第3話[結局元には戻れなかった]

メリーの浮気が発覚して数週間が経った、個人的にもいつも通りに振る舞ってるし、それに安心したのか、最初は辿々しかったメリーも前までの調子に戻ってきた


「弱点を狙って……はッ!」

「ナイスサポートっ!トドメ……だっ!」


「グォォォォォォォォォ……」


「っと、討伐完了!」

「これくらいなら手慣れたものね、さすがオレオ」

「メリーのサポートあってのことさ、いつも助かってるよ」



今日の任務は魔物の群れの討伐、群れと言っても小規模のもので、俺たちみたいな5年以上ギルドにいる人なら少人数でも殲滅できるくらいの規模だった


「さてとー、任務も終わったし、ちゃちゃっと報告して買い物行きましょ?確か食材がなくなりかけてたから」

「あぁ、確か…野菜は全般的になかった気がする」

「お肉だけは狩りでよく集まるんだけどね」


そんなことをぼやくメリー、メリーは相当の弓使いだし、山兎などの動物を狩るのが非常に上手い、昔はそんな得意分野もあってか薬草採取は全然しなかったけど、それに比べたら積極的になんでもするようになった……とはいえ狩りの方がやはり好きらしく、肉に関していえば在庫が底を尽きたことはない


「頻度下げろよな、このまま山の動物が全滅しようもんならどうしようもないぞ」

「ゔっ、き、気をつけます…」

「よろしい」


とは言え…人族に手を出す魔物、人を守るためとはいえ、俺たちが魔物の命を奪っているのは事実だ、それでいえば、俺は狩りを楽しんでいるメリーと同じような感覚なのかもしれない


「……」

「?オレオ?」


『相棒の望むようにするけども』


メリーは未だ、あの時の問いの答えを出さずにいる、確かにゆっくり決めろとは言ったけど、流石に数週間経つし、そろそろ答えを聞かせてほしいと思っている俺がいることは間違いない、それと同時に、こんなメリー頼りの自分に腹が立つ


「え、ちょっと、オレオール、大丈夫?」

(こんなことなら誤魔化さずに、もっと色々とメリーと話し合って行動に移しておくべきだった)


ゆっくりで良いだなんて言って情けない……こんなに心が弱い人間だったなんて…今更になって俺は自分自身が恥ずかしい


「オレオールってば!」

「!……か、カヌレ…」


そんなことを考えながら黙り込んでしまった俺を現実に引き戻したのは、同じチームのカヌレ・フォトン、主に短剣を使った接近戦を得意とする獣人族の18歳の少女で、彼女との付き合いは3年程度になる、周りを観察する能力に長けていて、誰もが気がつかないことに平然と気がついたりする、頼りになる後輩の1人だ


「どうしたの?妻のメリナの声も聞こえてないみたいだったけど」

「あー…」


どうしたもんかな、まさかメリナが浮気をしていました、なんて本人の前で言えるわけもないし


「ちょっと考え事しててさ、ほら、最近小規模とはいえ、魔物の群れが増えてきたろ?」

「これくらいなら戦力的に問題はないと思うけど……」


俺の問いかけにメリーが答えた、確かにそれはその通りだが、課題はそこじゃない


「俺が言いたいのは、これまでほとんど単体で存在していた魔物が、急に集団行動をし始めたのに違和感を感じるってことだよ」

「たまたまなんじゃなかしら?そういう時期もありそうなものだし」

「本当にそうなら良いんだが……もしかしたら、魔王が現れた…とか」


俺のぼそっとした呟きに2人が黙り込む、表情から読み取るに[何を言ってるんだこいつは]と言った感じだ


「あいや、あくまで可能性の話であってだな」

「はっはっはっ!!そりゃないっすよオレオール先輩!」

「!モナ」


そう言って笑いながらやってきたのはモナ・カフトロー、魔法による遠距離攻撃と支援に特化した20歳の青年、俺たちのチームの遠距離担当だ、普段は20とは思えないようなおちゃらけたように振る舞っているが、その実力は確かで、やる時はきっちりやる男だ


「魔王だなんてそんなの精霊とか神みたいに御伽話の中か神話の中だけっすよ、それも御伽話は子どもの頃に読み聞かせされるような」

「だ、だよなー」

「ほら2人とも、話すのも良いけど、素材回収手伝ってよね」

「そっざい、そっざい〜♪」


横に目をやると先ほどまで俺に謎な視線を送っていた2人が討伐した魔物の素材回収をしていた、いや、確かに魔王とか言ったけど、そこまで呆れることなくね……?



