第76話 サメ術師は先を考える

 待ち伏せしていた暗殺チームを返り討ちにした俺達は移動を再開する。

 その後、次々と同じような襲撃があったが、特に苦戦することもなく対処できた。

 暗殺チームの中で俺達の居場所が共有されているらしい。

 各地に配置されていた連中が集まってきたようだ。


 やり過ごしてもよかったが、俺達は残らず始末した。

 殺害することで経験値になるからだ。

 勇者はちょうどいい餌になる。

 おまけに新たな属性も増えるため、良いこと尽くめだった。

 移動ペースが若干落ちたものの誤差の範疇だろう。


 アティシアは小型のサーチ・シャークと進路を交互に見ながら言う。


「それにしても、お姫様の目的が分かってよかったですねー」


「向こうもわざと俺達に情報を流したんだろうけどな」


「罠だとしても向かうしかありませんよ。我々のコンビネーションを見せてやりましょう」


 乗り気なアティシアを見て、俺は眉を寄せる。


(嫌な予感がするな……)


 暗殺チームを拷問したことで、断片的な情報を取得した。


 姫は勇者召喚の基盤を再び整えようとしているらしい。

 召喚魔術を密かに改造し、呼び出した勇者を無条件で奴隷にできるようになったそうだ。

 心身ともに縛り付けて操れる仕様で、召喚に伴うコストカットも実現したという。

 早い話、莫大な資材を用いずとも、従順な勇者を召喚できるようになったのだ。


 姫は天才的な魔術師らしく、その成果を数年前からひた隠しにしていたとのことである。

 魔改造した召喚術式は、まさに彼女の切り札なのだろう。


(近いうちに反乱でも起こすつもりだったのか?)


 国王は、たぶんこれらの暗躍を知らなかった。

 姫は父親から王権を奪い取るつもりだったのではないか。


 奴隷に仕立て上げた勇者はさぞ強力だろう。

 姫には元から篭絡した勇者もいる。

 国王の戦力ではまず敵わなかったのではないかと思う。


(とにかく、勇者を呼ばれる前に片付けないとな)


 こちらの戦力は二人のままだ。

 サメは能力なので勘定に入れないとして、普通に考えれば十分すぎる。


 しかし、どうにも姫の立ち回りが不穏だ。

 暗殺チームから聞き出した情報が、ただのブラフなのが望ましい。

 ただ、都合の良い解釈は状況の悪化を招くだけだ。

 常に最悪の事態を考えるべきだろう。


(姫は俺達を誘っている。既に対抗できるだけの自信があるのか?)


 きっと追い詰められているはずなのに、それを感じさせない動きだった。

 だから不気味なのだ。


 しかし、怯えてばかりでは何も始まらない。

 どのみち放置すれば、厄介な勇者を大量に召喚される。

 守りが手薄なうちに仕留めるべきだ。


(いざとなったらアティシアを犠牲にしてでも殺す)


 俺は隣を進む勇者を一瞥する。

 呑気に口笛を吹いているが、計算高いことは知っている。


 アティシアは未だ真意が読めない。

 きっと彼女の思い描く通りの展開になっているのだろう。

 やはりどこかで崩さねば。

 俺の敵は、姫だけではないのだから。

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