第88話 サメ術師は切り札を使う

 必殺の刃が降ってくる。

 すぐさまガーディアン・シャークが障壁を展開して、俺の顔面を叩き割るのを阻止した。


「小癪ですね」


 姫は不機嫌そうに追撃を叩き込んでくる。

 目にも留まらぬ速さで連続攻撃だ。

 多重のスキルで強化されており、斬撃は次々とガーディアン・シャークを粉砕する。


 間に別のサメを割り込ませて反撃や防御を試みるも、一瞬で殺害された。

 あまりの猛攻にまったく意味がないのだ。

 能力値の格差が大きすぎる。

 たったの一撃だが、ガーディアン・シャークだけが姫の攻撃を防げるようだった。


(このままだと負ける)


 ガーディアン・シャークは消費魔力が多い。

 効果の強さを考えれば当然だが、厳しい状況と言えよう。

 このまま防御し続けるのは困難であった。


(どうする? 早く手を打たなければ)


 俺は反撃のための作戦を考える。

 真っ先に思い付いたのは、サメの猛攻撃で姫の再生能力を使い切らせる戦法だ。

 しかし、もう間に合わない。

 その前に俺の魔力が尽きて殺される。


 他にいくつか策を閃くも、正攻法では敵わないだろう。

 試しているだけの猶予も残されていない。


(もう、あれしかないか)


 俺は目の前で剣を振るう姫を睨む。


 彼女に躊躇いはない。

 何の慈悲もなく俺を斬り殺すだろう。

 そして新たな勇者召喚を繰り返し、この世界の支配者を目指すのだ。


「クソッタレが。絶対に止めてやる」


 俺は悪態を吐いて覚悟を決める。

 そして、奥の手の一つを発動した。


 なけなしの魔力を消費する。

 魔法陣から姿を現したのは、王冠を被るサメだった。

 高貴な雰囲気だが、姫は剣を動かしながら嘲笑する。


「今更、何をするつもりですか。無駄な抵抗はおやめください」


「無駄じゃねぇよ。すぐに見せてやる」


 俺は王冠を被るサメを抱えて、姫を指差す。

 一呼吸を置いて、彼女に向かって告げた。


「――動くな」


 その言葉が放たれた瞬間、姫が硬直した。

 剣を掲げた姿勢で静止している。


 彼女は驚いた様子で攻撃を仕掛けてこようとする。

 ところが、腕は震えて軋むばかりで言うことを聞かない。


「な、何を……ッ!?」


 姫は辛うじて声を発した。

 俺は土を払いながら立ち上がると、王冠のサメを撫でながら言う。


「キング・シャーク。お前の親父から奪った能力だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る