第4話[不思議な出会い]
「んーっと……これはこれで良いか」
テントを設営し、野宿の準備をする、夜もふけていつもならとっくに寝ている時間だというのにわざわざ街を出てこんなところで野宿をし始めたのには、ある理由がある
「さてと、家出してきたは良いけど、ここからどうするかな」
そう、俺は家出をしてきたのだ
ー
時は今日、つまり魔物の群れ討伐任務を受ける前に遡る
「ギルマス、いますか?」
同じチームの他3人がくる前、俺はひと足先にギルドへ顔を出していた
「おぉ、オレオール、どうかしたのか?」
「お話ししたいことがありまして」
「……そうか」
俺の真面目なトーンに、きちんとした話だと察したのか、ギルマスのトーンが少し暗くなった
「それで、話っていうのは?」
「はい、このギルドから、脱退させていただきたいのです」
やはりか、と言った風にギルマスは頭を押さえた
「その理由は、やはりメリナか?」
「あーいや、そういうわけじゃなくてですね、ん?いやそんなことある?……えーっと…あはは」
「?」
「……メリナが、いつまでもどっちが決められないようなので、俺から離れていけば、メリナももう1人の男の方を選びやすいかなと」
「……正気か?お前が身を引く理由がどこにある?」
確かにギルマスの言う通りだ、正直に言って、俺がメリナを諦めなければならない理由はどこにもないし、許さないと言う選択肢もできる…けど
「メリナは、今でも悩んでるみたいなんです、俺を選ぶべきなのか、それとももう1人の男の方を選ぶべきなのか」
そう、彼女と一緒に住んでいるからこそわかる、夜遅く、彼女は苦しみながら考えている、浮気相手のことはよく知らないが、それほど大事な存在なのだろう、なればこそ臆病者で卑怯者の俺が身を引けば丸く収まるじゃないか、と言うことだ
「……それは、全くの見当違いじゃねぇか?」
「今回、メリナが浮気をしてしまったのは俺のせいなんですよ、俺がいつまでも逃げ腰だったからいけなかったんです」
「……そうまでしても、メリナは幸せにれないと思うぞ、お前への罪悪感で潰れてしまうかもしれない…それに、彼女は、お前の[アレ]を知っているんだろう?」
「だから、手紙を書いてきました、ちゃんと……指輪も置いて行く予定ですし」
「……」
「……それに、だからこうしてギルマスにお願いしているわけですから」
「…ふっ、全く、恩を面倒ごとで返してきたな」
「あはは……すみません…また逃げ腰になってしまい」
「いや、気にするな、今のお前には、一歩踏み出すための時間が必要だ」
「時間って、最後の最後で恩を仇で返しちゃいますけど…」
「逆だよ、そんなお前だから、それを聞き入れてやろうと思った……今回のお前は被害者なんだからな」
「……ありがとうございます、ギルマス」
「俺の方から3人には話しておくよ、ちょうど来週あたりから新人が2人入る予定だし、お前のチームに入れてやろう」
「何から何まで、ありがとうございます」
「ま、アレだな、お前らに子供ができる前でよかったよ」
「そりゃそういうことしてないですから俺」
「……え?」
「いや、メリーが結婚した時、[まだしばらく冒険者続けてたい]って言うので、わざと避けてたんですよ……あはは、本当は俺が手を出す勇気もない意気地なしだったのが悪いんですけど……」
「……そうだったのか……んんっ、それで、次のリーダーはどうするんだ?」
「モナで」
「即答だな」
「そりゃぁ、あのチームの中で、ここ一番の時に落ち着いて物事を考えられるのはモナですから」
「ははっ、流石だな、チームメンバーのことをしっかり見ている」
「ギルマスだってそうじゃないですか」
「カカカッ、それくらいできないとギルドマスターは務まらんってもんよ」
「流石、尊敬してます」
「ふっ……にしても、7年か」
「そうですね…あの時、行き場がなかった俺を拾ってくれて、本当に感謝してます」
「よせやい、今更そんな話、こっちだって色々利益があったからな」
手でマネーポーズを作るギルマス、この人のこういう感謝を一方通行にしない所がみんなに好かれる理由だと俺は勝手に思ってる
「それじゃあ、そろそろ3人が来る時間なんで表の方に戻りますね」
「あぁ…最後の任務……頑張れよ」
「……はい、もちろんです、任務成功を約束しますよ」
「当然だ、お前らの実力なら、な」
「はぁぁぁ……例のアレが、今回の件でより深くならなきゃ良いが…次に会う時にも、生きていろよ、オレオール」
ー現在
とまぁそんなわけで、任務を完了して数時間後の夜更け、俺は家を出て街の外に出ることにしたわけだ……とりあえず南の方に行くことにする……俺が16か17の時に聞いたんだけど、ギルマスは俺を街から遠い南の地で拾ったと言っていた……故郷のことはある一つ以外覚えてないけれど、たどり着いたら全部思い出せるのだろうか……
「……あ」
