番外編[始まりの出会い]

体がゴトゴト揺れている感覚で目を覚ます、どうやらいつの間にか深く眠り込んでいたらしい……ここは、一体…


「おぅ!目覚めたか?」

「!?」


ビクッとして思わず体が後退する、そんな俺の様子に目の前の男の人はガッハッハと笑った


「なんだ?坊主、驚かせちまったか」

「え、えと、あの、その」

「野原で大胆に気絶してやがったから一応連れてきてやったけど、お前、魔物か盗賊にでも襲われたか?」

「え、えと、俺、俺は、その……」

「こーらっ!」


ズビシ!と目の前の男性にチョップが入る、気がつけば男性の後ろには1人の女性がいた


「そんな威圧的な態度じゃ、この子も怖がっちゃうでしょ!」

「だってよぉ、こいつハッキリしねぇしさ」

「あんたも次期ギルドマスターになるんだから、子供の相手くらいしっかりなさい!」

「ゔっ、わ、わかったよ……」

「全く……ごめんね?怖がらせちゃって」

「ひっ……!?」


お、女の人が近づいてきた…!?


「あれ」

「おいおい、お前も人のこと言えねぇじゃねぇか」

「う、うるさいわね!」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」


思わず頭を下げて謝罪してしまう、何かされたわけじゃないのに……


「……お前、コイツに何かしたのか?」

「してないわよ!って言うかあんたも見てたでしょうが!」

「それもそうか……おい坊主!」

「は、はい!」

「お前、名前は?」

「え」

「名前だよ、お前の名前」

「俺は、えっと、俺の名前は……」


その時、ふと脳裏に何かがよぎった、美しい羽衣を纏った女性が、こちらを振り向いて……


「……オレ、オール…?」

「お?オレオールか!」

「えっ」

「そうかそうか!良い名前だなお前!」

「ゔっ」


背中をバシバシと叩かれ思わず声が出る、全力ではないのか体がよろけることもなかったけど


「で、お前、故郷の村は?」

「こきょう……?」

「馬車に乗ってんだし、せっかくだから家まで送ってってやるよ、これは俺たちが買った馬車だから金とかは気にすんな」

「あ、ありがとうございます…家……家……」


…………………………


「……?どうした?」

「その、それが……全く思い出せなくて…」

「はぁ!?思い出せない!?」

「ちょっ、大変じゃないそれ!」

「記憶喪失、ってやつか……ふむ」

「ふむじゃないわよ!どうするのこの子、やっぱり教会とかで保護してもらった方が……」

「……いや、ここで会ったのも何かの縁だ、お前、うちのギルドに来い!」

「えっ」

「は、は!?ちょ、あんた何考えもなしに!」

「考えがねぇわけじゃねぇって!」

「はぁ!?」

「こいつ、子供って言っても見た感じ15〜6ってとこだろ?だったらよ、こいつをギルドのメンバーとして迎え入れれば良いじゃねぇか!」

「そう言うのを考えなしっていうのよー!」

「おぉおぉ揺らすな揺らすな!揺らすなー!」



「本当に連れてきちゃったし…」

「はっはっはっ、見ろ坊主!これが俺たちのギルドだ!」


男性が自慢げに紹介するギルド、あちこち寂れてはいるが立派な入り口にとても大きく、かつ二階建て、掃除も行き届いているようだ


「あれ、先輩達!お疲れ様です!」

「おぉ、お疲れ、ガナッシュ、最近の調子はどうだ?」

「ばっちしです!任務も大成功続きですよ!」

「カカカ!そりゃ良かった!」

「もぅ……恥ずかしいからその笑い方やめなさいってば…」


俺よりも何歳か年上であろう男が彼と話している、そのままの流れで建物の中に入ることになった、ビクビクしながら彼の後ろに隠れてついていく


「そういや、最近恋人とはうまくいってんのか?」

「もちろんですよ、この前彼女の実家に行ったんですけど、想像以上に歓迎してもらえてですね、彼女がもう可愛くて可愛くて」

「ヒュ~♪若いっていいねぇ」

「ところで、さっきから先輩に引っ付いているこいつは?」

「ひぅっ」


ついに俺に矢印が…こ、怖い…


「あぁ、こいつはオレオール、今日から指導することにした!」

「え」

「え?」

「はぁ…」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!??????」と、ギルド中から驚きの声が上がった、その声の大きさに思わず縮こまってしまう、ギルド内の色々について全く無知の俺はもう何が何だか分からなくなってしまっていた


