第12話[戦いの後で]
「我らが街の英雄に、カンパーイ!」
討伐の夜、俺たちは何故か開かれた宴会に招待されていた、ブレイブとエクレの2人は未成年のため酒は飲めないが、食事はとても楽しそうにしていた
「なんというか、激動の一日だったな……」
「やぁ、オレオール、お疲れ様」
「お、クラフティ、まだこの街にいたのか」
「まだとはご挨拶だな、これでも当事者なんだが?」
「ははは、いやお前って、こういうの苦手で全然参加してなかったしさ」
「それはすでに過去の話さ、今の私はギルドマスター、最低限の礼儀は弁えているさ」
人は成長するなぁ……あんなに他人と関わることを嫌っていたこいつが……そう、昔のクラフティはマジで誰とも関わろうとしないやつだった、チームメンバーの俺たちとも必要最低限の会話しかしないし、別のチームのやつに話しかけられた時なんて思いっきり逃げてたし
「ま、領主への挨拶も終わらせたし、君の元気そうな姿も見れたから私はそろそろ帰ることにするよ」
「あ、ちょ待ってくれ」
「?何かあるのかい?」
「あの坑道に入る前にお前が言ってたことについて聞いておきたくてさ」
「あぁ、ギルド加入の話かい?」
「そっちじゃない」
しばらくはそんな気はないって言ったろ
「ふむ?他に何かあったかな……」
「言ってたじゃないか、[突然現れて驚異的な力を発揮する連中]がどうとか」
「あぁ、そのことか……単純な話だよ、最近王都にとんでもない強さの冒険者が増えていてね」
「ふむ?」
「しかもそのほとんどが戸籍不明、もしくは訳がわからない単語を発していると言うじゃないか、そんな連中を信用しろというほうが私には無理だね」
戸籍不明って大問題なんですけど……というそんなやつがゴロゴロいることはもっと問題なんですけど
「訳のわからない単語?それってどんな?」
「あぁ、なんか、[とらっく]とか[ちーと]とか」
「なんだそりゃ」
全然意味わからん、なにそれ?
「ほら、そうなるだろう?」
「あぁ、なるほどな……変なことを言う奴は怪しいってことでいくら実力がともなっていても信用はできないと」
「あぁ…それに……なんかいけすかない!」
「結局それかー」
結局はこいつの感性次第なのだ、怪しいと思えば怪しいし、信用できると言えば信用できる、こいつはそんな奴だ、逆に言えばこいつのお眼鏡にかなった人間は他の人間もかなり信頼して良いと言うものだが
「それじゃあ私はいくよ、また会おう、オレオール・シュトラムル」
振り返ってフリフリと手を振るクラフティ……なんか、久々にどっと疲れる奴だった…
「にしても、俺たちはあのデカブツを引きつけてただけで、あっさり倒しちまったのに、こんなパーティー開いてもらって良いのかな」
「あ、あの、オレオールさん!」
「?エクレ、お疲れさん、ご飯うまそうだな」
「あ、食べますか?」
「自分の分取ってくるから良いよ、それよりもエクレにお礼が言いたくてさ」
「お礼、ですか?」
「あぁ、俺とブレイブが吹き飛ばされた時、かなり遠い距離にいたのに回復してくれたろ?だからそのお礼」
「あ、あぁ、いえ、お二人が無事でよかったです!」
「あれだけの範囲を回復できるってことはエリアヒールか…?広範囲の代わりに出力が落ちるって言う、それであそこまで回復できるなんてエクレはすごいな!」
「え、えぇまぁ、すごいだなんてそんなぁ」
照れたように頭の後ろをかくエクレ、でもあの回復の出力は本当にすごかった、その道だけで食っていけそうなほど……?でも、あの時に聞こえたエクレの言葉、どう聞いても[エリアヒール]には聞こえなかったような……
「それよりも、大丈夫ですか?」
「え?なにが?」
「ほら、あの魔物を倒した後、当然倒れちゃいましたし…」
「あぁ、さっきも見てもらったからわかると思うけど全然良好、体調もバッチリだ」
まぁ、ある一点を除いて…だけど
「嘘です」
「え……」
「オレオールさんの目、明らかに辛いものを見る目です」
「そんなこと…」
「わかっています、オレオールさんはそんなつもりじゃないんだろうって……」
「……ごめん、昔のこと思い出しちゃってさ」
「昔のこと?」
「……俺ってさ、15歳より昔の記憶がないんだ…なんでかはわからないけど…そんな俺に一つ残った記憶があって、それが……」
「……それが…?」
