第82話 サメ術師は対峙する
悩む俺をよそに、アティシアが目を輝かせて勇者達を指差した。
「どうします? 数の暴力で押し切ってみますか」
「却下だ。経験値にされる」
「じゃあ降参しますか」
「黙ってろ」
アティシアの冗談を一蹴する。
その一方で、俺の思考は様々な作戦を立てては否定し続けていた。
(見え透いた攻撃は対処される。ならば、騙し討ちしかない)
これ以上の失敗は許されない。
サメが殺されると、勇者達の経験値になるからだ。
レベルアップされるとますます不利になる。
俺は様々な属性のサメを使いこなすことで高い汎用性を獲得しているが、向こうも大勢の勇者を揃えることで同じ強みを持っていた。
すなわち明確に有利な点は皆無なのだ。
強いて言うならレベル差くらいではないか。
ただ、俺の場合はSAMEの能力値に特化しすぎている。
ステータス的な優位性は考えるべきではないだろう。
勇者達には正面突破が通用しない。
なんとかして隙を突かなければ。
そうして睨み合うこと暫し。
微動だにしなかった勇者達がいきなり左右に分かれた。
さらに、彼らの間から姫が進み出でてくる。
彼女は涼しい顔で挨拶をした。
「ごきげんよう、アティシア様――そして、魔物使いの勇者様」
「悠長な態度だな」
「お怒りなのも仕方がありません。ですが、これには事情があるのです」
「何だ。言ってみろよ」
俺は作戦を考えながら問う。
たぶん向こうも同じことを考えているが、互いに出方を窺うための時間稼ぎをしている状態だった。
本当に圧倒的な戦力差があるのなら、この時点で姫が仕掛けてくるはずだ。
操っている勇者達を突撃させればいい。
それをしないのは、やはりこちらを警戒しているからだろう。
一網打尽にされる可能性を捨て切れないでいる。
姫は悲しげな顔を作って語る。
「私の父――国王は私欲に駆られた侵略を行おうとしていました。だから私が国の主導を代行しなければならないのです」
「支離滅裂だ。勇者を奴隷にする理由がないだろう」
「理由ならありますよ。支配は大切です。不測の事態を減らせますから。執政において、問題とは未然に防ぐものです」
冷静に語る姫だが、気が付くと目が不気味な光を明滅させていた。
さらに体内に仕込んだレジスト・シャークが振動する。
こいつは状態異常を防いでくれるサメだ。
つまり、俺は姫に何かされたらしい。
おそらくは操る能力をかけられそうになったのである。
我に返った俺は舌打ちして姫に告げる。
「無駄だ。俺には効かない」
「精神干渉の対策までしていましたか。便利な能力ですね」
姫は少し残念そうに言う。
まったく悪びれておらず、むしろ開き直っているようだった。
俺は姫に鮫銃を向ける。
「互いの事情なんて知る必要もないだろう。自分の目的のために相手を殺す。それで十分じゃないか」
「こちらとしては平和的な解決を望んでいるのですが」
「冗談も大概にしろよ」
「平和的に解決したいのは本心です。どうか、怒りを抑えてください」
姫は態度を変えずに言うと、両手を広げて提案した。
「我々と同盟を結びましょう。きっとあなたの力になれます。望みも叶えましょう。元の世界へ帰還するための術も開発中です。ご希望なら好みの女性を――」
「ふざけるなよ、外道が。これ以上の御託は聞きたくない。まとめて喰い殺してやる」
俺は遮るように宣言する。
そして、鮫銃を乱射するのだった。
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