「ちょ、本気か!?」

「本気も本気だ」

「もうすぐギルドマスターになるってのにお前…」

「乗りかかった船だ、こいつの面倒は俺が見る」

「っていうかこの子どこの子だよ?」

「記憶喪失の小僧だ」

「余計にはぁ!?だわ!」


その後もやいのやいの言われている男性、どうしよう、俺のせいで…


「責任なら取る!!!」


その言葉に、ギルド中の声が静かになった


「こいつは記憶喪失だ、行くところも頼れる大人もいない、そんな奴を放っておいたら絶対後悔するときがくる!」

「で、でもよ…」

「もし嘘だったらどうすんだよ」

「それでも俺はこいつを、このギルドで鍛え上げる!それが俺の覚悟だ!考えなしだと思うなら笑え、俺に直接伝えにこい!」


その言葉を聞いたとき、なぜか嬉しさで涙が流れた、俺はここにいていいのだと、なかったはずの居場所が出来たのだと


「あれ?みんなどうしたの?」


ガチャっとギルドの入り口の扉が開き、一人の少女が入ってきた、その子は俺と同い年くらいの女の子で、今ここに来たからかこの現状が分からずに困惑しているみたいだ


「おぉ、お前も来たか、ちょっとこっちに来―い!」

「?はーい」


こちらに近づいてくる女の子、や、やめてほしいけど、声を出せない…


「どうしたんですか?」

「お前、確か俺に講師をしてほしいんだったよな?」

「はい…!まさか!」

「そのまさかだ!気が変わったから、講師をしてやるぞ!」

「~ッ!やったぁぁぁぁ!!!」


すごく喜んでいる少女、なんか、よくわからないうちに話がどんどん進んでいく


「こっちの男の子は?」

「こいつはお前と同い年でお前と一緒に俺が教えることになった小僧だ、ほら、自己紹介」

「あ、え、えっと…オレオールです、よろしく、お願いします」

「オレオールくんね、私はメリナ!メリナ・マーリス!よろしくね!」


手を差し出してくる彼女、恐る恐る手を伸ばすと、彼女は俺の手を強く握った


「う、うぅ…」

「?どうしたの?」

「な、何でも、ない、です…」


なんでだろう、女の人と話してるとぞわぞわして、思わず声が震えてしまう、手足が震え、冷静でいられず変な声が出る


「よーし、せっかくだし今日からやってくか!」

「バカ」

「いでっ!?な、なにすんだよ!」

「もう!今はお昼過ぎよ?昼食くらい食べさせないと!」

「あぁ、そうだったオレオール!飯食おうぜ飯!こいつの飯はうめぇぞ?」

「あ、ありがとうございます」

「ずるい!私も!」


その後、4人でご飯を食べた、こんなにあったかくておいしいご飯、久しぶりに食べた気がする…



それから約二年の時が流れた、最初は懐疑的だった周りの目もどんどん柔らかくなっていき、俺もみんなに認められていると少しずつ自身が付いていった


「行きます!」

「来い!オレオール!」

「はぁぁぁぁあ!!!」


この二年でギルマスになった先生に稽古をつけてもらう、お互いに訓練用の剣をもって戦うのだ


「ふっ!!!」

「っと、この二年間でぐんぐん成長しやがって!」

「先生が良いからですかね!」


「先生もオレオもよくやりますよね~」

「嬉しいのよ、教え子の成長が、先生に成長した自分を見てもらえることが」

「そういうものですかね」

「今日は特に熱が入ってるみたいだし、今日のご飯は気合入れて作ってきてよかったかも?メリナちゃんの分もきちんとあるからね」

「わぁ、楽しみです!」


「いける、これなら…」

「甘い!」

「ッ!?」

「そこだッ」

「ぐぇ!?」

「あ」


「あ!?」

「あぁぁぁ!!??」


「や、やっべ、だ、大丈夫かオレオール!!!」

「今頭から行きましたよね!?」

「あなた…やりすぎよ」

「わざとじゃないってとか言ってる場合じゃない!」


「う、う~ん…」

「お、起きたか!?」

「先生…ここは、確か俺、稽古の途中で…」

「あ~、すまないな、俺の剣が思いっきり頭に当たって」

(だから頭がずきずきするのか…)


でも、本当にそれだけか?なんかもっといろいろな…


「…!?」


ズキンッ!!!


「ぐぁっ……!?」

「オレオール!?」


頭が、中をぐちゃぐちゃに叩かれるような痛みに襲われる、これは一体……!?


