第7話[運命の日]

「っし、そろそろ出発するか、準備はできてるか?」

「はい!バッチリです!」

「それじゃあ行くか」


2人して荷物をまとめ、宿を出る、今日はこのまま南の方へ向かう予定だ


「そういえばオレオールさん、この旅って何か目的とか、ゴールとかあるんですか?」

「んー、いや、別になにか考えてるわけじゃないが…そうだなぁ、また何か、守るべきものが出来たなら、そこがゴールかな」

「守るべきもの、ですか」

「あぁ……ちょっとな」


守るべき物……全てを投げ出しておいて何を今更という感じだが、それでも今度こそ守れる物は守りたいと思う、もしもまた守るべきなにかができたのだとしたら……


(俺は、そのなにかを守れるのか…?)


7年間寝食を共にした相棒の…妻のことすら理解しきれていなかった俺が……そんなことを…


「オレオールさん?」

「!あ、わ、悪い悪い、ちょっとぼーっとしてた」

「えぇ……まぁ良いですけど…そろそろ僕たちの順番ですよ」

「あぁ、了解」


タウンの出入り口である門、そこを出入りするには警備隊の審査を通る必要がある、そのため早朝から朝、夕方から夜にかけては結構列に並ぶことになる


「はい、今傷心旅行中で、あはは、すみませんこんな話して」


まあ審査と言っても別に軽い物で、薬物など違法なものを持っていないかの荷物検査や、なんの目的で街の外に出るのかとか、そんな感じだ


「はぁ、はぁ……疲れました…」

「結構しつこく聞かれたみたいだな」

「えぇまぁ…そんなに頼りなく見えるものでしょうか…」

(いや、おそらくそういうことじゃないと思うが……)


歩きながら話を続ける、ブレイブの審査を担当したのは女性騎士だった、ここら辺を通る男なんて俺みたいな旅人やどこかのギルドメンバー、商人のおっさんくらいのもの……簡単にいえば、その女騎士は面食いだったのだろう、イケメンで荒々しくなくて、かつ滲み出る性格の良さと素直さが際立つブレイブは格好の的、まぁ、あえて言わないでおこう


「こう言うのは初めてだったか?」

「えぇ、ここの街に入る時もすごく慌てましたよ」


目に見えてげんなりするブレイブ、軽いものでも審査は審査、緊張しいなんだな


「ははは、まぁそのうち慣れてくるだろうし、元気出せって」

「わかりました…」


まだなんとなく腑に落ちない感じだな……


「……!」

「?どうした?」


ピクッとブレイブの肩が震える、バッと勢いよく振り向き…そしてブレイブは走り出す


「え!?なに!?どうした!?」

「ついて来てください!間に合わなくなります!」

「いや間に合わなくなるってなにが!?」


そう言ってもブレイブは止まらないため、俺は急ぎ彼を追いかけるのだった



「はぁ、はぁ、はぁ……!」


草木生い茂る森の中、1人の女性が駆けていた…その両手には一つの剣を持っている……これだけは、命に変えても手放すわけにはいかないと、しっかりと抱きしめるようにして走る


「うくっ、はぁ、はぁ」


ゲャゲャゲャゲャゲャ!!!!!


「っ!まだ来てる…!」


後ろからせまいくるのは魔物達、それも森中の移動を得意とする魔物達だ、それこそ死ぬ気で走ってはいるが、それでも少しずつ距離は縮まっている


「はっ、はっ、はっ…っ!」


ある時、魔物が武器を女性に向かって投げた、その武器は一直線に彼女へと向かっていく…もう逃げられない、そう悟った彼女は目を閉じる


……どれぐらい待ったか、1秒、2秒……いや、10秒程度か、一向にやってこない痛みに疑問を覚え、彼女は目を開いた


「なんとか間に合ったか…」

「大丈夫ですか?お姉さん!」


そこに立っていたのは、2人の男性だった、片方は翠色にに煌めく刀を持ち、もう片方は大剣で魔物から放たれた武器を払いのけていた


「貴方達は…」

「少し待っていてください!」

「速攻で片付けるぞ、ブレイブ!」

「はい!」


そこからは圧倒的だった、彼女が逃げるしかなかった魔物を2人は次々と倒していく、強く鋭いその太刀筋はさながら騎士のようで


「……」


彼女は言葉を失い、ただただ見ていることしかできなかった



「討伐完了ってな」

「お疲れ様でした…結構手強い魔物でしたね…」

「手強いどころか異常だ、本来なら、あの魔物はここら一体には生息してない魔物だからな」

「……?えそれって…」

「こいつらがここに来ることは本来あり得ないってことだ…生息地の森も数百キロは離れてるし」

「なぜそんな魔物が、今こんなところに…」

「わからない……数百キロ離れた森に住む魔物が、こんなところにいる理由……考えられる理由としては、密猟、捕獲して、この森で逃したか、それとも逃げられたか…」


「あ、あの!」


後ろから声がかかる、振り向くと女性がいて不安そうにこちらを見ていた


「あっ、お姉さん、大丈夫でしたか?どこかお怪我とかされてませんか?」


ブレイブが移動せずにその場で女性に質問をする、近づかないのは余計な警戒心を煽ることを避けるためだろう


「は、はい、おかげさまで…ありがとうございました」

「気にしないでください、困った時はお互い様ですから!」

(普通に素で言ってそうなんだよな……)


普通人を助けたらそれ相応の見返りを求めてしまうようなところもあるが、おそらくブレイブはそんなことを微塵も思っていないだろう、出会ってまだ1日も経っていないが、なんとなくわかる


「?えっと……?」


彼女の第一印象は金髪美女、なんかこう、街を歩いているとよくナンパされて苦労しそうだなとか思う、女の人も女の人でそう言うの大変そうだよな


「とりあえず、森に男2人女1人ってのは割と見た目が悪い、移動しよう、立てるか?」


手を取れというように手を伸ばすとおそるおそる俺の手を掴む彼女、一瞬固まってしまったようだが、そのまま立たせて手を離すと彼女の震えが止まった……えまって何かされると思ってたってこと?


