第10話[坑道が魔物に占拠されてるらしい]

「せっかく久しぶりにあったんだ、それぞれの近況についてでも話し合おうじゃないか」

「……クラフティ・ドゥーム……」


目の前の女と対峙する、良い雰囲気ではないピリピリとした空気があたりに漂う……それを打ち切ったのはブレイブの一言だった


「え、え?お二人は知り合いなんですか?」

「え?あ、まぁ、な」

「彼とは一時期コンビを組んでいた仲さ」

「えぇ!?オレオールさんと!?」

「2人で!?」

「お、おい!誤解されそうなこと言うなって!」

「ははははっ!いや、すまんすまん、ちょっとした冗談さ」

「はぁ……2人とも、こいつはクラフティ・ドゥーム、俺が前に所属していたギルドで、一時期チームを組んでた奴だ」

「ギルドで」

「チームを…」


こいつ、クラフティ・ドゥームは数年前、俺たちのチームに所属していた魔導士だ、実力で言えば天才と言われるそれであり、頭もよく回る、そんなこいつは今、自ら結束したギルドで王都に本部があるギルドのギルドマスターをしている


「その口ぶり……なるほど、ついに君もあのギルドを捨てたってことか」

「捨てたって……まぁ、言い方によってはそうなるけど…」


その言い方をされると胸が痛くなる、確かに側から見たら俺はあのギルドを捨てたことになるな…


「……ふふっ、つまり君は今、フリーの冒険者ってことかな?」

「え?いやまぁ、そう……なるかな」

「なら……」


そうして彼女はこちらに手を差し出してくる


「今度は私達のところに来ないかい?」

「は?」


突然何を言い出すんだこいつは


「君は今フリーの冒険者…いや、旅人と言ったところか」

「そりゃそうだが…」

「私は君の剣の技は買っている、それこそあの剣聖よりもだ」

「買い被りすぎだぞそれは」

「確かにそうかもしれないね、けれど事実だ、君は努力を続けて強くなった、最近、突然現れて驚異的な力を発揮する連中たちよりも、よっぽど信用できる」


突然現れて、驚異的な力を発揮する……?


「失礼、こちらの話だ……それでどうかな、あそこのギルドにいるよりも、衣食住の面も金銭の面も充実した日々を送れると思うけど」

「……はぁ…やめておけ、俺みたいなやつを誘うのは」

「?」

「俺みたいな、逃げ腰の弱虫には……お前たちみたいな天下のギルドでは役立たずさ」

「……ふむ、残念だ、よくわからないけれど、どうやら何かあった様だね、気が変わったらいつでも来なよ、君の分の席はいつでも開けておくからね」

「……あぁ」


なんと言うか、相変わらず不思議なやつだ…


「それで……そこの2人が今の君の仲間かい?」

「あぁ、クレディス・ブレイブとエクレ・アロウテクトだ」

「初めまして、クレディス・ブレイブです」

「エクレ・アロウテクトです」

「ふむ……彼女はいないんだね」

「……色々あってな」

「ま、深くは聞かないでおくさ……ところで、君がいるのならちょうど良い、少し付き合ってくれないかな」

「?なんだ?何かあるのか?」

「あぁ……実は、この街の坑道の一つが魔物達に占拠されてしまったらしくてね、その討伐を任されたんだが…私1人では少々厳しくてね」


なるほど…だからこいつはこの街に居たわけか…


「ギルドマスター直々にこの街にくるなんて、その辺にいる魔物からそんなに強い魔物なのか?」

「あぁ、まぁそう言うわけではないんだが…今日はなんとなく君に会える気がしてね」


相変わらず勘が鋭い……


「しょうがない、ここであったのも何かの縁だし…良いか?ブレイブ、エクレ」

「僕は最初から行く気でしたよ?」

「私も、困っている人がいるのなら見過ごせません!」

「あ2人ともそう言う感じ?」


まぁ別に良いけどさ、どうせ俺もついて行くって言った後だし


「助かるよ3人とも、それでは行こう」


勝ち誇った顔で振り返って歩いて行くクラフティ…こいつ、最初からこれが目的だったな……



「あぁ、グランディオスの!」

「お待たせいたしました、領主様」


「グランディオス?」

「グランディオスってなんですか?」

「グランディオスっていうのはクラフティがギルドマスターをしているギルドの名前だ、クラフティの一番火力の高い魔法の名前から取ってるらしい」


「あの、後ろのお三方は?」

「あぁ、彼らは私の連れです、実力は保証しますよ」

「ほ、ほう……」

「それで、魔物に占拠されたという坑道は?」

「は、はい、こちらです」


この街の領主の執事であろう人が案内してくれる、案内された先は立派な入り口が作られている坑道で……


「なるほど…確かに魔素が強い」

「魔素って、なんだってこんなところに」


魔素というのは魔物の元となるエネルギーの様な物だ、これがある一定以上貯まると魔物が生まれたり、そこに魔物が引き寄せられたりする、魔導士など普段から魔法に触れているものの方が感知しやすいとか言う話を聞いたことがある


