第85話 サメ術師は反撃を封じる

 暗殺系の勇者が接近してくる。

 左右から二人ずつだ。

 おそらくは姫は指示を受けたのだろう。


(姫もこのままでは不味いと判断したらしいな)


 だから本体である俺を狙いに来た。

 妥当な考えである。

 様々な強化を施しているが、俺の苦手な間合いは変わらない。

 何の防御策もない場合、勇者ですらない人間にすら敵わないのだ。

 暗殺系の勇者で一気に仕掛けるのは正攻法と言えよう。


(まあ、今は大丈夫だけどな)


 幸いにもこの展開には慣れていた。

 気配は感じられないし、足音も聞こえないが、スコープ・シャークのおかげで勇者達の姿は見える。

 俺の五感だけでは間違いなく発見できず、いきなり殺される羽目になっていたろう。


 やはりサメの能力は偉大だった。

 事前に接近方向が分かっていれば、いくらでも対処することが可能である。


 俺は数匹のウォーター・トラップ・シャークを召喚する。

 罠としての機能に特化したサメだ。

 今回は水を操る能力も付与してある。


 そんなサメ達を地面や木々に設置した。

 さらに迫る勇者達の存在には気付いていないような態度を取っておく。


 サーチ・シャークのレーダーに映る光点が一気に接近してくる。

 同時攻撃だ。

 近接戦闘が苦手な俺を確実に始末するつもりなのだろう。


 四人の勇者が間合いに入った瞬間、ウォーター・トラップ・シャークが起動した。

 高圧水流による不意打ちが、彼らを四肢や胴体を切断する。

 即死したのは一人だけだったものの、残る三人も無傷ではない。

 それぞれが手足を欠損して、機動力を大幅に削がれていた。


「残らず噛み砕け」


 俺が命令すると、ウォーター・トラップ・シャークが容赦なく追撃を行う。

 躱そうとする勇者達を一瞬でブロック肉に変えると、地面に落ちたところを貪って平らげていった。

 ここから復活することはないだろう。

 新たに増えた属性を確認して、俺は静かに微笑む。


(向こうも優勢だな)


 俺は城の前に注目する。


 姫の率いる勇者集団は壊滅寸前だった。

 様々な能力を持つサメを前に圧倒されている。

 だんだんと数が減っているのは、防御担当の勇者が死んだことで、陣形が崩れ始めた証拠だろう。

 ゾンビになった勇者も彷徨っている始末だ。


 巨大ザメを倒されて少し焦ったが、姫は俺の能力を見誤っていたのだった。

 召喚魔術による力押しだけが取り柄と思われていたに違いない。

 実際はもっと厄介な性質だ。

 状況次第では、このように一方的な展開に持ち込める。


(ただ、油断は禁物だな。まだ姫は死んでいない)


 俺は煙幕の中を注視する。


 姫の位置は正確には分からない。

 ただ、あの中で生きているのは確実だった。

 他の勇者を犠牲になんとか凌いでいるようだ。


 このまま始末できるのなら上々だが、向こうだって馬鹿ではない。

 何らかの切り札があったとしても不思議ではなかった。

 アティシアだってまだ残っている。

 迂闊な行動をせず、ここから勇者が全滅するのを待つべきだろう。

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