第77話 サメ術師は姫に追いつく

 数日後、俺とアティシアは姫の居場所を完全に特定した。

 移動を止めた姫は森の最奥に留まっていた。

 半日ほど前からそこにいる。


 逃走は諦めたらしい。

 或いは何らかの策があるのかもしれない。

 道中に何か仕掛けている可能性もあるので、俺達は慎重に接近していく。


 サーチ・シャークを参照するアティシアは茂みを掻き分けながら進む。


「この先のようですが……おお、すごいですね」


 茂みを抜けた先は開けた場所となっていた。

 半径数百メートルの範囲が焦げた大地となっており、草木が焼き尽くされている。


 そんな空間の中央部には白亜の城があった。

 テーマパークとかにありそうな典型的な外観だ。

 城は明らかに不自然だというのに堂々とそびえ立っている。


「どうしてこんな場所に?」


「おそらく勇者の固有スキルでしょう。建築系統なら可能ですし。拠点で私達を迎え撃つことにしたみたいですねー」


 城はかなりの高さで、遠くからでも分かったはずだ。

 それなのに見えなかったのは、何らかの能力で隠蔽していたからだろう。

 サーチ・シャークがいなければ見つけらなかったに違いない。


 アティシアは城を指差しながら俺に尋ねる。


「さて、向こうはこちらの存在に気付いてると思いますよ。どうやって攻略しますか?」


「そうだな……」


 俺は腕組みをして考える。

 まさか姫がこのような対応をしてくるとは思わなかった。

 予想外ではあるが、この程度で惑わされてはいけない。


(馬鹿正直に近付くのは不味いな。既に罠が張られているだろう)


 俺は城を睨みながら策を絞っていく。


 これだけ露骨なのだ。

 城には何の動きも見られないが、たぶん何かある。

 俺達が来ると悟っているのだから、対策くらいはしているだろう。

 迂闊に突っ込むのは危険すぎる。


(アティシアを先行させるという手もあるが……)


 俺は呑気な同行者を一瞥する。

 それが最も堅実であった。


 だが、万が一にもアティシアが死ぬと面倒だ。

 この先、たくさんの勇者と姫を単独で殺さなければいけなくなる。

 使い潰すのはこの局面ではない。

 どうしても無理そうなら頼むしかないが、まだ自力でやれる。


 一分ほど悩んで方針を固めた俺は、退屈そうなアティシアに告げる。


「先制攻撃だ。まずは向こうの出方を窺う」


「慎重派ですねー。じゃあお手並み拝見といきますか」


「任せろ」


 俺は固有スキルを発動する。

 その直後、体内から多量の魔力が消耗される感覚に襲われた。

 軽い倦怠感を気力で抑え込んで顔を上げる。


 空に巨大な魔法陣が浮かんでいる。

 そこからせり出してくるのは、途方もないサイズのサメだった。

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