「……あなた……は…」

「えーっと…どっちに行けば森から出られるんでしたっけ……?」

「こっち」


指差しながら先導する、森に入る時は帰り道も考慮して入らないと……いや、今回の場合は、整備された道もなくそのまま走って来ちゃったからあれなんだけど


(でも、ここら辺は何度も通った道でよかった…)


通ったことのある道じゃないと流石に俺もわからない……というか、始まりの街からちょっとしか歩いてないのにこんな深い森あるのはなんでなんだ……



というわけで人目がある街道まで戻って来た、ここなら話をしても問題はないだろう


「改めて、俺はオレオール・シュトラムル、今は旅人をしている」

「クレディス・ブレイブです、とある理由でオレオールさんの旅仲間をしています」

「エクレ・アロウテクトです、この度は助けていただき、ありがとうございました」


ぺこりと頭を下げるエクレ・アロウテクト、俺はそんな彼女に質問することにした


「なぜあんなところに1人で?仲間はいるのか?」

「え、えっと……1人で…あの森に……」

「ふむ……」


1人であの森に入るって、なかなか勇気あるな……


「一応剣も持っているんですが……私、お恥ずかしながら剣の使い方があまり上手くなくて……回復系の魔法なら得意なんですけど……」


なるほどな……だから剣を抱えて走っていたのか…


「というか、それなら余計に1人で乗り込むようなところじゃないぞ?あの森」

「ぅ……そ、そうですよね…すみません……」

「まぁなんでも良いけど…これからは気をつけろよー」


俺はそのまま振り返って歩き出す……すると、彼女は「あの!」と声をあげた


「私も連れて行ってくれませんか……?」

「え?」

「旅人さんなんですよね?私、行き場がなくて……頼れる人もいないんです…だから、その……」

「え、えぇー……?」


まぁ別に良いけどさ……回復魔法が使えるならありがたいし……でも…いややっぱ急すぎだろ


「回復魔法が使えるなら、教会とかに行って雇ってもらった方がいいぞ?」

「それはそうなんですけど……その…」


……何か言いにくいことがあるみたいだな…


「良いじゃないですか、オレオールさん」

「え?」

「なにか言いにくいことがあるみたいですし、それなら無理に教会に連れていくよりも、一緒に旅をした方が良さそうですし」

「え、そ、そうか?普通に教会とかに連れてった方がいい気がするけど…」

「……きっとあの人、何かあるんですよ、誰にも話せないような何かが」

「いやそれはわかるけどさ…」

「多分彼女も、ダメ元でお願いしてきていますよ…だから、ここは…」

「けどなぁ……」


流石にであって間もない女の子と一緒に旅なんて俺の倫理観が疑われそうだ……


「それに、よくいうじゃないですか、[旅は道連れ世は情け]って」

「……わかったよ」


なんか、思ってた旅と変わって来たような気が……


ーモナside


「……はぁ…」

「……心配か?先輩が」

「あったりまえでしょ!だってあのオレオールだよ!?計画性ゼロで騙されやすくて、いつも抜けてるあのオレオール!」

「めっちゃ言うじゃんお前」


カヌレが先輩に対して色々物申す、悲しいことに計画性ゼロも、騙されやすいのも、いつも抜けてるのも全く否定できないから困ってしまう


「それで…それで……優しくて、頼り甲斐があって…強くて、背中が大きくて……」


気がつくと、カヌレの瞳からはポロポロと涙が流れ始めていた


「私を、魔物から助けてくれて……」

「……」


こう言うことを言うのはアレだが、カヌレは先輩に懐いていた、それが恋愛的な意味なのか、それとも頼りにある兄貴としてなのか、女心がわからない俺にはわからないけれど、間違いなく家族の様に思っていた


「……なんで浮気なんて…」

「……先輩も言ってたろ、自分は意気地なしで勇気がなかった、それが問題だったって」

「でも、それでも浮気をして良い理由にはならないじゃない!」

「そりゃそうだけどよ…」

「私には、メリナ先輩が悪いようにしか思えない」


そりゃ俺だって同じだよ……いくら性事情がなかったとしても、浮気は浮気、どちらが悪いのかと聞かれれば俺はメリナさんだと答える


(……ほんと恨むっすよ、先輩…)


空を仰ぎ見る、メリナさんはあれ以降全く家から出てこなくなった、2人に足りないのは話し合いだ、お互いの思いを伝え合うことだ、それが足りなかったからこんなことが起きてしまった


(……でも、確かに[まだ冒険者してたいから妊娠はしたくない]なんて言われ続けちゃ俺も手を出さないかも…)


数年前から口癖のようにメリナさんがいつも言っていた言葉を思い出して、俺は軽く悩む……あーもう、先輩は絶対俺やカヌレに隠してることあるから詳しく考察できねぇ!


「なぁ」


……そんなことをしていると、俺たちに2人に声がかかった、その声の主は……



ハーデンベルギアの花言葉[運命的な出会い]

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