第73話 サメ術師は標的を見定める

 俺は張り切るアティシアを見て指摘する。


「やけに積極的だな。前の戦いでは、陽動役しか受けなかったじゃないか」


「最終決戦くらい活躍したいですからねー。というか、サメ男さんだけだと負けちゃいそうですし」


「そんなに姫は強いのか?」


「狡猾な頭脳派タイプなので、敵に回すと厄介ですよ。向こうは王都壊滅で一敗したわけですから、きっと報復を狙ってます。サメのゴリ押しだと厳しいんじゃないですかね」


 アティシアは淡々と説明をする。

 ふざけた態度が目立つが、彼女は冷静に現状を見れている。

 実に分かりやすい評論であった。

 よく分析している証拠だろう。


 姫のことを狡猾な頭脳派タイプと評したが、アティシアもその分類に当てはまるのではないか。

 いや、同類だからこそ、余計に警戒しているのだろう。


 策略を駆使する人間は思わぬ底力を発揮する。

 優勢だからと油断していると、足元をすくわれかねない。

 アティシアはそう言いたいのだと思う。


(ここまでは上手く勝てたが、最後まで続くとは限らないからな)


 此度の戦闘を経て、俺の能力はさらに向上した。

 対人戦ではもはや敵なしの領域になりつつある。

 事前準備さえ怠らなければ、苦手な接近戦にも対応できるだろう。


 それを知った上でアティシアは警告している。

 理由が分からない俺ではなかった。


「お任せください。私なら良い感じの作戦を出せますよ。そこにサメ男さんの能力が加われば完璧です! 我々の愛の力で勝利を掴み取りましょう」


「寝言は寝て言えよ」


「恥ずかしがらなくていいんですよ、ほれほれ」


 アティシアはニヤニヤ顔で俺の脇腹を突いてくる。

 鬱陶しいので振り払うと、なぜか泣き真似で対抗してきた。

 とりあえずウザいから無視しておく。


 俺はため息を吐いて、プリズン・シャークの出口へと向かった。


「今日はもう遅い。朝まで寝てから出発するぞ」


「はーい、了解です。ところで国王様はどうします? もう必要ない感じですが」


「……餌にしよう」


 俺は収容された国王に手をかざす。

 すると、壁の一部がサメの頭部に変形した。


 それこそがプリズン・シャークの能力だ。

 室内のあらゆる箇所に頭部を出現させて捕食ができる。


 頭部はさっそく国王の肩に齧り付いた。

 牙が食い込んで鮮血が噴き上がる。

 ゴリ、と骨を削る音がした。


 国王は必死でサメを退けようとしながら俺を睨む。


「き、貴様ァッ!」


「あの世で反省してろよ、クソ野郎」


 俺は冷静に告げて、悲鳴の反響するプリズン・シャークを出る。

 アティシアは軽い足取りでついてきた。


「残酷ですねー。本当に召喚前はただのビジネスマンだったんですか? ちょっと信じられなくなってきましたけれども」


「本当だよ。俺だってこんなに冷酷になれるなんて思わなかった」


「極限状態で覚醒する人っていますけど、サメ男さんはまさにそのパターンでしたか」


「たぶんな」


 平和ボケしたあの頃に戻りたい。

 殺人者としての自分なんて嫌いだった。

 そのためにもさっさと復讐を完遂しなければ。

 もうすぐで、すべて片付くのだ。

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