第5話[出会いと始まりの街・ビギンズタウン]

ブレイブと共に街へ向かって歩いていく中で、一つ驚いたことがある、それは彼の強さだ


「ふっ、やぁっ!!!」


ズバズバと敵を切り裂くブレイブ、普通に使う時もあれば、時に魔法で刀の先を鞭のようにし、時に刀から斬撃を飛ばし、次々に出現する魔物たちを倒していく、7年間剣を握り続けてきた俺だが、こんなに整った太刀筋を俺は見たことがない、今年で17歳だと言っていたが、1人で鍛えてここまで強くなれるものなのか…?


「ふぅ……」


カチンッと音を鳴らして納刀するブレイブ、思わず拍手をしながら近づいてしまう、いくらここら辺の軽い魔物でも、複数体同時にアレは凄すぎる


「あ、オレオールさん、どうですか?僕の腕前!」

「あぁ、ほんとにすげぇよ!ブレイブって強かったんだな!」

「い、いやぁ、師匠と比べるとまだまだですけどね」

「へぇ、師匠が居たのか」


いやまぁ、ブレイブの強さを考えると当然か


「はい、その強さにあぐらをかくことなく、常に鍛錬をし続けている、自慢の師匠です、刀身を鞭のように変化させる技も師匠から直々に教えてもらって」

「そりゃその強さも納得だ、斬撃を飛ばしていたのは?」

「それは、この刀自体の力です、狙った時に真空波を作り出して飛ばすことができるんですよ」


つっよその刀、え?えいや強


「この刀は大切な……そう、大切な、僕の宝物なんです」


刀を愛おしそうに見つめるブレイブをみて、何か理由があるのだろうと容易に察しがついた、ただ、それは無闇に聞いちゃいけないことな気がして


「お、そろそろ街が見えてきたな」

「え、ほんとうですか!?」

「あぁ、ほら」


俺は道の先の方を指差すと、ブレイブもそっちの方を見る


「アレが出会いと始まりの街、[ビギンズタウン]だ!」

「おおー……!」



街の入り口でちょっとした手続きをすませ、2人して街の中へ、タウンの様子を見て気になったかのようにあちこちを見回すブレイブに声をかける


「ビギンズタウンは周囲の魔物がそこまで強くなくてな、毎年、この街のギルドへいろんな街から新人がやってきてな、そのためかは知らないけど、領主様が物価を安くして色々と俺たちみたいなのがやりやすくしてくれてるんだ」

「へぇ……良い街ですね、賑やかで、活気にあふれてます」

「あぁ、確かに、ここまで活気に溢れてる街は王都以外はそうそうないな、物が安いってのもあるけど、やっぱり領主様の人望かな?」

「優しい領主様なんですね」

「最近跡継ぎに困ってるみたいだけどな」

「あぁ……」


なるほど、と言うような顔をするブレイブ、素直でわかりやすいな


「とりあえず、俺はこの街で旅支度を整えるつもりだけど、ブレイブはどうする?」

「そうですね……まだ何にも思いつきません」


フルフルと首を横に振る、そりゃそうか……とりあえずで連れて来ちまったし…もっとこう、色々と今後のことについて話しながらここまでくれば良かったな


「と言うか僕、お金持ってないんですよね……」

「え?…あー」


なるほど、あんだけ強いブレイブがなぜあんなところで倒れていたのか合点が行った、おそらく相当手練の野盗か何かに後ろから不意打ちされたんだろう…それで金を盗まれた、原理は全然意味不明だが刀はブレイブが触れるまでなんの装飾もない普通の刀のような見た目をしていたし、襲われた時に運良く外れたのだとしたら野盗が刀を盗んで行かなかったのも納得だ


「とりあえず今は食うにも困る状況ですし……なんとかしてお金を稼ごうかと思います」

「……」


まぁそれも悪くはないけど……そうするんだったら先に頼れる奴がいるんじゃないかと思ってしまう


「オレオールさん、ここまで連れて来ていただきありがとうございました、このご恩はいつかお返しいたします」


ぺこりと頭を下げられた、どうやらブレイブはこのままどこかに行くらしい


「まぁまぁ、待てよブレイブ」

「?はい?」

「準備を整える金くらいなら俺がかえてやるって」

「え、え!?」


そんなブレイブを止める、ここはビギンズタウン、確かに物価は安いが割とシャレにならないくらい仕事は少ない、かと言ってギルドに登録するのもそれはそれで金がかかる、つまりギルドに登録できない限り稼ぐ手段がこの町ではほぼない、まぁ、それもこれも領主様が[各店への人員を補充せよ!少人数で店を切り盛りするのは大変だからの!なに?給料?そんなもんうちの金庫からいくらでも出してやるわい!]と各店舗の人員を確保したからなのだけれど、いや良いことなんだけどね?


