第75話 サメ術師は返り討ちにする

 十分後。

 俺達の前には、十数人の勇者と兵士が転がっていた。

 拘束能力を持つバインド・シャークでどいつも捕縛している。

 ステータスの弱体化やスキル封印の機能があるため、反撃される心配はない。


 それでも念のため監視していた。

 不審な動きを取れば、密着させたボム・シャークが炸裂するようになっている。


(思ったより多かったな)


 こいつらは姫が配置した暗殺チームだ。

 標的はもちろん俺である。

 複数の移動経路を想定したそうで、等間隔で配置されたらしい。

 俺達がどのルートで追跡しても阻めるように仕組んだという。


 しかもこいつらは、発信機に似たアイテムを持っていた。

 俺達と接触したという情報を姫に送信したのだ。

 おかげで居場所がバレてしまった。


 ただし、肝心の暗殺チームは大した能力を持たない奴ばかりだった。

 どちらかと言うと、俺達の居場所を特定するのが目的だったに違いない。

 そのための捨て駒にされたのだ。

 本人達にその自覚があるのか定かではない。

 使命に衝き動かされる彼らにとって、俺達は単なる大罪人に過ぎないのだろう。


「いやはや、大漁ですねー。一網打尽ってやつですかこれは」


 アティシアはやり切った顔で汗を拭く仕草をする。

 さも活躍したように言っているが、彼女は何もしていない。

 ふらふらと敵の前に顔を出しただけだ。

 まあ、おかげで彼女に攻撃が集中して、俺はサメの操作に専念することができた。

 そういう意味では活躍したと言えるかもしれない。


 集中砲火を受けたアティシアは、やはり軽傷で済んでいた。

 ダメージと言えば擦り傷や打撲程度で、それもとっくに治癒している。


 やはり固有スキルは偉大だ。

 彼女の生存能力は油断ならない。

 たぶん俺が奇襲を仕掛けても難なく防いでみせるはずだ。


 彼女自身、勇者としての鍛練で各種戦闘術を習得しているらしい。

 真剣に戦う姿を見たことがないが、かなりの実力者だろう。


 そんなアティシアは、拘束された面々を蹴りながら嘲笑する。


「大勢で不意打ちしといて負けるのって、どんな気持ちですか? ちょっと教えてほしいです」


「やめとけ。時間の無駄だ」


「えー、こういう息抜きも大事ですよ? 異世界だってストレス社会ですし」


 アティシアは頬を膨らませて抗議する。

 ただし、ふざけているのは明白なので取り合わない。


 俺は周囲を巡回するサメを集めながら、冷酷な口調で告げる。


「必要な情報は抜き取れた。こいつらは用無しだ」


 その言葉をきっかけにサメ達が動き出した。

 バインド・シャークで動けない暗殺チームへと群がっていく。


「ちょ、おい! 待ってくれ!」


「命だけは! 命だけはッ!」


「誰か、助けてくれぇッ!」


 食い殺される人間を目にして、アティシアはわざとらしく眉を下げた。


「うわぁ、残酷ですねー。まったく躊躇しないじゃないですか」


「先に手を出してきたのはこいつらだ。因果応報だろう」


「サメ男さん、その辺りの割り切りが良いですよね。日本人の勇者って妙に甘いですが、あなたに限っては心配なさそうです」


 アティシアはどこか皮肉を込めた調子でそう言った。

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