第6話[旅支度]
「わぁ……たくさんありますね…」
「そりゃこの街一番の店だからな、品揃えは良い方だぞ?」
俺もギルドから南の方に任務があった時はよくこの店に寄ったものだ……今は放浪者になったため、こうしてここで旅支度を整えていこうと言うわけだ
「特にマジックポーチは重要だからなるべく質がいいのを選んだ方がいいぞ」
「?まじっくぽーち?」
なにそれ、と言った感じで聞いてくるブレイブ……まじか、マジックポーチといえば冒険者の間では基本中の基本…ではないが、持っている人も多い
「マジックポーチっていうのは大量にものを入れることができるポーチのことさ、ポーチの中に特殊な魔法がかけられてて、そのレベルによって入れられる量が違うって感じだな」
「ふむふむ…皆さん、剣や盾、弓などをたくさん持っているのに軽装備だったのはそういうことなんですね」
「いやそれはまぁここ付近に拠点を構えているからかもしれんが…まぁそんな感じだ」
「ふむふむ……」
見入ってる見入ってる、興味深そうにお試しのマジックポーチに手を入れ、明らかに自分の手が出るように伸ばしても出てこない手に驚きつつ笑っている……俺も新調しないとな…前まで使ってたマジックポーチは家出の計画がバレないように家に置いて来ちまったし、かと言っていつまでもこのでかいカバンを背負ってちゃ戦えるものも戦えないというものだ
「おっちゃん、久しぶり」
「んぉ?おぉ、オレオールじゃねぇか」
店主であるおっちゃんに声をかける、南の方に来るたびにここに寄っているのでおっちゃんとは顔見知りだ
「今日は何買いに来たんだ?見たところでかい荷物のようだが……マジックポーチか?」
「ははは、半分正解って感じかな」
俺はマジックポーチから手を出し、吟味するように商品を眺めているブレイブの方へ視線をやる、すると、何かを察したようにおっちゃんは「あぁ」と呟いた
「なるほどな、お前のとこに新人が来るのは3年ぶりか?」
「あー、今回はそういうんじゃないんだ」
「ほう?」
俺はブレイブのことをおっちゃんに話した、草原の中に倒れていたこと、目が覚めてからいくあてもないというのでこの街まで送ることにしたこと、色々と足りないものを買い与えてやること
「なるほどなぁ、しかし、出会ったばかりの坊主にそこまでしてやるたぁ、さすがだな、オレオール」
「なにがさ……ま、行くあてがないってのは、昔の俺を思い出してな」
「そうか……アレはもう、乗り越えられたのか?」
「……今んところまだ、乗り越えられそうな機会はあったんだけど…拒否られちゃってさ」
「あー、そりゃ残念」
ブレイブはどれにするか決めたのか、一つのマジックポーチを持ってこちらに駆け寄って来た
「オレオールさん、マジックポーチはこれにします!」
「オーケー、それじゃあ次は鎧だな、なるべく硬くて軽いのが」
「あぁ、鎧は僕いらないです」
「え?」
「僕、回復が使えるので」
「……回復って、ヒールか…!?」
「え?え、えぇまぁ、そんな感じのものです」
「はー、マジか…」
すげぇこと聞いちまった、ヒールが使える冒険者なんてなかなかいない、ヒールが使えれば教会で雇ってもらえるからわざわざ身を危険にする必要もないからな
「あれ、教会に連れていったほうがいい?」
「あいや、僕そういうのはちょっと…それに、誰かを癒す仕事よりも、誰かを守るために戦うほうが性に合ってますから、それに最低レベルしか使えませんし…」
「……」
なるほどな…うん、なるほど
「はっはっはっはっ!!!7年前を思い出すなぁオレオール!」
「お、おっちゃん……」
「あの人に連れて来てもらってここに来た時に、お前似たような返ししてきたもんな?」
「ちょ、思い出させないでくれ!」
「え、オレオールさんも同じことを?」
「あぁもう!その話は後で良いだろ!?ほら、次行くぞ次!」
「え!?は、はい!!」
……こんなところで、俺がギルマスとおっちゃんに言った言葉が返ってくるなんて思わなかったな…
ー
「武器は持ってたよな?」
「はい、この刀が僕の一番の武器です」
「そうか、なら武器は無しでいいな……あとは…」
知識をフル回転させて必要なものを考える、マジックポーチ、テント、水容器、あとはちょっとした小物とか……
「結構買いましたね…全部マジックポーチに入ってるから、全然重くないですけど」
「そりゃな、何があっても対処できるように備えるのが一番だ」
「備えあれば憂いなし、ですね」
「そゆこと」
まぁとりあえずこんなもんだろ、あとは本当に必要になったら買いに行けばいいだけだ……ふと空を見上げると、すでに日が傾いて来ていた
「今日はこの街で泊まりかな……ブレイブも宿使うだろ?」
「そうですね……明日はどこへ向かいますか?」
「ん?俺?そうだなぁ……とりあえずずーっと南の方にあるっていうとある街まで向かおうかと思ってるけど」
「それなら早めに起きたほうが何かと……わかりました、何から何までありがとうございます」
「いやいや、気にしないでくれ」
俺おすすめの宿まで歩いて向かう、ブレイブは色々と物知りで、俺の知らないようなことまで話してくれたよ……ま、旅に出て最初にやることが人助けだとは思わなかったけど、これはこれでなかなかありな始まりなんじゃないかと思う
「それじゃあな、ブレイブ」
「はい、また明日」
