第81話 サメ術師は対策される

 俺は憑依勇者のそばにホーリー・シャークを寄せて、何度か光を当てさせた。

 勇者は少しも反応しない。

 どうやら息をしていないようだった。

 能力の反動で死んでしまったらしい。


 とりあえずホーリー・シャークに死体を喰わせておく。

 これで新たな属性を取得できるはずだ。

 きっと損にはならない。


 一連の戦いを見ていたアティシアは軽いノリで称賛する。


「さすがサメ男さんですねー。瞬殺じゃないですか」


「たまたま能力的に相性が良かっただけだ」


 相手の火力はかなり危険だった。

 攻防が長引けば俺が不利になっていただろう。

 一発でも食らえば致命傷だった。

 防御手段は用意しているものの、あの爆発を前にどれだけ通用するか不明である。


 アティシアは死体が食い千切られる様を眺める。

 かなりグロテスクな光景だが、彼女は表情を崩すことはない。


「あの憑依ちゃんは使い捨てみたいですね。爆破は仲間を巻き添えにする恐れがありますし、ダメ元で突撃させたんでしょう」


「つくづく最低だな」


「そりゃ腹黒お姫様の作戦ですからねー」


 アティシアと話していると、城からたくさんの人間が出てきた。

 ほとんどが勇者だろう。

 王都で遭遇し、倒すことなく別れた勇者達も見える。


 ただ、気になるのが彼らの目だ。

 明らかに虚ろで、意識が無いようにも感じられる。

 そんな顔で城から現れた彼らは、城の前で整列して止まった。


(操られているのか?)


 異様な光景から俺は推測する。

 まるで催眠術でもかけられているかのような姿だ。


 アティシアも顎を撫でつつ考察する。


「籠城戦は諦めたようです。射程の関係で不利だと考えたんですかね。もしくはお城を壊されたくない理由でもあるのでしょうか」


「さあな。とにかく叩き潰すぞ」


 向こうが無防備に出てきたのだ。

 ここで先制攻撃を打たない手はない。


 俺は上空に巨大ザメを再度召喚すると、勇者達を捕食させようとする。

 しかし、その果てしない巨躯が真っ二つになった。

 さらに分割されて細切れとなり、端から一気に炎上して消し炭と化する。


 アティシアは思わずといった調子で拍手をした。


「わお、やりますねー。完全に対策されちゃってますよ」


「面倒だな……」


「たぶんいくつかの討伐手段を確立してますね。だからこそ堂々と現れたのでしょう」


 俺もアティシアと同意見だ。

 焦って仕掛けたが、対策があって当然だろう。

 あの中の誰かが協力して巨大ザメを殺したに違いない。

 たぶん姫のスキルで固有スキルをパワーアップさせているのだろう。

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