「……な、なんでもない、忘れてくれ」
こんな話、エクレに聞かせてどうする?エクレはただ困るだけだろう、だってこれは、俺の話だ、別に誰か進んで話すようなものじゃ……
「オレオールさん」
「!……エクレ?」
エクレが自分の手を俺の手に重ねてきた……一体、何を……
「出会ってまだ全然経ってない私じゃ信用には値しないかもしれん…それでも私達はもう他人じゃないんです、だから、何かあるなら教えて欲しいんです…私たちは、もう苦楽を共にした、仲間なんですから」
「……まいったなぁ…そんな風に言われると…」
……何故か、彼女には話したいと思った、何故だろう……出会って何年もたった家族のような存在どころか、友達ですらないくらいの時間しかいないと言うのに
「……俺さ、記憶喪失って感じ……とはちょっと違うかもしれないんだけどさ、昔の記憶がないんだ」
「昔の記憶が?」
「そう、だから、家族のことも故郷のことも、その故郷の友達のこともわからない…そんな俺にとっては、あのギルドが唯一の居場所だった……ほんと、7年前の俺は怖がりでさ、そのくせ言うことだけは一丁前だったんだけど、全然そんなことできるわけもなくて、努力に努力を重ねて頑張ってきたんだ」
「……」
「……そんなある日、ふと思い出したんだ、家族のこと」
「!思い出したんですか?」
「全部じゃないけどな……その記憶が酷いもんだったよ」
「え……?」
「……聞いてくれるか?その記憶について」
エクレは悩む素振りも見せずにこくりと頷いた、その様子に、俺は一つずつ話していく、あの日、偶然思い出した記憶の一部について
ー回想
『ただいまー!』
その時の俺は、まだまだ子どもでさ、10か11の頃だったかな……
『あらおかえりオレオール、手洗ってきなさいな』
『わかってるよお母さん!』
何気ないいつもの会話だった、農家の友達の家の仕事を手伝ってから帰ってきて母親のいる家に帰る、大好きな母親と、何よりも大切な妹が待つ家、父親は仕事で忙しく、なかなか家に戻ってこない、でも、帰ってきてくれた時にはいっぱい撫でてくれたし、優しくしてくれたし話もしてくれたから不満なんてなかったんだ……あの時までは
コンコン
『あら?お客様かしら……ちょっと出てくるからね』
『うん、わかった』
手をしっかり洗い、家の広間に戻ったんだ、来客の相手をしているお母さんはすぐに帰ってくるだろうし、お菓子でも用意して母さん達と一緒に食べようって……でも
『あー、お母さん遅いよー、もう準備終わって……え…?』
広間に入ってきたのは、見知らぬ男だった、その男は大きく何かを振り上げ……
ガンッ!!!
硬い何かで殴られた俺の意識はそこで沈んでいった
次に目が覚めた時には、妙な水音が鳴っていた、ぐちゅぐちゅ、ずちゅずちゅ、って感じの水音…殴られた頭の痛みを我慢しながら音の鳴る方を見ると……
『……ぇ…』
お母さんが誰かも知らない男に襲われていた、すでにかなりの時間が経っているのか、その目はすでに死んだように光を失っていて……
『ぁ、あ……』
母さんの横では、妹が同じようなことをされていた、妹も母さんと同じように瞳から光が抜けきっていて…
『(な、なんだ……目の前では、何が起こって……)』
わかっているけれど、頭が理解したがらない、なんなのか分かりたくないと脳が理解を拒んでいる
『(母さんと妹はなんでこんなに目が死んでるんだ……?この男達は一体、2人に何をしているんだ……?お、俺は、なんでこの光景を眺めて……)』
母さんも妹も、拒否も何もしないでただ男に襲われている、いや、拒否はしたのだろう、その度に殴られでもしたのか、2人の顔や体には殴られた傷や腫れができていて……2人を助けられるのは、俺しかいない…俺しか……!
『はぁ……はぁ…』
目の前にあった鉄の棒……おそらく俺が殴られたものだろうか……息を殺してそれを持つ……音を立てないように近づき、そして……
『母さんと妹から……母さんと妹から離れろぉ!!!』
俺は勢いよく、その鉄の棒を振り下ろした
結果としては全てが遅かった、母さんも妹も、俺が助けた時には完全に壊れてしまっていたのだ……
ー
チグリジアの花言葉[誇らしく思う][鮮やかな場面][私を助けて]
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