「理由はわからないが、これほどの魔素は異常だ、単純に魔素が溜まったのではなく、何か原因がある」

「そう言えば、ここの坑道で魔物が現れる前日、なにか暗い光がこの街に落ちてきたんですよ」

「暗い光?」

「えぇ、と言っても、落ちた地点からここまではかなり距離がありますし、関係があるかはわかりませんが…」

「いえ、重要な情報かもしれません、ありがとうございます」


暗い光、魔素の大量発生……わからないことだらけだ……


「それじゃあ行こう、3人とも」

「あぁ」



坑道に入ると、俺にもわかるくらい強い魔素が体を包んだ


「うげ、こりゃすげ、やべぇやつじゃないか……?」

「だから言ったろう、異常なほどの魔素が存在していると」

「…はぁ…はぁ……」

「…?エクレ?どうした?」

「あ、な、なんでもないですよ?」


そんなわけない、明らかにここに入る前よりも体調が悪そうだ


「あまり無理せずにゆっくり休んでく」

「魔物だ!」

「っ!」


このタイミングで魔物が出てくるなんて…!


「ブレイブ、行くぞ!」

「はい!」

「[アタック・ブースト]」

「!これは…」

「アタック・ブースト、クラフティの支援系魔法だ、効果は名前の通り!」

「攻撃を強化するって、わけですね!」


やってきた魔物を剣で倒して行く、大きい道に出ればクラフティの攻撃系魔法も期待できるが、こう狭い道だとブースト系しかクラフティは使えない


「まだ数はあまり多くないみたいですし、ここはこのまま切り抜けましょう!」

「もちろんっ!」


この坑道の魔物がこれだけとは思えないが、今ここにいる魔物は幸い弱い魔物だらけだ、サクッと倒して次に備えよう


ギリギリギリ...


(……なんの音だ…?)


何かを引き絞る様な音が聞こえる、その出所はすぐにわかった


「っ!エクレ!」


「へっ?」


エクレの方に魔物が矢を飛ばしたのだ、まさか弓矢を使ってくる魔物がいるなんて……!?


「フォトンザンバーッ!」

「!」


ブレイブが例の刀を鞭の様にする技でエクレに向かって飛んでいく矢の軌道を逸らす、それを確認した後、俺は弓矢を持つ魔物を始末した


「ふぅ……討伐完了」

「ですね、大丈夫でしたか?エクレさん」

「は、はい、ありがとうございます、ブレイブくん」

「いえいえ、怪我がなくてよかったです」

「ほーぅ…面白いな、君の新しい仲間は」

「確かにな……あんなにでかい声で技の名前を叫んでるの初めて聞いたけど」

「あっ」


ブレイブが恥ずかしそうに赤面する、どうやら自覚はなかったらしいな


「うぅ……師匠にいつも[技名を叫ぶのは普通にやめなさい]ってたしなめられてきてたのに」


昔からの癖だったのかよ


「はははっ、つくづく面白いね」

「笑ってやるな…」


俺も一時期そう言う時期があったからわかる、普通に恥ずかしいんだよな…


「だが、見たことのない技だったな……刀から鞭の様なものが生成される魔法か……」

「師匠が作り出したオリジナルですから、他には知られてないかもですね……師匠は、一本の刀から9本の鞭を同時に生成できるんです!」

「一本の刀から……」

「9本の鞭……」


……


「いやキモいわ!?」

「ちょっと想像したくないです……」

「えぇ!?」

「うーん…有効活用できるのかな、それ」


ーメリナside


あれから何日が経ったろうか……それがわからなくなるくらい、私の時間感覚は狂ってしまっていた


「……」


私は…彼になんてことをしてしまったのだろう、今更になって後悔の念が押し寄せてくる、彼に浮気がバレてしまった時は[ついにバレたか]くらいにしか思っていなかったというのに


コンコンッ


「……?」


今、家の扉がノックされた……?あぁ、ということはまた朝なのかな……モナくんやカヌレちゃんが呼びにきてくれたんだろう…今日こそはちゃんと行かないと……ギルドに顔を出して…オレオがいなくなったことについて、みんなに…説明……


「……え…?」


扉を開いた先にいたのは、[彼]だった


「な、何しにきたの!?」

「やだなぁ、メリナさんの様子を見に来たに決まってるじゃないですか、僕たち、愛し合った仲でしょう?」


その言葉に、背筋が凍る、ゾワゾワして鳥肌が立ち、吐き気と嫌悪感が生まれる


「なんでも良いけど、もう私に関わらないで」

「オレオールさんがいなくなった今なら、僕の方に来ても誰も文句を言いませんよ?」

「やめて、近づかないで!」


その場にあった矢を手に取り彼の首元に突きつける、何故こんな男に身体を許したのかと自分自身を疑うほどに、今の私は彼に、そして私自身に憎悪していた


「あーぁ……これは解けてしまったみたいですね」

「は……?」


解けたって何が……?


「メリナさんがそのまま来てくれると都合が良かったのですが…彼が居なくなったという衝撃はそれだけ強かった、つまり…まぁいいでしょう…―――からの―は――しましたから」

「な、何を言って」

「それではメリナさん、また、暗き月の夜に」

「待ちなさ……!?」


彼の体が、漆黒色の粒子になって消えていく……なに、これ、なんなの……?


「一体、何が……」


もう、訳がわからない



白いスズランの花言葉[くもりない純粋さ]

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