ワイワイガヤガヤ


ギルドにつくと、やはりというか、いつものように騒がしい声が聞こえてきた、7年前に比べるとだいぶ人も増えたなぁ


「で、カヌレはその素材売らないのか?」

「うん、これ使って色々と作ってみる!良いのができたらオレオールに一番に使ってもらうからね!」

「え、また俺か?別に構わないけど」

「おいおいカヌレー、先輩は妻帯者だぞー?」

「わかってるよ!ただオレオールの感覚は的確だからそれを当てにしようと思ってるだけ!」

「オレオが武器の調整家か何かだと思われている……」

「今更なところはあるけどな、それ…」


受付嬢に討伐確認用の素材を渡して、任務を完了させる、報酬のルピを貰い4人で分けることになっているので、そのまま4人で席に座る


「んーっと、素材を売った金額で12000ルピ、任務報酬40000ルピ、1人13000ルピだな」

「あー、えっと、私、もっと少なくても良いよ?私の分の素材売ってないわけだし」

「ん、そうか?なら……10000ルピの袋が1つと、14000ルピの袋が3つだな」


カヌレがそういうので、遠慮なく素材の金額分を抜く、他の人が言うならともかく、本人がそういうなら話は別だ


「まぁちょっとアレっすけどね〜」

「カヌレ、本当に良いの?」

「もちろんです!その分この素材で良い思いしてますから」

「……まぁ、カヌレがそういうなら…」


まぁ現実問題、そんなことしてらんないってことで


「それじゃあ今日のとこは解散だな、お疲れ様」


そのまま席を立って俺は歩いていく、それを見たメリーも2人に「また明日ね」と伝えてこちらへ歩いてくる


「ほんっと、そういうとこよね」

「なにが」

「なんにも?」


ーカヌレside


「それじゃあ私たちも解散しよっか」

「そうだな〜、特に群れ相手で疲れたし…」

「へぇ、疲れたんだ?」

「あ、今のなし」

「もう遅いでーす」

「くっそ……」

「あはは、それじゃあ私先に行くよ、えーっと軽い方が私だから……あれ?」

「?どした?」

「…どっちも同じ重さだ」

「……あー…」


ーオレオールside


「でも、本当に良かったのかしら?あなたのお小遣いが減っただけだけど」

「だってカヌレ、あの歳で一人暮らしだろ?わざわざ歳上の俺たちに気を使わせてちゃリーダーやってらんないって」


ちらっと、他の三つの袋に比べて軽い袋をメリーに見せる、彼女は小さくため息をついたが、それでも優しく笑顔を見せてくれた


「全く、相変わらずね」

「別に良いだろ?悪いことしてるわけじゃないんだから」

「まぁそうだけど」

「さ、買い物行こうぜ、食材が特に足りないし」

「ええ、行きましょうか」


俺たちは市場へ歩いていく、この街で生きていくために……というのは大袈裟すぎるけれど



そして、その日の夜


「それじゃあ、あとはよろしくお願いします、ギルマス」

「あぁ……その、なんだ、こんな形でお前を手放すことになるとは思わなかったが……行く当てはあるのか?」

「当てという当てはないですが、とりあえず南の方へ歩いて行こうかと」

「そうか……色々と悪かったな」

「い、いやいやいや、申し訳ないのは俺の方ですよ、こんな俺を拾ってくれて、感謝してます」

「ふっ……そうか」

「改めて、7年間お世話になりました」

「あぁ、あとは任せておけ」

「はい」


顔を上げて俺は歩き出す、ギルマスに伝えたように、南の方へと


「さてと、まず先にモナのとこに説明しにいくかな」


こうして俺は、オレオール・シュトラムルは、旅に出ることになった



マリーゴールドの花言葉[別れの悲しみ]

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