第74話 サメ術師は対策を考える

 翌朝、俺達は外が薄暗い時間帯から移動を始める。

 行き先は王国の姫のもとだ。

 サーチ・シャークを使えば、おおよその方角は分かる。

 取り逃がす恐れはまずないだろう。

 もしもこの属性がなかったら、行方の特定に難航していたに違いない。


 姫は東へ向かっているようだった。

 国境を抜けてその先へと進んでいる。

 単独で行動しているとは考えにくいので、たぶん勇者を連れているはずだ。

 彼女には篭絡した手下が何人もいる。

 そいつらを護衛にしていると思われた。


 俺とアティシアはサメに乗り、最短距離で追いかける。

 移動手段としては最高峰だろう。

 召喚したサメは驚異的な持久力を誇り、ほとんど休みなく進み続けることができる。

 おまけに戦闘能力も高い。

 道中に魔物がいても、簡単に喰い殺してくれる。

 それで属性も増えるのだから、良いこと尽くめと言えよう。


 現在は森の中を移動中だ。

 サメに乗ったアティシアは、サーチ・シャークの反応を確かめながら語る。


「動きが迅速ですねー。国王の死に勘付いたんでしょうか」


「バレたところで問題ない。着実に追い詰めるだけだ」


「わお、それは頼りになりますねぇ。肝心の策は考えているんです?」


「少しだけな」


 俺は考え付いたいくつかの作戦をアティシアに伝える。

 もっとも、それらは大したものではない。

 眠る前に考案したに過ぎず、完璧とは言い難かった。


 そもそも俺は参謀キャラでもない。

 どちらかと言うと、力押しで進めたくなるタイプだ。

 だから閃く策もそうすごいものではないだろう。


 それだというのに、アティシアは感心したような顔をする。


「ほほー、良いですね。私抜きでも復讐できちゃいそうです」


「思ってもないことを言うなよ」


「割とこれは本音ですって。つまらないお世辞を言うように見えます?」


「見える」


「ありゃ、それは参りましたねー」


 アティシアはわざとらしく苦笑する。

 結局、俺の作戦についてどう思っているのだろうか。

 それを訊こうとしても、彼女ははぐらかしてしまう。


「とにかく、策はなるべく用意しておきましょう。お姫様もこちらを返り討ちにしようと作戦を練ってますからね。ここからは騙し合いのバトルですよ」


「お前もしっかり協力してくれよ」


「もちろんですとも。その辺りは専門分野ですので!」


 アティシアが胸を張ったその時、前方から矢が飛んできた。

 俺達を乗せたサメは素早く反応し、左右に旋回して回避する。

 木陰に隠れたところで停止した。


「おっと、さっそく襲撃ですか。お姫様の罠でしょうか。用意周到ですねー」


「残らず潰すぞ。情報を吐かせる」


「了解でーす」


 気楽に答えたアティシアは、木陰から飛び出す。

 彼女の安全は考えなくていい。

 俺は俺で好き勝手に戦ってやろうじゃないか。

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