第92話 サメ術師は同行者の本質を知る

 アティシアは無表情だった。

 いつものふざけた雰囲気は感じられない。


 彼女は本気なのだ。

 冷酷な本性を以て、その発言を実現しようとしている。


「さっきの戦いで、私を殺すつもりでしたよね」


「ああ。あそこで始末すべきだと思った」


「誤魔化すつもりはないのですか」


「無駄な言い訳だろう」


 姫と戦っていた途中、俺は無防備だったアティシアにサメを仕向けた。

 結果的に殺害は失敗したが、操られていた演技なのだとすれば、俺が何をするつもりだったのか丸分かりだったろう。


「本当はお姫様を殺したサメ男さんと旅を続けて、その中で帰還魔術を完成させたかったのですよ。ですが、さすがにもう潮時かと思いまして」


「そうだな。俺はお前を殺す気でいる」


「理由を訊いても?」


 アティシアは短剣を下ろさずに問いかけてくる。

 油断のない構えだ。

 逆に俺が気を抜けば、一瞬で仕掛けてくるに違いない。


 俺は鮫銃の引き金に指をかけながら答える。


「アティシア。お前は危険すぎる。俺だって元の世界に帰りたいが、お前と一緒は嫌だ。どうせ碌なことにならない」


「言ってくれますねー。私ほど平和主義な美少女は珍しいでしょうに」


「冗談も大概にしておけよ」


 前置きなく鮫銃を連射するも、弾丸はアティシアのそばを通過した。

 追尾機能で翻って襲いかかるが、やはり彼女に命中することはなかった。

 俺達に害の及ばない距離で爆発する。


「だから当たりませんって。私の能力はチートなんですから」


「知っている。どうせ、姫との戦いにも干渉していたんだろう? お前の【運命誘導】なら何かできたはずだ」


「よく気付きましたね。さすがはサメ男さんです」


 アティシアは少しも嬉しそうにせずに言う。

 彼女は右回りに歩き始めた。

 木々の合間を縫うように進みながら語る。


「実を言いますと、私もあなたを危険視しているのですよ」


「どういうことだ」


「私はお姫様の勝利を願いましたが、実際はサメ男さんが勝ちました。この意味が分かりますか?」


「…………」


 俺は答えない。

 アティシアは仕方ないといった風に話を続けた。


「あなたの能力が【運命誘導】を超えつつあるのですよ。だから私の望む展開にならなかった。レベル差とかレジスト・シャークの効果でしょうが、まったく厄介すぎます」


「能力でコントロールできないから始末するということだな」


「はい。ご理解いただけましたかね」


 アティシアが抉り出した姫の眼球をつまむと、それをポケットに入れた。


「バックアップも手に入りました。死体が残るように望んだのですが、ちゃんと機能してよかったです」


 足を止めたアティシアは、狂気に彩られた双眸で俺に告げる。


「さあ、殺し合いましょう。これがラストバトルです」

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