『母さんと妹から離れろぉ!』


『お前が余計なことをしなければ!』


『あんな犯罪者と一緒だなんて』


「っ!?」


その瞬間、頭に映像が流れる、忘れていたはずの記憶、その一部が


「オレオ!だ、大丈夫なの!?」


メリーが病室へやってきた、おそらく3人でローテーションして俺のことを見てくれていたのだろう


先生とメリーが心配そうに俺に声をかける……俺は思わず、ベッドの上で後ろに下がってしまった


「オレオ……?」

「く、来るな……来ないで、来ないでくれ!」

「ど、どうしたの!?なんで急にそんな」

「いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!!!」

「オレオール……?」

「許して……母さん…父さん……!」

「っ!……」


側から見ると、どんなに情けない姿だったのだろうか、俺は頭を押さえて混乱していた、怖い、女性が、簡単に壊れてしまう女性が、男性が、簡単に女性を壊してしまう男性が、そして何より、平気で嘘をつき、騙し、多数で1人を傷つける人間が、いやだ、いやだいやだ、許してくれ、許してください、ごめんなさい、良い子にしますから、もう余けいなことしないから、だからそんなめでぼくのことをみないで、おとうさん、おかあさん、ごめん、ごめんなさい、わるいことしないから、いいこになるから、もうだれかをきずつけてまでたすけようだなんておもわないから、だからやめてください、もうぼくのことをなぐらないで、おこらないで、なんでもするから、おとうさんがいうならあついみちのうえをあるいたりもするから、どんなにくるしくてもがまんするから、だから、だから、もうぼくを、なぐらないで……


「オレオ……!」

「っ!……め…り…」


めり……な、なんでここに…ぼくは今…あれ、僕?僕ってなんだ…?俺は俺だろ…俺はオレオールで、先生の教え子で、メリーと同い年で……今、メリーに抱きしめられていて


「辛かったね……大変だったね、オレオ…」


ギュゥッと、硬く強く俺を抱きしめるメリー……この状況は、一体…


「一人きりで、ずっとずっと耐えてきたんだね、その辛くて苦しい道を、ずっとずーっと、1人で歩いてきたんだね…」

「おれ……は…」

「もう、良いんだよ、肩の力を抜いて、ここには、オレオのことを否定する人なんて1人もいないんだから、ね?」

「メリー……」

「もし、オレオがどうしようもなく辛くて、苦しくて、悲しみの涙が出てしまいそうな時は、私がずっとそばにいて支えるよ」

「!……ひぐっ…」

「だから、そんなに1人で背負い込まなくて良いの、オレオの辛さ、私にも背負わせて?……私はいつでも、オレオの味方だからね」

「ぐすっ、ぅ、ぅぁ…!」


スッと、抱え込んだナニカから解放された気がした、メリーをギュッと抱きしめる、かつて母親にしていたように


「ありがとう、メリー」


涙が流れて、感情もぐちゃぐちゃで、それでも伝えなければと思い口に出したその言葉は、全然ちゃんと言えなくて、それでもメリーは、「どういたしまして」と言って、もっと強く俺を抱きしめてくれた



数十分後、落ち着いた俺は、思い出した記憶についてメリーと先生に話していた、全てを失い、たった一つ思い出した記憶がこんな記憶で、2人は気の毒そうに俺を慰めてくれた……それが嬉しくて、余計に泣いてしまって……


次の日、俺はメリーのことをいつの間にか目で追っていた、女友達と楽しそうに笑い合う彼女、先生の奥さん(俺を助けてくれた時にそばにいた女性)の料理を美味しそうに食べる彼女、相談事を親身になって聞く彼女……そして、とびきりの笑顔で俺に笑いかけてくれる彼女


「どした?オレオール」

「えぁ、ガナッシュ……」

「ずーっとメリナちゃんの方を見てたけど」

「い、いやー、ちょっとな」

「……ははぁ?」

「な、なんだよ」

「いやいや、わかりやすいなと思ってさ」

「なにが」


手元にある水を一気に飲む、なんなんだよ変なふうに勘繰ってきやがって


「お前、ついに惚れたろ」

「ぶっ!」

「おわっ!?きったね!?」

「げほっげほっ!おまっ、急に何言い出すんだよ!なわけないだろ!」

「えでも、どう見てもお前、メリナちゃんにホの字だぞ」

「ばっか!そんなことあるか!俺とメリーはあくまでチームメイト!そんなんじゃない!」

「いやいや、さっさと認めて告らないと、誰かのものになっちまうぞ」

「別に、メリーがモテてるだなんて昔からだろ、それに、わざわざ俺を選ぶなんてことあるか」

「いやぁそうでもない気がするけどねぇ」

「は?どういうことだよそれ」

「ほら」


ガナッシュが指差す方向に目を向けると、友達と話しながらこちらをチラチラと見ているメリーが……俺と目が合うとどこか恥ずかしそうにサッと視線を友達の方へ持っていった


「え……」

「ほらな、ま、頑張れよー」

「ちょまっ!ガナッシュ!?」

「いやぁー、青春だねぇ〜」

「おぉい!!!」


告白なんて、経験ないから全然わかんないんだけどー!!!


2人が結婚するまで、後3年

彼が1人旅に出るまで後5年

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