まとめて持ってきた荷物の端に、ロケットペンダントが目に入った、俺とメリナが結婚した日に作ったロケットペンダントだ、中には恥ずかしそうに赤面するウェディングドレスを着たメリナと、そんなメリナをお姫様抱っこしているタキシード姿の俺の写真が入っている、置いてきたと思っていたが、どうやら他の荷物に巻き込まれていたらしい
「……さようなら、メリナ」
俺は地面を小さく掘り、その中にそっとロケットペンダントを入れ、土をかけなおした、壊したりするのは、今の俺にはできなかったから……こんな未練タラタラで、なのにこんな選択しかできない俺のことを、神様は許してくれるだろうか
「……神様も、御伽話……か」
今日の昼にモナが言っていたことを思い出す、魔王はおろか精霊も神様だっていやしない、御伽話の中に出てくる神様は、御伽話だからこそ出てくるのだ、現実にいるはずがないのは、俺にもわかっていた
「別に、なんかの宗教に入ってるわけじゃないんだけど」
俺は普通に無所属だ、だから神様がどうとか言える立場じゃないけど、なんて思いながら、俺は眠りにつくのだった
ー
あぁ、聞こえる、聞き馴染みのない水音が、音の方を向くと……
『お母さんと妹から……!』
『お母さんと妹から離れろぉ!!!』
「っ!……」
そこで目が覚める、周りを見渡すと俺が張ったテントの中で、先ほどの景色はどこにもない
「はぁ…夢か…」
最近見なくなっていた、失われた俺に残った唯一の過去の記憶……それをまたこうして、生々しく思い出すことになるなんて……
「さっさと片付けてまた歩いてくか……」
思い出したくない記憶を掘り出してしまったことを忘れるように、寝袋をしまいテントをたたみ、それをカバンに入れてまた歩き出す、次の街は行ったことがある街だし、道だってわかる、あくびをしながらでもゆっくりと進んでいこう
ー
「……っと〜……」
「…………………………」
どうしよう、思ったよりも早く問題発生した、というのも、元いた街から次の街に向かう間の道から外れた背の高い草のところに倒れていた少年を見つけたのだ
「どうしたもんかなこれ…とりあえず助けておくに越したことはないか…」
年は十五、六程度だろうか?なんの装飾もない、変哲もない刀が彼のそばに落ちていたけれど、これは彼の持ち物……なのか?
「いよっと」
荷物を前に持ってきて、少年を背負い、彼のものであろう刀を手で持って歩く……この子軽いな…大丈夫か?これ…
ー
「……ん…ここは…」
「お、起きたか」
彼を運び始めて40分程度、水分補給のために休憩していたら少年が目覚めた
「……!あ、刀、刀!僕の刀は…!」
「あぁ、あんたの近くに落ちてたこれのことか?」
「あ、それ!それです!よかったぁ……ありがとうございます!」
刀を手渡してやると、彼は安心したようにその刀を抱きしめた、よっぽど大事なものらしい……というか、その刀の形、彼が触った瞬間に変わったような…
「それで、ここは……」
「あんた、この野原で気絶してたんだぞ?魔物に襲われたのか?」
「え?……えーっと…」
「……まさか思い出せないとか?」
「す、すみません…記憶喪失ではないみたいなんですけど、そこの部分だけどうもはっきりしなくて……」
「そうか…ここら辺は初めてか?」
「えぇ、どうやらそう見たいです、見たこともない景色で……もう何が何だか」
「なら、次の街まで案内してやるよ、こっからあと二十分くらい歩いた先だけど」
「に、20分……お、お願いします…」
「決まりだな、俺はオレオール・シュトラムル、お前は?」
「ぼ、僕は……」
その白い髪をした彼は、優しい笑顔を浮かべながら、こっちを見て
「ブレイブ、クレディス・ブレイブです、よろしくお願いします」
そう名前を告げるのだった
ーガナッシュside
「は?」
ギルドに着いて早々、俺はそんな声を漏らすことになった
「[報告・7年間このギルドに所属していたオレオール・シュトラムルが脱退した]……?」
ギルドの掲示板に貼られたそんな一枚の紙は、たった一言で表して良い衝撃じゃなかった
「いや待て待て待て待て!なんだって!?」
何度見てもその文章は変わらない、オレオールが脱退って、昨日までそんな素振りもなかったろ……!?
「おいおいおい、嘘だろ……」
あいつがこのギルドに入ってきた時のことはよく覚えている、この世の全てに怯えた目をしたやつだった、それがあそこまで成長したんだから大したもんだと思う……だけど、俺は昔のあいつの怯えた目を最近見た気がした、一体、どこで……
「……!」
それは、あいつがメリナちゃんを追ってギルドを飛び出した時だと気がつくのに、時間は掛からなかった
ー
グロリオサの花言葉[栄光][勇敢][燃える情熱]
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