「で、でも、申し訳ないですよ」

「なに言ってんだ、ここまでくれば乗りかかった船だ、それに、ブレイブだったらすぐに金を返してくれそうだしな」

「も、もちろんです!出来るだけ早く返します!」

「ははっ、それが聞けただけで十分だ、さ、必要な装備を売ってるのはこっちだ」

「は、はい!……あの、ありがとうございます!」

「……ふっ、どういたしまして」


[ありがとう]か……まさか言われる側になるとか思ってなかったけど


『お前が余計なことをしなければあの2人は!!!』


……やめよう、あの時のことを思い出すのは、それよりも今は、ブレイブのことだ



一方その頃


「ギルマス!オレオがどこに行ったか知らないですか!?」

「……メリナ、それにモナにカヌレか」

「ギルドマスター、オレオールが手紙と指輪を残して、どこかに行ってしまったらしいんです……私とモナのところにも、手紙は来ましたけど……」

「先輩がそんな無責任に俺たちチームを放り投げるとは思えないし……なんか知らないっすか…?」


やれやれ、やはりこうなったか…それにしても、この2人にもなにも言わずに去るとは……あいつは一体なにを考えているんだか


「その件でオレオールから伝言がある……次のチームリーダーは、モナ、お前だと」

「は?……は、は?え、いやそれ、マジっすか……?」

「あぁ、オレオールはお前の状況処理能力を高く評価していた」

「え、は、いや、はーまじか……マジで先輩帰ってこないつもり……」

「……今度、新人がうちのギルドに入ってくることになっていてな、その2人をお前たちのチームに当てたいのだが……」

「……わかりました」

「モナ……?」

「今は先輩のことを考えてても仕方ない、新人が入ってくるなら、俺たちはその新人を導く義務がある」

「だからって……」

「先輩のことを忘れろとは言わない、でも、先輩がどこにいったのかがわからない以上、これより先はもうどうしようもないんだ」

「……そうだけど…」


きちんと状況判断をして考えるモナ、オレオールの見立てはやはり正しかったらしい


「……メリナ先輩も行きましょう……とりあえずは、今日の任務へ」

「……わかった…」


「……」


3人が悔しそうにしながら退室していく……本音を言えば、オレオールは南へ向かったと教えてやっても良かった、だが、オレオールのことを考えると彼女がいる中で向かった方向を教えるわけには行かない、当然だ、それがあいつの望んだことだ……けれど


「思ったよりもしんどいな……」


やはりと言うかなんと言うか、心が休まるはずもなかった



「っ!」

「あ!?め、メリナさん!?」

「ちょ、どこいくんすか!?」


ギルマスの部屋を出てから数秒後、メリナさんが走ってどこかに行ってしまった…おそらく自宅へと戻ったのだろう


「……先輩、本気だったんだな」

「…その反応、モナのとこにも?」

「ってことはカヌレのとこにもか…昨日の夜に突然先輩がやってきたから何事かと思ったよ」

「こっちも同じ、突然やってきて、何かと思ったら[俺は旅に出ることにした]って…詳しく説明してもらったけどさ」

「……まさか、メリナさんが浮気してたなんてな…」


正直に言ってまだ信じられないけど、先輩がそう言うならそうなんだろう……先輩はメリナさんが浮気した理由を[自分が逃げ腰で愛していることをきちんと伝えられていなかったから]と言っていた、他にも理由は様々語っていたけれど、そのどれも自分に責任があると


「キスとか普通にしてたし、寄り添いあったりとかもしてたし、先輩の愛が伝わってないことはないと思うんだがなぁ」

「……女の子って、それだけじゃ不安になるよ」

「えまじ?不安になるくらいなら、しっかり伝えて話し合えば良いのにな」

「……モナってそう言う悩みわからなそうだよね」


えなんでちょっと引かれたの……そう言うのはわからんです……



カタクリの花言葉[初恋][寂しさに耐える]

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