第93話 サメ術師は決裂する

 俺は鮫銃を乱射した。

 対するアティシアは棒立ちで、短剣を回しながらこちらを観察する。

 バレット・ボム・シャークはどれだけ狙っても当たらず、不自然な軌道を描いてあちこちに炸裂した。

 破片が飛び散るも、それすらもアティシアを傷付けることはなかった。


 俺は後退しながら連射し続ける。


「どうしました? 魔力が尽きて節約していますか。もっと大技を使えばいいのに」


 アティシアはゆっくりと歩いてくる。

 その間の射撃は一発も命中しない。


(それでいい)


 当てるつもりはない。

 ただの牽制で、視界を遮って行動を遅めるのが目的だった。

 真っ向からの攻撃が通用しないのは知っている。


(とにかく距離だ。これは近すぎる)


 俺は間合いの確保を優先していた。

 もっと離れないと満足に戦うことができない。


 それを察したアティシアは、射撃の中を突進してくる。


「あなたの戦法、分かってますよ」


 短剣の突きが迫る。

 俺はガーディアン・シャークを発動させた。

 斬撃はサメの頭部を真っ二つにして、俺の右前腕を切り裂いていく。


「ぐっ」


 痛みを堪えながら転がり、至近距離から射撃を叩き込んだ。

 しかし、アティシアは魔術で防御してみせる。


 そこから短剣を投擲してきたので、俺は鮫銃を盾にした。

 銃身に刃が刺さったので投げ捨てる。


(こいつ、厄介だ……)


 アティシアは万能型であった。

 固有スキルによる戦法の偏りが一切ない。

 短剣と魔術を用いたスタイルらしいが、決め付けるのも早いだろう。

 まだ彼女の能力を把握し切れていないのだから。


 アティシアはかなり柔軟に戦える勇者だった。

 意図的に実力を隠してきたのだろう。

 悪く言えば器用貧乏だが、その水準が高いので厄介すぎる。

 特に【運命誘導】による回避性能が反則的だった。


 こいつは勇者として認められたのだ。

 計算高い姫と裏で手を結ぶほどなので、弱いはずがない。


「逃がしませんよ」


 アティシアが地面に手をつけて魔術を使う。

 すると木の根が飛び出して襲いかかってきた。


 俺は足元にサメを召喚すると、そいつを足場に跳ぶ。

 数瞬後、木の根がサメに絡み付いて潰した。

 後方に着地した俺は、ショットガンタイプの鮫銃を召喚して三連射を繰り出す。


「無駄ですね」


 アティシアが氷の球体を放ち、銃撃をまとめて弾き飛ばした。

 後方で爆発が連鎖するも、彼女は傷一つ負うことがない。


「だいぶ息が切れていますね。運動不足じゃないですか?」


 アティシアが鮫銃を踏み付けて、短剣を引き抜く。

 刹那、軽いステップから斬り付けてきた。

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