第8話[旅の第一歩]
ある者がいた、ある者は強い力を持っていた、ある者は力に溺れ魔王と化した、振り返る厄災、民は叫び、空は割れ、地は崩れる、誰もが絶望に瀕したその刹那、遠い異国の地から舞い降りた若人が、神から授かりし剣を携え、光の祈りを受けて勇者となる、勇者となりし者、選ばれし仲間と共に魔王を封印し、この地に安寧をもたらす
これはこの世界に古くから伝わる御伽話である、その全容を知る者は、もうこの世界には1人もいない
ー
「そう言えば、行き先はどこにする予定なんですか?」
休憩のために野原にシートを敷いて3人で座っていると、エクレが純粋な疑問をぶつけてきた
「そうだなぁ……とりあえずここにする予定だけど」
地図を取り出し指を指す、刀の手入れをしていたブレイブも気になってエクレと共に地図を覗き込んだ
「ここがさっきまで俺たちが居たビギンズタウンで、ここがエクレと合流した森、あれから二、三時間程度歩いてるから、今は大体ここら辺、となると次はこの街になるな」
地図を指差し、説明に合わせて動かす、予測ではあるが現在地から次の街へはまだまだ距離があり、こう見るとビギンズタウンとギルドがあった街が近すぎて、俺って案外狭い世界にいたんだなと思う
「でも、なんでわざわざ南の方に来たんですか?北のこっちの街の方が距離的にも近そうですけれど……」
あ〜……え、う〜ん…エクレ・アロウテクトさんそこついてくるかぁ
「俺は元々そこの街出身だったからさ、南の方に来たわけだから、まずはこの国の南の端まで行ってからこうぐるっと外回りの旅をしようと思っていてさ」
「なるほど、そうなると、王都に辿り着くのは後の方になりそうですね」
「えいやまぁ…王都…そうか」
王都というものは大抵国のど真ん中に構えているものだ、だからこの国の周りをぐるっと回ると言うのはあえて真ん中を外すルートを歩くことになる……いやそこまで考えてはなかったが
「別に、道が決められた旅じゃないから自由奔放に行き先は変えても問題ないけどな」
「ですが、お金の面はどうしましょうか……まさかそんな大金を持ち歩いているわけではないでしょうし…」
「まぁどの街に行くのにも道中で魔物に出くわすだろうし、倒した魔物の素材を売れば生計は立てられる……って言うなんの確証もない浅はかな考えからこの旅は始まっています」
「え」
「オレオールさんって、意外に考えなしなんですね…」
「うぐっ」
ブレイブに突っ込まれてしまった……いやまぁ、確かにそうだけども
「そうなると、なるべく魔物たちは狩って行った方がいいですよね、魔物の素材は換金できるわけですし……そうなると、あまり戦闘にならない様に魔物には気が付かれない様に移動してきましたけど」
「ですが、私は戦闘面では…」
「そう言うのは適材適所さ、戦える奴が戦えば良い、それに、アロウテクトは回復が使えるんだから、俺たちのサポートをしてくれてれば……あれ、なんか言い方悪いな、えっと…」
「倒すことだけが戦いじゃない、ですよね?」
「そうそれ!」
「そう、ですか?…わかりました!お二人が傷ついた時は、必ず治しますね!」
そうしてニパッと笑うエクレ、元気になってくれたみたいでよかった……魔物に襲われてたわけだからしばらくは落ち着かせるのに時間がかかりそうだと思ったけど、心配はなさそうだ
「さてと、そろそろ移動するか、早くしないと日が沈んじまうしな」
「そうですね、いきましょうか」
「あちょ待ってください、刀の手入れがもう少しで……」
「焦らなくて良いからゆっくりしっかり手入れしてやれな、エクレ、俺たちは先に片付けよう」
「はい!」
急ぎながらも丁寧に刀の手入れをするブレイブを見ながら俺たちはシートの片付けを始める、次使う時に使いやすい様に土や草をしっかりと落とし、小さく畳んでマジックポーチにしまう、そのタイミングでどうやらブレイブも手入れが終わったらしい、急いで手入れ道具をマジックポーチにしまい、刀を納刀して立ち上がった
「お待たせしました」
「いやある意味そんなに待ってないと言うか……ナイスタイミングだったな」
「ならよかったです……あんまり時間をかけすぎるのも考え物ですね…」
