第62話 サメ術師は歩みを進める

 数分後、送り込んだサメ達は全滅した。

 一方で向こうの戦力も崩壊寸前だ。


 アティシアはその光景を眺めながら感心する。


「いやぁ、随分と一掃されましたねー。なかなかスプラッターな光景です。サメ映画のグロさってオーバー気味な演出かと思ってたんですが、意外とリアルに忠実なんですねぇ」


「そうだな」


 さすがにもう慣れてきたが、吐き気を催すようなシーンだ。

 この元凶が俺であり、罪悪感を覚えないと言えば嘘になる。

 しかし、後悔はしていなかった。

 そんな半端な覚悟なら報復なんて考えない。


(しかし、これで全滅できなかったか)


 凄惨な戦場の中央にはまだ生き残りがいる。

 あれだけのサメを殲滅し、仲間を犠牲にしながらも生き延びた者達だ。

 その中には国王も含まれていた。


 あれは間違いなく手練れ揃いだ。

 これ以上、余計にサメを送り込んでも意味がない。

 経験値にされてしまうだけである。


 かと言って、下手に強力なサメを仕向けたとしても逃げられてしまう。

 したがって勝てそうと思わせながらも、確実に仕留められる戦力で挑まなければ。


「どうします? 生き残ってるのはかなりの厄介者ばかりですよ」


「もちろん殺す。逃がすつもりはない」


「わお、さすがサメ男さんです。その冷酷さに痺れたり憧れたりしないこともないですね、はい」


 アティシアがふざけているので無視だ。

 彼女の発言はいい加減である。

 聞き流すくらいで十分だろう。


 俺はシャドウ・アサシン・シャークの中から這い出ると、己の武装をチェックした。

 アーマー・シャークを筆頭に、近接用の備えは万全である。

 仕上げにいくつかの補助系サメを召喚するだけで完成した。


「私はここで待ってていいですか? もうお手伝いできることもありませんし」


「それでいい。俺がまとめてやる」


「頼もしいですねー。じゃあよろしくお願いします」


 ここまでは遠距離からサメを突撃させるばかりだったが、俺も本格的に参戦しようと思う。


 国王達はサメ使いを始末したい。

 姿を見せれば、間違いなく食い付くはずだった。

 それだけで逃走防止の策になる。


 正直、ハイリスクな行動には違いない。

 ただこの辺りで接近戦を経験すべきだろう。

 なるべく避けた方がいい展開には違いないが、いつまでも苦手意識を持っていると、いざという時に致命的な弱点になる。

 前から克服したいと思っていたので、ちょうどいい機会だった。


(勝算は十分にある。賭けでも何でもない戦いだ)


 俺は鮫銃を携えながら考える。

 次第に国王達の視線がこちらに集まってきた。


 勇者の中でも特に強力な人物は資料で把握している。

 特に固有スキルは記憶していた。

 加えて【勇者殺し】の効果でなんとなく伝わってくる。

 俺の能力もほとんどバレているだろうが別に問題ない。


(相手は勇者と国王だけ。計三人……いや五人だ)


 サーチ・シャークによると、隠密系スキルで居場所を誤魔化す勇者が二人いる。

 目視では確認できない。

 ただし、そこにいるのだと意識して目を凝らすと、空間の揺らぎが分かった。

 奴らの動きには注意しなくてはならない。


 他の生き残りのうち、最も目立つのは刀使いの勇者だ。

 和風の鎧を着た金髪碧眼の優男である。

 サムライ好きの勇者といったところだろうか。


 固有スキルはあの刀だ。

 魔力で自在に生成できて、防御力を無視してくる。

 さらに使い手がダメージを受けているほど性能が上昇するらしい。


 あのサムライ勇者は既に満身創痍に近い。

 死にかけに見えるが、それを逆手に侮れない一撃を叩き込んでくる。

 刀の間合いには踏み込むべきではないだろう。


 その背後に立つのは、漆黒のローブを着た女勇者だ。

 黒髪や顔立ちからして日本人と思われる。

 資料に記載された名前は憶えていないが間違いないはずだ。


 武器は持っていない。

 それは彼女が固有スキル頼りの戦い方だからだ。

 より正確に言うなら、固有スキルだけで十分なのだ。


 彼女は見えざる巨人の手を操る。

 大型の魔物を鷲掴みにできるサイズで、その透明な手を攻防に活用する。


 相手を叩き潰したり、強力な攻撃をガードできるのだ。

 基本的にオート防御に設定されており、任意で攻撃に転用するらしい。

 サムライ勇者ほどの爆発力はないものの、掴まれたら終わりと考えた方がいい。


 そして最後の生き残りが国王だ。

 鎧の上から目立たないローブを羽織って剣を握っている。

 見た目からして六十歳くらいか。

 歴戦の風格を漂わせている。


 アティシアによると魔術も使える万能型らしい。

 見かけより自在な間合いで戦えるものと考えるべきだろう。

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