第91話 サメ術師は真実を知る

 アティシアの告白を聞いて、俺は怪訝な顔になった。


(こいつは何を言っているんだ?)


 まったく理解できない。

 ただ嫌な予感はひしひしとしていた。

 こちらの心境を気にせずアティシアは話を続ける。


「サメ男さんとお姫様は、戦力的に拮抗してたじゃないですか。だから片方を裏切るってパターンに踏み切れなかったのですよ。読みが外れたら不味いですし。個人的にはお姫様が勝つパターンかと思いましたが、さすがサメ男さんですねー。しっかり予想を超えてくれました」


 アティシアは形ばかりの拍手を俺に送る。

 神経を逆撫でするような行動だが、それに苛立っている暇はない。


 俺は鮫銃を構えながら尋ねる。


「お前は、まさか……姫とも繋がっていたのか?」


「はい。そうですよ。こっそり連絡を取り合ってました。利害が一致していたものですから」


「いつからだ」


「何年も前からですよ。あなたが召喚される前の時期からです」


 アティシアは悪びれもせずに答えると、おもむろに姫の死体に触れた。

 片手の指で姫の右目を抉り取り、服の裾で眼球を拭い始める。


「お姫様は勇者召喚による世界征服が目的で、私は勇者の能力を持ったまま元の世界に帰ることでした。彼女の仲間として研究開発を支えるのが一番の近道だったんですよね」


「俺を監視していたのか」


「それもありますが、サメ男さんの能力に可能性を見い出したのですよ」


 アティシアは姫の眼球を弄びながら笑う。


「王都がサメに食べられた時、私は確信しました。このスキルを持つ勇者を味方にすべきだ、と。直感は見事に当たっていましたね。あなたの能力は元の世界への帰還にも使えますから」


 彼女の指摘は間違っていない。


 俺のサメは捕食した道具や人間の特性をコピーする。

 帰還用の魔術が開発されれば、それを喰らうことで使えるようになるだろう。


「あなたの能力を知った時、私はお姫様を裏切ることを候補に入れました。あなた達の一方は必ず死ぬと考えたからです。絶対に和解できないと思いましたね。まあ、お姫様にはスパイとして行動していると伝えてましたが」


「どちらが死んでも味方を続けられるように仕組んでいたのか」


「そういうことですね。何事も保険が大事ですよ、ええ」


 アティシアは薄笑いを湛えて何度も頷く。

 気味の悪さを覚えながらも、俺はさらに疑問を投げた。


「では、なぜこの段階で俺にすべてを打ち明けたんだ」


「そんなの決まってるじゃないですか……」


 刹那、アティシアの顔から作り笑いが消えた。

 手持ちの短剣を引き抜き、その切っ先を俺に向ける。


「あなたを殺すためですよ。さすがに限界みたいなので」

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