「まぁまぁ、手入れが大事なのはわかるからさ」
俺たちはまた3人で歩き出す、なんと言うか、出会ってまだ間もないはずなのに、この3人でいるのに気楽さを覚えている俺がいる……メリナのことを多少振り切ったとは言え、まだカヌレやモナへの罪悪感がなくなったわけじゃない……そう考えるとどんどん不安になっていく、モナはしっかりとリーダーを務めているのだろうか、とか、カヌレは自分で加工した素材を使った武器を使って怪我してないかとか……メリーはその男と幸せに暮らしているのかとか
(まずいな……全然吹っ切れてない…)
軽く頭を振ってメリーのことを頭から追いやる、俺はもうメリーとは別れたんだ、もう夫婦関係に戻れないし戻る気もない、それにもう会うこともない
「オレオールさん?」
「ん、ん?どうした?エクレ」
「あいえ、何か深くお考えの様でしたから…」
「ご、ごめん、心配かけた?」
「い、いえいえ!心配はしましたけど、そんな大袈裟なものでは!」
……そうだ、確かにメリナに浮気されていたことは衝撃的だった、でも、今の俺には、成り行きながらも道を共にしてくれる奴が2人もいる…良い加減前に向かないと、俺が俺自身を嫌いになってしまいそうだ
(こいつらとなら…きっとうまくやっていける、そんな気がする)
俺は前へと進む、いつまでも停滞しているわけにはいかないんだ……完全に吹っ切るタイミングが来たみたいだな
「心配してくれてありがとな……それじゃあいくかー!」
「おー!」
「了解です!」
今の俺には、新しい人生があるんだ、22であてもなく旅をするのはどうかと俺も最初は思ったが、若い2人を支えていけるのなら俺もやっていきたい、こう見えても後進の指導には自信が……自信が……
(あれ、ないな……)
と言うか今考えると俺って何か取り柄があったか……?ギルマスに恩を返すために努力を続けてきては居たが、よくよく考えると俺は別に何か秀でたものがあったわけではない、と言うかそもそも俺に出来ることって……
(い、いや、変なことを考えるのはやめよう…)
悪い方に考えていくのはやめておこう…流石にこれ以上は自尊心がゴリゴリと削れていく、自分のことは意外に自分じゃよくわからないってよく言うし、もしかしたら他の人から見たら俺にも良いところがあるかもしれない…うん、そう信じよう…
そんなことを考えながら俺は道を歩く、俺たちを明るく照らす太陽が、いつもよりギラギラと輝いているように見えて、あることが当たり前だと思われている彼、彼?を、俺はなんとなく羨ましくなった
ーカヌレside
私とモナに声をかけてきた人物、それはうちのギルドのメンバーで、剣聖の……
「ガナッシュ・ステングス先輩!?お、俺たちに何か御用で?」
「オレオールのことについて何か知らないかと思ってな」
胸の奥がギュゥッと締め付けられる、剣聖ガナッシュ・ステングスはオレオールと仲が非常に良かった、それこそ私たちよりも……だから、オレオールのことについて聞いてくるのは至極当然のことなのだろう
「ガナッシュ先輩は、オレオール先輩から聞いてないんですか?」
「?何をだ?やはり何か知っているのか?あいつの妻のメリナちゃんに話を聞こうと思ったんだが、ギルドにも顔出してないみたいだし…昨日はすぐ帰っちまったみたいだし」
モナと顔を見合わせる、このことをこの人に言うべきなんだろうか……この事を……
「…ここは、言うべきだろ」
「!モナ!?」
「ガナッシュ・ステングス先輩は信用できる、剣聖と呼ばれるくらいの実力者だし、先輩とも仲が良い……ここで隠しても、なんの得もない」
「…うん、そうだね……」
私たちは剣聖に私たちが聞いた全てを話すことにした、メリナさんが浮気をしていたこと、オレオールがそれは自分のせいだと気に病んでいたこと、そしてメリナさんとその間男のために身を引いて旅に出たこと……剣聖は「アレを知ってるくせに……」と憤りを隠すこともせずに強く拳を握りしめた……アレってなに…?
ー
白いチューリップの花言葉[失われた愛]
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