第83話 サメ術師は布陣を敷く

 放たれたのはバレット・ボム・シャークだ。

 追尾式の爆発弾で、ほとんど一撃必殺に近い火力を持つ。


(まずは操られた勇者達を潰す。姫は後回しだ)


 真っ先に姫を殺せるのなら楽だが、守りは厳であった。

 焦らず着実に戦力を削るべきだろう。


 俺の放ったサメの弾は、しかし勇者達に命中する前に切断された。

 到達することなく爆発して消える。

 巨大ザメを解体したのとを同じ技だった。

 不可視の斬撃を打ち込める勇者が紛れているようだ。


 その間に矢が飛来してきた。

 俺は反射的に横へ躱すも、矢は不自然なカーブを描いて追ってくる。


「くっ」


 命中する直前、ガーディアン・シャークが防御してくれた。

 銀色の体躯が弾けて消滅したが、俺自身に怪我はない。

 命を代償としたその能力は上々であった。

 勇者達の攻撃にも十分に対処できるようだ。


 俺は追加のガーディアン・シャークを召喚しつつ、再び鮫銃を連射する。

 しかし、今回も切断されて銃撃は失敗した。


(姫は何人かの勇者に徹底防御を命じている。まずはそこを崩さなくては)


 俺は冷静に観察する。

 極度の怒りと恨みに駆られているが、思考は明瞭だった。

 不利な状況でも落ち着いている。


 何らかのスキルやステータスの恩恵ではない。

 幾度もの戦いを経て、精神的に強くなったのだろう。


(即死コンボはいくつも考えてある)


 勇者達は虚ろだ。

 操られているのは確定している。

 判断力の鈍さが欠点だろう。


 たぶん姫に命令されれば、捨て身で行動するに違いない。

 その代わり、個々の動きは正常時な時より劣化していた。

 姫が従順な駒を求めた結果だろう。

 鈍さは許容しているのだと思う。


(指示が追いつかない状況を作る。つまり乱戦だ)


 俺は散開させていたサメの一匹――アンデッド・アシッド・シャークを動かす。

 腐敗したサメのゾンビが勇者達のそばから顔を出した。

 すぐさま解体されるも、体内から腐液と強酸がぶちまけられる。

 さらにそれも結界でガードされたが、表面からじわじわと溶かしている。


「いいぞ。その調子だ」


 他のアンデッド・アシッド・シャークにも突撃させながら、俺は鮫銃を撃ち続ける。

 誰も接近してこないように牽制しなければいけない。

 相手は指示待ち人間の勇者だ。

 サメのフォローがあれば楽勝だろう。


 彼らに強酸を見舞いながら、俺はスモーク・シャークに命令を送る。

 数匹のサメから大量の煙幕が噴き出て、周囲一帯に充満していく。

 ものの十秒ほどで視覚が完全に奪われた。


(この状況なら向こうの命令は遅れるはずだ。姫も迂闊な攻撃は仕掛けられない)


 俺は特殊な機能を追加したスコープ・シャークを装着する。

 この個体は、魔力や赤外線といった複数の要素から物体を解析できる。

 煙幕の中でも辺りを見通せる仕様であった。

 これで煙幕によるデメリットは向こう側だけのものとなる。


 さらに俺は、アンデッド・アサシン・カタナ・シャークを勇者達に向けて解き放った。

 隠密能力を持ち、刀の歯は防御力無視する上、傷付くほどに性能がアップがするサメだ。

 おまけにそう簡単に死なず、噛み付かれればゾンビになってしまう。

 もはや操られていたとしても関係ないだろう。


「ここからずっと俺のターンだ」


 俺は鮫銃を握りながら布告する。

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