俺たちは一部屋ずつ部屋を取り、それぞれ部屋で休むことにした……明日からは歩く道だし、この際だから色々見て回ろう、4人でいた時は見れなかったようなところをじっくりと、隅々まで
そんなことを考えていると、ふと眠気がやって来たので、俺はそのまま眠りにつくことにした
ー
「ふわぁぁ……ねむ……」
朝、鳥たちのさえずりによって目が覚めた俺は宿で朝食を食べていた、この後は一度部屋に戻り、荷物をマジックポーチに整理する予定だ、ゆっくりでいい、やることが多いわけではないし
「ん、んま」
この宿の朝食すんごい美味い、これだけでお金払って食べたいくらいです普通に、「流石はビギンズタウン」なんて思いながら次々に料理を口に運ぶ、なんかもっと色々と食べたいなここ…まぁだからよく泊まる時はここに泊まってるんだけど
「お兄さんよく食べるねぇ」
この宿のおばちゃんらしき人が奥から来て話しかけてくれた、厨房の方からやって来たのを見ると、これはこのおばちゃんが作ってくれたのだろう
「これ本当に美味しくて、いくらでも食べられそうなんですよ、こんなに美味しい料理をありがとうございます」
「いやいや、良いんだよ、お兄さんみたいな人に料理を振る舞うのが私の仕事だからね」
ニコリと微笑むおばちゃん、こんな人が作ってくれた料理なら、他の人にも大人気だろう
「そういえば、昨日お兄さんと一緒にいた男の子もさっき似たようなことを言ってくれたよ、嬉しいねぇ」
「そうなんですか?」
ふむ、となるとブレイブはすでに朝食を食べ終えたということか……今は何をしているのだろうか、部屋に戻っているのか、それとも街に出てギルドに登録しているのか…詳しくはわからないが、ブレイブの行く道が幸せなものであって欲しいなんて他人の身ながら思ってしまう、そんな時、後ろから声がかかった
「オレオールさん」
「お?おぉ、ブレイブか」
どうやら宿の外に出ていたブレイブ、腰には昨日買ってやったマジックポーチがつけてあり、刀もしっかりと納刀してある
「おはようございます、朝食の邪魔をしてしまいすいません」
「いやいや気にするな、準備は万全みたいだな」
「はい、いつでも出発できますよ」
……?出発?
「どこかに行くのか?」
「?はい、オレオールさんに恩返しがまだできていないので、オレオールさんの旅についていこうかなと」
「え」
あ、あー……そういえば恩返しがどうとかいう話もした気がする…全然覚えてなかった…
「オレオールさん、あたかもまたいつか会った時に、みたいな言い方してましたけど、そんな都合よく再会なんて難しいですし、それなら、オレオールさんについていったほうが良いなって思ったんです、それに、まだまだたくさん教えてほしいこととかありますし」
「そうか…なるほどな」
「……あ、あの、迷惑、でしたか?」
不安そうにこちらを見つめるブレイブ、そんな顔してるとせっかくのイケメンが台無しだぞ?……いやまぁ、こういう顔に惚れ込む女性は居そうだが
「いや、俺も旅仲間が欲しいなとは思っていたところだ、ついて来てくれるならありがたい」
「!わかりました、これからよろしくお願いしますね、オレオールさん!」
「おう」
こうして、俺たちは共に旅をすることになった……なんでこんなことに…?
ーメリナside
暗い、暗い部屋に、私は1人でいた、朝迎えにきてくれたモナくんやカヌレちゃんに笑顔で謝って、それでまた部屋に戻る、2人は私のしたことを知っているのか知らないのか…私が謝っても何も言わずに笑顔を返してくれるだけだ
「私は……」
私はあの人の何を見ていたんだろう、この数週間、あの人はいつもと変わらない様子だった……でも、今思えば変なところはいくつもあった、何かを考え込んでいる時間が増えたし、いつものおっちょこちょいの頻度が増えていた、明らかに異常だったのに、私は自分に必死でそんなことに気が付きすらしなかった
「……寂しかったって、何様のつもりだよ…」
私が浮気……というか、彼に体を許したのは単純に寂しかったからだ、キスをするのも手を繋ぐのも、あの人とするのは本当に幸せだった、でもそれだけじゃ足りなくて、私はもっともっとと求めているうちに、熱心にアタックしてくる彼に体を許してしまった……でも、今思えばあの人が私にキス以上のことをしてこないのは彼の心の傷と自分の行動を考えれば当然と言えば当然だった
「あんなに自分で言ってたくせに……」
[まだまだ冒険者をしていたいから子どもは作りたくない、だからそう言うこともしない]と言うのが結婚した日に私があの人に伝えた言葉だった、そしてそれはこの2年間何度もあの人だけではなく仲間の2人にも伝えていた事だ……あの人が勇気を出して聞いてくれた初夜にそう答えてしまったことは今でも後悔している……彼の過去については知っているのに、一歩踏み出してトラウマを乗り越えようとした彼の勇気を踏み躙ってしまった、多分、今あの人は「自分に勇気がないせいで」と考えているだろう、だから私の目の前からいなくなってしまった……私の、せいで
「ごめんなさい……ごめん、なさい…」
もっと早く言えば良かった、あの人に[寂しい]と伝えれば良かった……今はもう彼に会いたくもない、私は、あの人に会いたい
ー
アイビーの花言葉[友情]
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