第95話 サメ術師は奥の手を使う

 俺は意気込みながらアティシアを攻防を繰り広げる。

 距離を取りながら回避と防御を徹底した。

 時折、反撃を混ぜることでこちらの企みを悟られないようにする。

 アティシアには、俺を追い詰めているのだと思ってもらわなくては。


(策は整ってきた。あとはタイミングだ)


 俺は懸命に頭を働かせながら、チェーンソー・シャークを飛ばす。

 魔力の残量が怪しいので、付与するのは最低限の属性のみだ。

 額から回転刃を突き出したサメがアティシアに突進するも、難なく短剣で弾かれて、追撃で腹を割られてしまった。


「舐めているのですか? もっと真剣に足掻いてください」


 アティシアは冷淡に言うと、低い姿勢から飛び蹴りを放ってきた。

 身体強化の魔術を使ったのか、凄まじいスピードだ。

 認識するのがギリギリだった。


 俺は片腕でガードする。

 骨が軋み、そのまま吹っ飛ばされた。

 樹木に衝突する前にサメに受け止めてもらう。


「休んでいる暇はないですよ」


 アティシアが尚も仕掛けてきた。

 その姿を見て、俺は決心する。


(ここで使うしかないな)


 切り札のうちの一つは、少し前に仕掛けたものだ。

 以前、アティシアにはボム・シャークを飲ませていた。

 万が一の保険であり、本人も了承の上だった。


 きっと今も体内に潜伏している。

 それをここで使用することにしたのだった。


「食らいやがれ」


 俺の言葉と同時に、超小型のボム・シャークが作動する。

 アティシアの腹が僅かに膨らみ、口から黒煙は噴き上がった。


 数秒後、彼女は冷めた顔で咳き込むと、億劫そうに腹を撫でる。


「これだけですか」


「チッ……」


 俺は顔を歪めて舌打ちする。


 超小型とは言え、俺の能力で生み出したサメだ。

 人体を吹き飛ばす程度のパワーを秘めているはずであった。


 しかし、実際はこれだけだ。

 アティシアはほとんど無傷で、本来の威力とは程遠いだった。

 間違いなく【運命誘導】の仕業だろう。

 体内での爆発ですら無効化してみせたのである。


 アティシアは短剣を片手に周りを見やる。

 あちこちにサメが散乱していた。

 どいつも解体されるか、魔術を受けて死んでいる。

 すべてアティシアが始末したのだ。


「ついに策が尽きたようですね。これで終わりです」


 アティシアが大股で歩み寄ってくる。

 勝利を確信したのだ。

 俺の魔力が底を尽きようとしているのを察している。


「クソが!」


 やけくそになってサメを連続召喚するも、アティシアは難なく破壊する。

 やがて彼女が目の前に到着した。


「往生際が悪いですよ。早く死んでください」


 アティシアが短剣を掲げる。

 それを見た俺は、中指を立てて応じた。


「――お前が死ねよ、クソッタレ」


 背中に隠していた手を開く。

 そこにあったのは、姫の眼球――すなわち勇者召喚のバックアップだった。

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