第78話 サメ術師は先手を打つ

「ああ、王都を丸呑みしたアレですか。ヤバい迫力ですねー。D級サメ映画のボスとかになってそうです」


「そういえば、お前はあれをどうやって避けたんだ」


 俺はアティシアに尋ねる。

 彼女もあの時に王都にいたのではないか。

 スキルでどうにかできるにしても、その方法が気になったのだ。


「あの日はなんとなく嫌な予感がしたんで、王都の外を散歩してましたねー。仕事をサボって怒られるかと思いましたが、サメ男さんのおかげで回避できましたよ」


「さすが幸運スキルだな」


「褒めても何も出ませんって」


 彼女の【運命誘導】はやはり強力だ。

 事前察知による回避もある以上、生存能力の一点特化ならどの勇者にも負けない。


 話している間に、巨大ザメは降下し始めていた。

 大口を開けて、城を丸呑みしようとしている。


 巨大ザメは圧倒的なパワーを誇る。

 一匹で都市を破壊できる上に小細工が通用しない。

 状況によっては使い勝手に難があるものの、あいつだけで戦局を一変させられる。

 まさにジョーカーみたいな立ち位置であった。


 しかも前回よりも俺のレベルが大幅にアップしてろい、それに伴って性能も強化されている。

 正攻法では敵わない怪物となっていた。


 倒されて経験値にされるリスクも存在するが、正攻法で城に踏み込む方が危険だ。

 可能な限り、遠距離から仕掛けていった方が有利には違いない。

 いきなりの切り札ということで不安があるものの、温存すべきタイミングでもないだろう。


「私達はここで待機ですか?」


「ああ。これで仕留められなかったら次の手を打つ」


「心配性ですねー。さすがのお姫様も、あれを止められるわけないじゃないですかー」


 アティシアがわざとらしく言う。

 その反応を見た俺は彼女に告げた。


「失敗したらお前の番だからな」


「えー、サメ男さんったら美少女の扱いがなってないです。もっと優しく丁重に接さないと」


「言ってろよ」


 軽くあしらいながらも、俺は妙な胸騒ぎを覚えていた。


(正直、これで仕留められる気がしない。もう少し策を打つべきだな)


 確固たる根拠はないものの、巨大ザメを過信するのは良くない。

 もしも対処されたら、そこから一気に逆転されるかもしれないからだ。


 姫は王都壊滅を経験している。

 同じ攻撃で何度も勝てるとは思わない方がいいだろう。

 もしかすると、俺に巨大ザメを使わせること自体が狙いかもしれない。

 それくらいの可能性を考えるべきだ。


 俺は数種のサメを召喚して、どんな状況にでも備えられるようにする。

 レーダー型のサーチ・シャークで、姫と勇者の動きを常に把握した。

 奴らはやはり城の中に隠れている。

 屋外に出ている者は一人もいなかった。

 激しい動きはなく、静かに待機しているようだ。


 そうこうしている間に、巨大ザメは城に噛み付こうとしていた。

 刹那、城を覆うように結界が出現する。


「多重結界ですねー。勇者の固有スキル由来でしょうし、戦術級の大魔術すら防げますよ」


「関係ない。ぶち抜いてやる」


 俺はほくそ笑む。


 向こうがいくら防御を固めようと意味がない。

 巨大ザメには、カタナ・シャークの属性を付与している。

 その歯は日本刀になっており、相手の防御を無視する。

 傷付くほどにパワーアップする性能は発揮されないが、前者だけでも十分だろう。


 巨大ザメが口を閉じて結界に喰らいついた。

 歯が食い込み、結界を粉々に砕いてみせる。

 亀裂が結界全体に広がっていく。


 巨大ザメの噛み付きが、本格的に城の上部を破壊する。

 そのまま口を閉じて齧り取ろうとしていた。

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