第87話 サメ術師は姫と戦いを繰り広げる

 姫が手刀を繰り出してくる。

 細身の体躯から放たれたとは思えない速度と力強さだった。


 俺は後ろへ飛び退く。

 手の届かない位置だが、嫌な予感を覚える。

 次の瞬間、肩に不可視の力がかかった。

 そのまま肉体を引き裂こうとめり込んでくる。


「ぐっ」


 瞬時にガーディアン・シャークが発動し、強靭な結界を割り込ませてガードした。

 もう少しで胴体を切断されていた。

 他のサメでは防げないパワーだったろう。


「畜生が……ッ」


 俺は胸ポケットに入れていたウォーター・シャークに命令し、圧縮された高圧水流のカッターを発射した。

 前方を扇状に薙ぎ払うように放たれたそれは、木々を真っ二つにしながら姫に迫る。


 姫は軽く跳躍し、水流カッターを回避しようとする。

 右脚が半ばほどで切り落とされるも、断面から肉が盛り上がって再生した。

 両脚で着地した姫は微笑すると、生成した魔力の剣で斬りかかってくる。


(再生能力まで持っているのか!)


 俺はシールド・シャークで防御しながら後退した。

 さらに四方八方にサメを召喚する。

 カタナ・シャークにファイアー・シャーク、アサシン・シャーク、エレキ・シャーク等、多種多様なラインナップだ。

 それらが一斉に姫へと襲いかかる。


「甘いですよ」


 姫は全身を食い千切られながらも、凄まじい再生能力で復活した。

 傷付くそばから回復して、損傷した身を捨てて疾走する。

 そこから強引に間合いを詰めて攻め立てきた。


 無数のサメは、彼女の魔術や固有スキルで始末される。

 どれだけ召喚しても、的確に処理されていた。

 この姫は、勇者の能力を自在に使いこなしている。

 本人達よりも上手く応用しているのだ。


(厄介すぎる……っ)


 浅い軌道の蹴りが俺の足下を払おうとするが、ガーディアン・シャークが妨げる。

 無防備に受けていたら、両脚が千切れ飛ぶような威力だった。


 俺は至近距離から鮫銃を連射する。

 姫は構えた剣で残らず切断し、回転しながら追撃を放ってきた。

 またもやガーディアン・シャークが削られる。


(こうなったら再生能力の限界まで攻撃しまくるしかない)


 地面から飛び出したチェーンソー・シャークが姫の脇腹を抉った。

 刃が内臓まで切り刻むも、次の瞬間にはサメの頭部が爆散する。


 遠距離に潜むガン・シャークが姫の頭部を狙って射撃した。

 姫は紙一重で察知して、近くのサメを掴み上げて盾にする。

 狙撃を凌いだ彼女は、被弾したサメの死骸を俺に叩き付けてきた。


 これもガーディアン・シャークが封じる。

 しかし、俺は衝撃で飛ばされて尻餅をついてしまった。


「終わりですね」


 瞬時に接近した姫が、剣を掲げていた。

 それを逆手に持ち直すと、交差するように振り下ろしてくる。

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