第80話 サメ術師は過去を払拭する
(一体、何が起きた?)
俺は険しい顔で、血みどろの城を見る。
巨大ザメが殺された上に突如として消えた。
何らかの能力が使われたのは言うまでもない。
(あの爆破には見覚えがあった)
巨大ザメの腹を破裂させた一撃だ。
記憶を遡るまでもなく、すぐに思い至る。
王都壊滅時、真っ先に抵抗してきた勇者がいた。
近衛騎士隊長レイラックだ。
奴は固有スキル【爆破魔術】の使い手で、ボム・シャークの能力元であった。
巨大ザメを殺すほどの火力など他の勇者には放てない。
それが可能なのはレイラックの能力だけだ。
さらに巨大ザメが消失したのも理由がつく。
レイラックは【亜空間収納】を所持していた。
それによって爆殺した死体を片付けたのだろう。
本来なら押し潰されていた城を救ったのだ。
(だが、レイラックはもう死んでいる)
王都壊滅時、奴はサメに喰い殺された。
だからここで現れるのはありえない。
同じことを考えていたのか、アティシアが冷静に意見を述べる。
「死者の能力を使える勇者がいるみたいですね。死体を操るタイプのネクロマンサーとは少し違うみたいですが」
「資料で見たな。死んだ仲間を憑依させる奴だ」
レイラックの爆破を再現できるのは、その憑依持ちのみだ。
その時、血みどろの城から門を開けて人影が現れた。
ふらつきながら前進してくるのは小柄な少女だ。
満身創痍だが、その目は並々ならぬ執念を燃やしている。
俺を見た途端、さらに顕著になった。
両手を持ち上げてこちらにかざすと、その流れに従うようにして地面が爆発する。
爆発は俺達に迫るようにして連鎖してきた。
(あいつが憑依勇者か)
サメに乗った俺は高速旋回し、ライフル型の鮫銃を連射する。
憑依勇者は爆破でガードした。
さらに目や鼻から血を流しながら反撃を放ってくる。
(能力の負担が大きすぎるせいで、肉体が傷付いているようだ)
俺は憑依勇者を見て考察する。
もはやあの場から動けないはずだ。
爆破による遠距離攻撃を連発してくるのが何よりの証拠だ。
憑依能力を用いると、本来なら使えないスキルを行使できる。
それに伴って身体能力も上がる。
ただし、憑依させる仲間とのレベル差が大きいほど負荷が高まると資料には記載されていた。
もしかすると、姫のスキルで強化させて、無理やり憑依させている状態かもしれない。
あれだけ強力なパワーなのだから、反動も相当だろう。
爆破を躱しながら俺は鮫銃を撃つ。
一進一退の攻防が続く。
サメに乗るアティシアが、土煙を払いながら並走してきた。
「まったく、危ないですねー。サメ男さん、やっちゃってくださいよ」
「分かっている」
俺は密かに動かしていたサメの能力を発動する。
憑依勇者のそばまで近付いた純白のサメ――ホーリー・シャークが飛び出して、全身から神々しい光を発した。
死者を浄化する光を浴びた勇者は、悲鳴を上げて崩れ落ちる。
そのまま血反吐を噴き出して動かなくなった。
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