところで高身長イケメンなのも困るな…」
「い、急いで助けないとですね!」
「だな……」
エクレから受け取った剣を鞘から抜き、刀身を確認してからもう一度鞘にしまう
「……よし」
屈強な男性達に囲まれたブレイブをなんとか救出し、彼が未成年であることをなんとか皆にわかってもらった……その後もこの宴会は続き…気がつくと、エクレが眠り、ブレイブが眠そうにしていたので、なんとか宿を3部屋とって休むことにした……その日の夜は、忘れてしまったけども良い夢を見た気がする
ー
次の日の朝、窓を開けると、あの日のような澄んだ青空が広がっていた
「……?…」
なんだ…?何か飛んでくる…?
「……!パト!」
それは、俺が元々いたギルドの伝書鳩、パトだった
クルッポウ!
「なんでここに……」
パトが俺の肩に乗ってきて優しく鳴く、よくよく見るとパトの足には手紙がくくりつけられていた、それを取り外して読んでみると、それはギルドのメンバーからの送り出しの言葉だった
ギルマス、モナ、カヌレ、他にも話をしたことがある同期や、一度コーチをした後輩など、たくさんのメンバーがコメントを書いてくれていた、[新たなる門出に乾杯!]これは酒が好きな先輩だな、[お見送りぐらいさせてくださいよー!]剣を一時期教えていた後輩だ、[今度会ったらまた一緒にダンジョン行こう!]前にダンジョンにソロで潜ってた槍使いの同期だな
「ははは、みんな相変わらずだな…」
その文章には一人一人のらしさと言うものが出ていた、文字や書いている内容だけで誰がどの文章書いたのかがよくわかる……あれ、ガナッシュの字がない……遠征任務中なのか?
「……ありがとう、パト、みんなにもありがとうって言っておいてくれ」
クルッポウ!
そうして彼は窓から飛び立っていく、数キロ以上離れた北の土地へ
(……ありがとう、みんな)
俺はもう一度、心の中でみんなに感謝を告げるのだった
ーモナside
「おい」
ギルドで食事をしている1人の男に声をかけた
「はい?」
「ちょっと面かせ」
「……なぜですか?」
ふざけた言葉に俺は机を強く叩く
「メリナ先輩の浮気相手って、てめぇだろ」
「……なんのことでしょうか?」
「しらばっくれるな、証拠はあがってんだよ」
メリナ先輩との浮気の証拠を並べる、ギルマスにお願いしてコピーをもらったのだ
「お前、どういうつもりだ?何したか分かってんのか」
「ふふっ、こんなものを並べて……僕に話を聞くよりも前に、メリナさんに話を聞いたらどうですか?」
「もちろんこの後にメリナさんのとこに話を聞きに行くさ、その前に、テメェの話を聞いておこうと思ってな」
「悪いけれど、僕は責任をとりませんよ」
「は?」
「なにせ、それが[指示]だったもので」
指示……だと…!?
「誰からのだ」
「そんなこと言うわけないでしょう?話は終わりです、失礼します」
「ま、待て!」
ギルドから出る男……その瞬間、男はチラリと俺を見て
「っ!!!」
……あれ、俺今……何してたんだっけ…
ー
ピンクの薔薇の花言葉[感謝]
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