第79話 サメ術師は押し通す

 その時、城の上部が発光して雷撃が迸った。

 凄まじい勢いで、目が焼けそうな光量だった。

 俺は思わず下を向く。


 雷撃が止んだところで顔を上げる。

 巨大ザメの表面が焼け焦げて、あちこちから鮮血を噴いていた。


 両目は消失している。

 雷撃が弾けたのだろうか。

 どろどろと血の涙を流している。


 ただ、巨大ザメはまだ死んでいない。

 かなりの重傷だが、城を噛み壊そうとしていた。


 その光景に俺は驚嘆する。


「あのサイズにダメージを与えるなんて、一体どんなスキルだ?」


「勇者の雷魔術でしょうが、たぶんお姫様のサポートが入ってますねー。あの人、勇者を強化するスキルを持ってますし」


「それは本当か?」


 アティシアは頷いてみせる。


「ええ、本人は秘匿している能力ですけどね。何年か前に独自ルートで知りました。強化倍率が折り紙付きで、特に重複付与がかなりチートです。お姫様は消耗もなしに永続的に使用できるのも強みですね」


「反則すぎるだろう……」


「代償として、強化された勇者の寿命が縮まりますよ。まあ、お姫様はそのことを伏せているんでしょうが」


「最低だな」


 姫の悪辣さには反吐が出る。

 そして、重要な情報を隠していたアティシアにも。

 抗議したところで意味が無いからここは黙る。


 こちらの心境も知らずに、アティシアは城の方面を指差した。


「愛しのサメが倒されちゃいますよ。どうするんですか」


「ここで半端に止めても意味がない。やり切ってやるさ」


「強気ですねー」


「ビビっても仕方ないだろう」


 巨大ザメはカタナ・シャークの特性を持っている。

 傷付くほどパワーアップするのだ。

 だから重傷は悪い状態ではない。


 間もなく巨大ザメが口を完全に閉じ切った。

 城の上部を咀嚼し始める。

 ゴリゴリと硬い音が反響していた。


 その間にも何度か雷撃が放たれるが、巨大ザメは行動を止めない。

 ズタボロになりながらも、さらに城を喰らおうとしていた。


 魔法陣から胴体がせり出して、鼻先が地面に接する。

 今度は土台まで丸呑みするつもりらしい。

 そのまま口を閉ざそうとしていた。


(あれならいける……ッ!)


 刹那、重低音のくぐもった爆発が轟く。

 巨大ザメの腹が破裂して、辺り一面に臓腑がぶちまけられた。

 そして、死体が忽然と消失する。

 残されたのは、上半分が無くなった血みどろの城だけだった。

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