赤い靴を履いた女の子 6
ルナはモリヤを探していた。
湿っぽくカビ臭い、狭い裏路地を壁に沿って歩く。
残飯を漁るネズミやノラ犬、小さい空からそれを眺めるカラス……時には朦朧とした意識の人間もいる。
ドブのような異臭が常にする。
不快でもなければ、不安でもない。
慣れたものだった。
しかし……横目で見ていると、自身もそうした一員になりそうな気がしてくることには慣れないものだった。
不気味な魑魅魍魎の禍々しさには。
そのたび、彼女は気づいて自嘲する。
歩く人形などむしろ、よほど筆頭だからだった。
彼女の存在は、もちろん大通りを歩けば怪しまれてしまう。その点、裏通りならば薄暗いし、即座に建物の陰へと身を隠すことができるので、外出する場合はいつもそうしていた。
闇が深ければ深いほど、人形にとって危険は遠ざかり、もし見られたとしても、白昼夢か薬物中毒者の幻覚と片づけられるのだった。
……彼がどこにいるのか考えた。
黒眼鏡筋肉の店でアルコールに酔っているか、街なかを茫洋とさまよって煙草を呑んでるか。あるいはほとんどない可能性だが……呪いの仕事をしているか。
どのみち幽霊みたいな男なのだから、どこにいてもおかしくはないが……人間にとってはこの暑さだからまあ、室内にいるはず。
そうなると、酒場に向かうのが一番よさそうだ。
ということで、小さい歩幅でこんな場所を移動しているわけだが……。
「お人形さん?」
どこかから声がした。
その場で力尽きたように倒れる。
できる限り自然さを意識しながら。
女の声……いや、もっと幼い。
少女特有の舌足らずな感じ。
いやあり得ない。
こんな場所に少女がいるはずがなかった。
だからやっぱり朦朧とした女……にしても違う?
道理がわからず混乱する。
人形には血管も汗腺もない。
それでも血の気がひくし冷や汗が出る思いだった。
「お人形さん……動いてた?」
ルナは自らの行いを後悔した。
すぐに逃げればよかったのに……遅かった。
コツコツとした足音は止まって、代わりに伸びた影が覆い被さっていた。逆光になっている。
「かわいい服。また動かないかな」
両手で拾い上げられ、対面した。
予想はしていたが……ひどく驚いた。
やはり女の子だったのだ。
だからといって安心もしない。
反対に増殖する疑念、疑念、疑念。
上下に振られたり、胸元に抱えられたり……首がもげそうになりながらも、なんとか全貌を確認した。
その少女は──。
優しく笑って。
「一緒に遊んでくれる?」
腰まである白く長い髪。
赤い虹彩。赤いワンピース。
血を感じさせない白い肌をして。
血のように赤い靴を履いていた。
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